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「利根川水系河川整備基本方針の策定」に関する再々意見書(2006年1月20日)

現状レポート

(更新日:2012年5月8日)

利根川流域市民委員会

「利根川水系河川整備基本方針の策定」に関する再々意見書(2006年1月20日)

社会資本整備審議会河川分科会
 分科会長 西谷 剛 様
         委員各位

「利根川水系河川整備基本方針の策定」に関する再々意見書

2006年1月20日

首都圏のダム問題を考える市民と議員の会
代表  藤原 信
八ッ場ダムを考える会
代表  樽谷 修
水源開発問題全国連絡会
共同代表  嶋津暉之
遠藤保男

 1月23日の社会資本整備審議会河川分科会において利根川水系など7水系の河川整備基本方針に関する審議が行われます。各水系とも昨年12月までに開かれた河川整備基本方針検討小委員会で基本方針案の了承が得られたということで、今回の河川分科会にその案がかけられることになったわけですが、少なくとも利根川水系に関してはその方針案は根本的な問題を含んでいますので、河川分科会がそれを承認することは将来に深い禍根を残すことになります。

 今回の河川分科会に提出される利根川水系河川整備基本方針案の主要な問題点は下記の1,2,3のとおりです。現実性がなく、矛盾だらけの基本方針を策定しても何の意味もありません。流域住民の安全と河川の環境を真に守ることができる基本方針の策定が求められているのです。

 河川分科会におかれましては、拙速に基本方針案を承認することなく、それらの問題点を踏まえて、検討小委員会に対し、基本方針案の再審議を求めることを強く要望します。

 さらに、下記4のとおり、河川分科会または小委員会が「審議会等の運営に関する指針」(閣議決定)に基づいて私たち、流域住民の意見を聴取することを求めます。

 流域住民の意見にも耳を傾け、原点に立ち返って利根川水系河川整備基本方針について真っ当な審議を行ってください。

1 現実性のない利根川水系河川整備基本方針を策定して何の意味があるのか。

 今回の利根川水系河川整備基本方針案は利根川上流に数多くのダムを新たに建設することを前提としてつくられています。基本方針案では八斗島地点上流の洪水調節必要量は毎秒5,500m3となっています。河川局の計算によれば、利根川上流部にある既設6ダム+八ッ場ダムによる八斗島地点の洪水調節効果は平均で毎秒1,600m3ですから、残り3,900m3はダム等によって調節する必要があります。方針案で触れている烏川水系の下久保ダムの治水機能増強や河道内調節池の設置はさほど大きな効果はありませんので、3,900m3のほとんどは新規ダムに依存することになります。この1,600m3と3,900m3から、必要な新規ダムの基数を求めると、(烏川水系も含めて)17基にもなります。

 利根川上流では治水目的を含む多目的ダム計画が次々と中止されてきており、新たに治水目的を持つダムを計画して建設することはたとえ1基でも事実上無理になっており、数多くの新規ダムの建設は全く不可能です。そのように現実性のない基本方針を策定して何の意味があるのでしょうか。

 基本方針案が現実性を全く失っているのは基本高水流量がきわめて過大に設定されているからであって、基本高水流量を科学的な手法で求めれば、(八ッ場ダムを含めて)新たなダム建設が不要となる、現実に達成可能な基本方針に改めることができます。

 河川分科会は現実性のない基本方針案を承認しようとしていることの責任を強く自覚すべきです。

2 矛盾だらけの基本方針案をつくるべきではない。

 利根川水系河川整備基本方針案は現実性を失っているために、矛盾したことが説明され、また、矛盾したことが書かれています。12月6日の小委員会では「利根川上流では八ッ場ダムが最後のダムだ。」と、事務局が説明しました。しかし、上述のとおり、基本方針案は利根川上流に十数基以上の新規ダムをつくらないと、成り立たないのであって、事務局の説明は、基本方針案の非現実性を隠すためのものでしかありませんでした。そのことについて私たちが意見書を出したので、次の12月19日の小委員会で事務局は再度説明することを求められましたが、その再説明の内容は理解不能なものでした。

