「八ッ場ダムの工事の進捗状況」のグラフを見ると、付け替え国道は100%完成=供用済み、付け替え県道は86%供用済み、付け替え鉄道は概成99%・供用0%(今年10月1日供用開始予定)、本体工事は未着工であることがわかります。
道路整備などの関連工事が進んでいる一方で、水没予定地住民の生活再建の場となる筈の代替地の進捗率、分譲状況は、依然として低い水準にあります。
「代替地分譲・面積状況」を見ると、分譲予定面積34.2ヘクタールのうち、分譲済みは予定面積の半分以下の16.4ヘクタールです。
水没340世帯のうち補償済みは331世帯。当初は集落全体が代替地へ移転するはずでしたが、これまでに代替地へ移転したのは、わずか53世帯です。
非水没予定地を含めた補償対象世帯は420世帯に上ります。2005年に国交省は代替地への移転希望を問う意向調査を行っており、この時点では代替地希望が134世帯ありました。しかし、移転したのは非水没予定地を含めても84世帯にすぎません。残存戸数は14世帯ですから、2005年の意向調査の時より実際に移転する世帯数は大幅に減少することになります。
八ッ場ダム事業は生活再建関連事業が全事業費の9割以上を占める特異な事業です。代替地計画は事業を肥大化させる大きな要因となっていますが、代替地計画が実現するという国と群馬県の約束により、地元住民が押し切られてダム計画を受け入れたという経緯があります。
しかし、実際に事業が進むにつれ、代替地計画は住民を失望させ、住民の多くがそれぞれ自主的に再建地をみつけなければなりませんでした。
住民の多くが代替地をあきらめた主な要因は、以下の通りです。
1)代替地の整備が大幅に遅れていること
当初完成予定は1990年代後半であったが、いまだに完成していない。八ッ場ダム事業の補償基準は2001年に調印されたが、この時点では代替地の分譲は開始されておらず、多くの住民がこれを境に地区外に転出していった。
2)代替地の分譲地価が周辺地価よりはるかに高額であること
代替地の整備費用はダム事業からは支出されず、分譲収益から賄うことになっている。大規模な人工造成地をつくらなければならなかった八ッ場ダムの代替地の分譲地価は、2004年の代替地分譲基準によって決定したが、住民の値下げ要求は受け入れられなかった。
3)川原湯温泉の衰退
半世紀以上に及ぶダム事業によって、かつて地域の核であった川原湯温泉が衰退し、旅館関係者のほか、商店を営む人々も生活の糧を得ることができなくなった。
2014年6月現在、代替地で営業を再開している旅館が二軒、民宿一軒、建築中の旅館が一軒、水没予定地の温泉街で営業を続けている旅館が1軒となっている。
代替地は今も造成工事が行われており、本体準備工事も始まっていることから、工事現場に取り囲まれており、温泉街としては極めて厳しい環境にある。有力者がダム完成後、ダム湖観光で地域を振興させる期待を語っているが、“ダム湖観光”に期待する住民は実際にはほとんどいない。
4)人工造成地の安全性への不安
ダム湖予定地周辺では、これまでに数多くの地すべりが発生しており、地質が脆弱であることが知られている。代替地の盛り土の規模は30メートル以上の高さに及ぶ。ダム湖完成後、八ッ場ダムは洪水対策のために水位を30メートル前後上下する操作を行うことになっており、地すべりなどの災害誘発が危惧されている。現在、代替地周辺の各所で地すべり対策、代替地の安全対策のための地質調査が実施されているが、どのような対策が行われるのか、依然として不透明である。