2007年1月9日
国土交通省河川局長 門松 武 様
関東地方整備局長 中島 威夫 様
国土交通省利根川上流河川事務所 所長 藤澤 寛 様
利根川水系河川整備計画の策定に関する公開質問書の提出について
昨年12月に開かれた利根川水系河川整備計画の策定に関する有識者会議に際して、私たちは国交省・関東地方整備局に要望書を提出するとともに、各委員にも意見書を提出しました。その中で私たちは、河川法改正の趣旨に基づいて、学識経験者だけでなく流域住民を含んだ流域委員会を設置するとともに、住民と議論を重ねながら、河川整備計画の策定を進めるよう要望しました。このような要望書にもかかわらず、私たちが求めてきた住民参加型の流域委員会とはまったく異なる、住民を排除した有識者会議が設置され、住民の意見は公聴会での聴取やインターネットでの意見募集のみとされました。
これに対して、第1回の利根川・江戸川有識者会議でも、4~5人の委員から、住民の参加を強く求める意見が出され、第2回有識者会議で国交省は方針の変更を表明しました。その内容は、有識者会議委員の出席のもとに全体の公聴会を開くこと、都県別の公聴会の回数を1回では終らせないこと、当初予定していたスケジュールよりも時間をかけて策定作業を進めることなどです。委員の意見に対して方針を変更したことは評価できますが、住民参加軽視の方針は基本的に何も変わっていません。
私たちが求めてきたのは、住民の意見を聴く場を設けることだけではなく、住民が学識経験者や国交省と、利根川水系の治水、利水、環境に関して科学的な議論ができる場が設けられることです。公聴会やインターネットでの意見募集のみで議論をさせない方式では、河川整備計画に流域住民の意見を反映させるという河川法改正の趣旨は生かされません。
また、有識者会議を傍聴してあらためて感じたのは、国交省が他省庁の会議に比べて傍聴者である住民を軽んじる姿勢でした。さらに、1月10日から利根川水系河川整備計画の策定に関するパブリックコメントが始まりますが、意見を述べるにあたって住民にとって必要な基本的な事項がほとんど明らかにされていないことも大きな問題です。
そこで、これらの問題について公開質問書を提出しますので、早急に回答してくださるようお願いします。パブリックコメントがまもなく始まりますので、できれば1週間以内に回答してくださるようお願いします。なお、回答は連絡先の深澤の方へお送りください。
利根川水系河川整備計画の策定に関する公開質問書
1 住民の意見を反映させる方法の改善について
(1)有識者会議に住民が委員として参加することについて
2001年2月に発足した淀川水系流域委員会では、委員の人選は有識者からなる準備会議で審議して決定され、一般公募も行った上で「地域の特性に詳しい委員」として住民も委員として流域委員会に参加してきました。また、委員会の運営は委員会が自主的に決定し、民間シンクタンクが庶務を担って、会議、議事録などすべてを公開してきました。さらに、委員会においては傍聴席からも意見を述べる機会が設けられました。
昨年10月、国交省は住民参加のモデルというべき淀川水系流域委員会を休止する方針を示しましたが、これは河川行政を10年前に後戻りにさせるものであり、あってはならないことです。
国交省・関東地方整備局は、利根川水系においても淀川水系流域委員会に倣って、有識者会議の構成メンバーを増やし、住民を新たに委員に加える考えがないかどうかを明らかにしてください(もしその考えがないならば、その理由を示してください)。
(2)有識者会議において住民やNGOと意見交換を行う場を設けることについて
他省庁の会議、たとえば、環境省の「生物多様性国家戦略の見直しに関する懇談会」では、毎回、傍聴者の発言の機会が設けられ、また何回かの会議のうち1回はNGOと委員が意見交換を行う機会としています。このように他省庁の会議では、傍聴者やNGOとの意見交換を行う場を設けることは当然のことになっています。
利根川水系河川整備計画の策定に係る有識者会議においても、住民やNGOと意見交換を行う場を設ける考えがないかどうかを明らかにしてください(もしその考えがなければ、その理由を示してください)。
(3)公聴会を一方通行の意見表明の場ではなく、双方向に意見交換のできる公聴会に改善することについて
日本では公聴会といえば、住民が一方的に意見を述べる場であって、行政側とディスカッションを行うことはまったくできません。しかし、欧米では公聴会といえば、通常は双方向性の公聴会であって、住民は意見を述べるとともに行政側と十分にディスカッションをすることができます。
国交省は2月22日に予定している全体公聴会、および2月下旬以降に予定している都県別公聴会を、双方向性の公聴会に改善し、住民と国交省が議論できる方式に変える考えがないかどうかを明らかにしてください(もしその考えがなければ、その理由を示してください)。
(4)住民と国交省が議論をする場について
上記(1)、(2)、(3)のいずれについてももしその考えがない場合は、それらとは別に、住民と国交省が議論する場を設ける考えがないかどうかを明らかにしてください。
もしその考えがないならば、国交省が住民の意見を聴くだけの公聴会に固執し、住民と国交省との議論の場を設けることを避ける理由、すなわち、議論の場を設けることによってどのような問題が生じると考えているのかを明らかにしてください。
2 有識者会議の傍聴者の処遇の改善について