 また、基本方針案の資料では、新たに計画された下久保ダムの治水機能増強や烏川の河道内調節池の設置が強調され、烏川水系でのこれらの対策があたかも大きな洪水調節効果を持つかのように書かれていますが、烏川が利根川に合流する洪水流量(計画高水流量)は従前の計画と同じ毎秒8,800m3となっており、これらの対策にはさほどの効果がないことが露呈しています。要するに、下久保ダムの治水機能増強も烏川の河道内調節池も、「数多くの新規ダムがつくることになっている基本方針案の非現実性」をカモフラージュするために、言わばめくらましのために記述されたものなのです。

 基本方針案には上記のように矛盾した記述がいくつもあります。そのように、利根川水系基本方針案は矛盾だらけで、単に数字合わせをしただけのものなのですが、小委員会はそのような矛盾や記述のまやかしを問題にすることはありませんでした。河川分科会は、小委員会がもっと真剣に基本方針案の内容を審議することを求めるべきです。

3 来るはずがない過大な基本高水流量を見直すべきである。

 基本方針案が八ッ場ダムも含め、非現実的な数多くの新規ダム建設を必要するものになっているのは、従前の工事実施基本計画のきわめて過大な基本高水流量、毎秒22,000m3(八斗島地点)をそのまま使っているからです。この数字は、200年に1回の洪水とされる昭和22年のカスリーン台風が再来した場合の流量を洪水流出モデルで計算したものですが、その計算値には二つの面で根本的な問題があります。一つは、カスリーン台風の実績洪水流量は毎秒17,000m3であって(それも観測流量ではなく、実際値よりも過大だと指摘されている)、当時の上流部の氾濫面積から見て、17,000m3に氾濫流量を加算しても、22,000m3にまで膨れ上がるはずがないことです。計算に用いた洪水流出モデルに問題があるのです。もう一つは、当時は戦後間もないころで、戦時中の森林乱伐により、利根川流域の山の保水力が著しく低下していた時代であったことを何も考慮していないことです。その後、植林が盛んに行われた結果、昭和30年代に入ってから山の保水力は大きく向上しました。

 この二点を踏まえて、すなわち、カスリーン台風時の氾濫流量を正しく把握し、さらに森林の成長による山の保水力の向上を前提として科学的な計算を行えば、カスリーン台風の再来による最大洪水流量は毎秒22,000m3よりはるかに小さい値になります。私たちは情報公開制度を使って国土交通省の資料を入手し、科学的な検討を行った結果、毎秒22,000m3は非常に過大な流量であることを確信しました。基本高水流量を科学的な数字に直せば、もっと現実性のある河川整備基本方針を策定することができるようになります。

 河川分科会は、小委員会の河川工学専門の委員に対して基本高水流量の科学的な検証を行うことを求めるべきです。

4 河川分科会または検討小委員会は「審議会等の運営に関する指針」(閣議決定)を踏まえて関係者の意見聴取を行うべきである。

 1999年4月27日閣議決定の「審議会等の整理合理化に関する基本的計画」の別紙3「審議会等の運営に関する指針」には次のことが書かれています。

「(3)利害関係者の意見聴取等

① 審議会等は、その調査審議に当たり、特に必要があると認めるときは、当該調査審議事項と密接に関連する利益を有する個人又は団体から意見を聴取する機会を設けるよう努めるものとする。この場合において、他の関係者の利益との公正な均衡の保持に留意するものとする。
 なお、公聴会の開催等、法令に別段の定めのあるときは、それによるものとする。

② 審議会等に対して、①の意見聴取に係る申出又は審議会等に関する苦情があったときは、各府省は、庶務担当当局としてこれらの整理等をした上で、その結果を適時に審議会等に報告するよう努めるものとする。」

 現在の河川分科会や検討小委員会は①関係者の意見聴取や②意見聴取の申出などについては何ら考慮することなく、運営されていますが、それは「審議会等の運営に関する指針」に反することです。私たち、利根川流域の住民にとって利根川水系河川整備基本方針の内容、利根川の河川整備のあり方は重大な関係がありますので、意見を述べる機会が得られることを強く願っています。河川分科会または検討小委員会が「審議会等の運営に関する指針」に基づいて私たち、利根川流域住民の意見聴取を行うことを求めます。