カスリーン台風ほどの大規模な洪水ではない近年の洪水においても、利根川の堤防や堤防下の地盤からの漏水が至る所で発生している。幸いにも水防団による懸命の水防活動により事なきを得ているが、これらの漏水はそのまま放置すれば堤防決壊につながる可能性がある非常に危険な現象である。
利根川の堤防や堤防下の地盤からの漏水の発生は堤防が決壊する兆候でもあるので、緊急にその対策を講じなければならないことは言うまでもない。しかし、それは堤防とその地盤を補強して対応すべきことであって、八ッ場ダムに堤防漏水の防止を期待するのは筋違いであり、非科学的である。
図3は平成13年9月洪水において堤防の漏水が問題になった加須市付近の利根川横断図の模式図である。この洪水で八ッ場ダムがあった場合の八斗島地点での最高水位の低下を八ッ場ダム予定地近傍の岩島地点の観測流量から計算すると、最大で見て10cm程度である。加須市付近の同洪水の最高水位は同図のとおり、堤内地(堤防の外側)の地盤高から約4mの高さにある。漏水量は洪水位と堤内地盤高の差に比例すると考えられるから、八ッ場ダムによる水位低下を加須市付近でも10cmとすれば、それによる漏水減少率は0.10m ÷ 4m = 3%に過ぎない。そのわずかな漏水の減少を期待して何の意味があるのだろうか。知事たちは、堤防からの漏水を防ぐために堤防を補強することをなぜ、真っ先に考えないのであろうか。
知事たちが都県民の生命と財産を守るために、洪水の氾濫を防ぐことを真剣に考えているならば、堤防の補強対策の早急な実施を国に求めるところであるが、それをせずに、筋違いの八ッ場ダムの完成を求めるのは、知事たちが都県民の生命と財産を守ることにさほどの重きをおいていないことを示している。
» 3.暫定水利権は長年取水し続けているもので、実質は安定水利権と変わらないものであるから、
国交省の水利権許可制度の改善で解消することができる。