現状レポート
(更新日:2012年5月8日)
利根川流域市民委員会
「利根川水系河川整備基本方針の策定」に関する意見書(2005年11月15日)
社会資本整備審議会河川分科会
分科会長 西谷 剛 様
委員各位
河川整備基本方針検討小委員会
委員長 近藤 徹 様
委員各位
「利根川水系河川整備基本方針の策定」に関する意見書
2005年11月15日
首都圏のダム問題を考える市民と議員の会
代表 藤原 信
水源開発問題全国連絡会
共同代表 嶋津暉之
遠藤保男
今般、河川整備基本方針検討小委員会において行われた「利根川水系河川整備基本方針の策定」に関する議論を傍聴しました。11月9日の小委員会における近藤徹委員長による「方針を書くための議論は全うした」との発言に対し異議を申し立てたく、意見書を提出します。
- 1 拙速な審議を改めるべきである
- 利根川水系河川整備基本方針案に関する審議は次回の小委員会で終わりというスピードで進んでいます。利根川水系に関しては、10月3日の第1回で1時間、10月12日の第2回で1時間、今回11月9日の第3回で2時間の審議を行っただけです。それも、その大半の時間は事務局からの説明に使われており、審議といっても、各委員が1回程度発言するだけです。利根川水系のように巨大な河川についてなぜ、このように短い時間で、議論らしい議論もしないまま、審議を終わらせようとするのでしょうか。2、3で述べるように、事務局が示した基本方針案には基本的な問題があるにもかかわらず、それがほとんどそのまま、小委員会で承認されようとしているのは、議論すべきことを議論していないからです。河川法が改正されてから早くも8年が経過しました。本来はもっと前から利根川水系の河川整備のあり方について着実な議論を積み上げてくるべきであったにもかかわらず、8年間は何もせず、この場になって急に猛スピードで審議を終わらせ、事務局案をほとんどそのまま承認しようとするのは理解しがたいことです。小委員会においては、利根川水系等の水系ごとに専門部会を設け、事務局案だけに依拠するのではなく、委員自らが専門的な検討を行い、さらにパブリックコメントを求めて、時間をかけて議論し、しっかりした審議を行うべきです。
- 2 過大な基本高水流量を見直すべきである
- 利根川水系河川整備基本方針案の大前提である毎秒22,000m3の基本高水流量(八斗島地点)はきわめて過大な値です。この数字は、200年に1回の洪水とされる昭和22年のカスリーン台風が再来した場合の計算流量ですが、その計算に用いた流出モデルは現在の流域の状態に適合させたものではありませんから、非常に過大な値が算出されています。カスリーン台風の実績洪水流量は毎秒17,000m3であって(それも観測流量ではなく、実際値よりも過大だと指摘されている)、当時の上流部の氾濫流量を加算しても22,000m3にまで膨れ上がるはずがありません。当時の氾濫面積からの検証を行えば22,000m3が架空のものであることが明らかになります。しかも、当時は戦後間もないころで、戦時中の森林乱伐により、利根川流域の山の保水力が著しく低下していた時代でした。その後、植林が盛んに行われ、森林が生長してきましたから、現在は当時と比べれば山の保水力が大きく向上しています。流域の状態の変化を踏まえた科学的な検討を行えば、カスリーン台風が再来した場合の洪水流量は22,000m3よりはるかに小さい値になるはずです。科学的な検討を何ら行うことなく、工事実施基本計画の基本高水流量の数字をそのまま踏襲したのが、今回の基本方針案です。
事務局の資料では、流量確率法と既往洪水流量によって22,000m3の妥当性を検証したことになっていますが、その検証に使った計算モデルは上記と同様に現在の流域の状態に適合させたものではなく、過大な値を算出するモデルですから、検証したことには全くなりません。
利根川水系工事実施基本計画の基本高水流量は、今から約25年前に定められたものです。その後、流量等の観測データがかなり蓄積され、解析手法も進歩してきました。工事実施基本計画の数字に固執することなく、蓄積された観測データを用いて最新の解析手法で、さらに、現在の流域の状態を踏まえて、合理的な基本高水流量を求めるべきです。
- 3 現実性のない基本方針を定めるべきではない
- 今回の河川整備基本方針案は毎秒22,000m3という過大な基本高水流量を踏襲したため、従前の工事実施基本計画と同様に、現実性のないものになっています。今回の方針案では幻の放水路といわれ、実現が不可能とされていた従来の利根川放水路はなくなりましたが、まだ、実現不可能なものが多く含まれています。その端的な例は、利根川上流ダム群の建設です。今回の方針案では利根川のダム依存分(八斗島上流)が毎秒500m3減ったとはいえ、まだ5,500m3もあります。国土交通省の計算では既設6ダムと八ッ場ダムの効果は毎秒1,600m3ですから、残りの3,900m3への対応が必要となります。今回の案では下久保ダム等の再編成や烏川での遊水池建設も行うことになっていますが、それらの治水効果はさほど大きなものではありませんので、やはり利根川水系にこれから大規模ダムを十基以上つくらなければなりません。この点は従前の計画と基本的に変わりません。
ご承知のように、利根川上流では治水目的を含む多目的ダム計画が次々と中止されてきています。中止になったダム計画は4基で、その合計貯水容量は約2億m3にもなります。治水ダムがどうしても必要ならば、中止した4ダムを治水専用にしてダム計画を再構築し、利根川上流のダム治水容量の大幅増強を図るはずですが、国土交通省はそのような検討もすることなく、4基のダム計画をあっさりと中止しました。この事実は、ダム治水容量の増強には緊急の必要性がなく、これから治水ダムを新たに計画して建設することがきわめて困難であること、事実上不可能になっていることを物語っています。以上のように今回の基本方針案は実現不可能なことを含む、現実性のない内容になっているのです。そのように現実性のない基本方針を策定して何の意味があるのでしょうか。
以上、述べたように、利根川水系河川整備基本方針に関する小委員会の審議は、最低限、議論すべき点を欠如したまま、次回で終わろうとしています。利根川は1都5県におけるさまざまな立場や利害、関心が絡む大河川でありますので、実際のデータに基づいて科学的な議論を、時間をかけて行い、事務局案の抜本的な見直しをされることを強く要望します。また、広く意見を聴取する機会を設けられることも強く要望いたします。