有識者会議を傍聴してみて感じたことは、傍聴者の立場が軽んじられていることです。今回の有識者会議では傍聴者は次のように扱われています。
これは他省庁の会議における傍聴者の処遇とは雲泥の差があります。参考までに、環境省の「生物多様性国家戦略の見直しに関する懇談会」において傍聴者がどのように処遇されているかを示します。
(1) 会議の傍聴は、事前にメールで申し込みができる。定刻までに行かないと傍聴を認めないということはない。
(2) 委員と傍聴者の席の間に障害となる席などはなく、委員の表情を見ながら討議内容を聞くことができる。
(3) 傍聴者にもテーブルが用意され、資料を広げながら傍聴することができる。
(4) 毎回、座長が傍聴者の発言の時間を設定している。
(5) NGOと意見交換を行う日程が設定されている。
有識者会議において国交省等の関係者にはテーブルつきの席を設け、傍聴者はその後ろのテーブルのない席に追いやり、委員の姿も見えないようにしているのは、異様な光景であり、早急に改善すべきです。
国交省は、有識者会議において、傍聴者の処遇を改善する考えがないかどうか、上記の(1)~(5)のそれぞれについてお答えください。
3 パブリックコメントで意見を述べるにあたって必要な基本的な事柄について
利根川水系河川整備計画の内容はこれから検討すべきことですが、第1回有識者会議の資料1の10ページにすでにその整備計画案の概要が示されています。そのポイントは次のとおりです。
目標治水安全度を本川1/50、支川1/30とする。
河道の配分目標流量を八斗島13,000m3/秒、栗橋14,000m3/秒、取手8,500m3/秒などとする。
八ッ場ダム、南摩ダム、湯西川ダム、渡良瀬遊水池の掘削、稲戸井調節池の掘削、印旛沼経由の新利根川放水路などの事業を行う。
パブリックコメントで意見を述べるにあたってはこれらのことを裏付けるデータが必要ですので、下記の質問にお答えください。
(1)30年間の利根川水系の想定予算
利根川水系河川整備基本方針の目標治水安全度は本川1/200、支川1/100ですが、河川整備計画では本川1/50、支川1/30となっています。30年間で実施する予定の整備計画で目標治水安全度を1/50などに下げるのは予算の制約があるからですが、国交省は利根川水系に30年間で投じられる予算を何兆円と考えているのか、およその30年間の想定予算を明らかにしてください。
(2)本川1/200、支川1/100を達成するまでの年数と予算規模
利根川水系河川整備基本方針の目標治水安全度、本川1/200、支川1/100を達成するまでにおよそ何年かかり、どれくらいの予算が必要だと考えているのか、この目標治水安全度を達成するまでのおよその年数とそれに要するおよその予算規模を明らかにしてください。
(3)河道目標流量と目標治水安全度との関係
河川の治水計画を立てる場合はまず、目標治水安全度に対応する洪水ピーク流量を設定し、次にその設定流量をダム等の洪水調節施設で対応する分と河道で対応する分に振り分けます。ところが、利根川整備計画の上記の案では不可解なことに、先に河道で対応する目標流量がきまっています。河道の配分目標流量、八斗島13,000m3/秒、栗橋14,000m3/秒、取手8,500m3/秒は本川の目標治水安全度1/50からどのように導き出されたのか、これらの目標流量と目標治水安全度との関係を明らかにしてください。そして、八斗島、栗橋、取手の河道配分目標流量の計算根拠を明らかにしてください。
(4)洪水調節前の目標流量
河川の治水計画を策定する上で最も重要なことは目標治水安全度に見合う洪水目標流量、すなわち、ダム等による洪水調節前の目標流量を何m3/秒に設定するかです。過大ではない必要十分な治水計画を策定するためには、この洪水調節前の目標流量が科学的に求められていなければなりません。整備計画の案では本川1/50に見合う八斗島地点の洪水調節前の目標流量を何m3/秒としているのかを明らかにしてください。そして、その計算根拠を明らかにしてください。
(5)現況河道能力との関係
2005年11月9日に開催された国交省社会資本整備審議会河川分科会河川整備基本方針検討小委員会の参考資料8の3ページ右上に利根川の「現況流下能力」が記されていますが、それによれば、八斗島から栗橋までの区間は14,000m3/秒程度以上の流下能力となっています。上記の整備計画案の概要では河道の配分目標流量は八斗島13,000m3/秒、栗橋14,000m3/秒ですので、八斗島から栗橋までは整備計画案の目標流量を上回る流下能力がすでに確保されていることになりますが、そのように考えてよいかどうかを明らかにしてください。
(6)目標治水安全度本川1/50と個別事業との関係
上記の整備計画案の概要では八ッ場ダム、南摩ダム、湯西川ダム、渡良瀬遊水池の掘削、稲戸井調節池の掘削、印旛沼経由の新利根川放水路といった事業が記されています。しかし、これらのうち、前の五つの事業は目標治水安全度1/200の工事実施基本計画の時代に計画されたものであり、新利根川放水路はやはり目標治水安全度1/200の河川整備基本方針の中で浮上したものであって、本川1/50の目標治水安全度の計画で本当に必要なものかどうかはまったく明らかにされていません。本川1/50の目標治水安全度の治水計画でこれらの六つの事業がなぜ必要となるのか、その計算根拠を明らかにしてください。