(平成8年の取水制限において)仮にその時に八ッ場ダムが完成していたとすれば、取水制限日数を100日減少させることができる。
渇水が起きることがあるのはほとんど夏期である。夏期において八ッ場ダムは洪水調節のため、水位を大きく下げるので、利水容量が2,500万m3しかない。これは利根川水系にある11基の既設ダムの夏期利水容量約4億5千万m3に対して約5%にしかならず、八ッ場ダムができても、渇水に対する利根川の状態がさほど変わるわけではない。
平成8年渇水において八ッ場ダムがあれば、取水制限日数を100日短縮できたという計算結果を国交省は示しているけれども、その計算根拠資料を情報公開請求で入手したところ、次に述べるように現実を無視した架空の計算によるものであることが明らかになった。
(1) 八ッ場ダムを渇水対策専用ダムに変更
利水に関しては東京都水道や埼玉県水道などの水利権を開発するという目的は放棄して、八ッ場ダムを専ら渇水対策専用ダムに使うことにしており、ダムの目的を大きく変更している。
(2) 八ッ場ダムの貯水量が取水制限前までは常に満水という仮定
取水制限に入るまでは八ッ場ダムの貯水量が満水に維持されるという仮定をおいて計算している。実際のダムの貯水量は雨の降り方によって増減を繰り返すものであるにもかかわらず、八ッ場ダムの貯水量は取水制限前までは常に満水に維持されている。
(3) 各ダムの貯水量を合算で計算(八ッ場ダムで補給できない地点も八ッ場ダムで補給することに)
ダムの運用計算は各ダムごとに行うべきであるにもかかわらず、八ッ場ダムを含めて利根川水系ダムの貯水量を合算して計算しているため、八ッ場ダムで補給できない地点(たとえば利根川上流の岩本地点)まで八ッ場ダムから補給することになるという現実無視の計算になっている。
以上のとおり、この計算は国交省が八ッ場ダムの有効性を示すために形振りかまわず、現実を無視して行ったものに過ぎない。
以上述べたとおり、「1都5県知事共同声明」が八ッ場ダムの建設を求める論拠は事実認識の誤りによるものであって、八ッ場ダムは治水・利水の両面で必要性が失われている。
1都5県の知事は以上の事実を踏まえて、八ッ場ダムについて合理的な判断を行うべきである。