グラフ作成:嶋津暉之
利根川流域6都県(茨城・東京・千葉・埼玉・群馬・栃木)の上水道の一日最大給水量は、図1のとおり、1990年代に入ってからほぼ減少の一途を辿るようになり、1992年度から2016年度までの21年間に259万㎥/日も減りました。この減少量は八ッ場ダムの開発水量143万㎥/日(通年換算量)の1.8倍にもなります。
ところが、国交省は同図のとおり、第5次利根川荒川フルプラン(水資源開発基本計画)で水道用水は実績の傾向とは逆方向に急速に増加し続けるという架空予測を行って、八ッ場ダム等の新規水源開発が必要だとしています。
6都県の水道用水が最近約20年間、減少の一途を辿ってきた要因は、一人当たり給水量が年々減ってきたことにあります。図2のとおり、1992年度の491リットル/日から2016年度の349リットル/日へと、29%も減りました。一人一日最大給水量の減少要因は、①節水型機器の普及等による節水の進行、②漏水防止対策による漏水の減少、③一年を通しての生活様式の平準化による給水量の変動幅の縮小です。今後も節水型機器の開発と普及が進んでいきますので、一人一日最大給水量の減少傾向が続きます。
一方、人口については6都県全体としてはわずかに増加傾向にありますが、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、図3のとおり、2015年以降は減少傾向に変わります。このように、今後は一人当たり水量だけではなく、人口も減少傾向に向かいますので、水道用水の需要が縮小の一途を辿っていくことは確実です。
工業用水も図4のとおり1990年代から減少の一途を辿っています。
水道用水の減少傾向は、人口の一極集中が進む東京都で最も顕著です。図5のとおり、東京都水道の一日最大給水量は617万m3/日から2019年度(8月までの最大値)は459万m3/日に減少しています。
これも一人当たり給水量が大きく減少したことによるものです。
図6のとおり、東京都の一人一日最大給水量は1992年度から現在まで約35%も減りました。水需要の実績がこのように大きく減少してきているにもかかわらず、東京都は今後は水需要が急増していくという架空予測を行っています(図5、図6)。
一方で、利根川・荒川水系ではダム等の水源開発事業が次々と完成したことにより、各都県は十分な水源を保有するようになりました。
東京都水道を例にとれば、図7のとおり、使用実績を踏まえて保有水源量を評価すれば、694万m3/日もあります。2018年度の一日最大給水量470万m3/日に対して224万m3/日という大量の余裕水源を東京都は抱えています。
今後は水需要の規模縮小でこの水余り現象が一層進行していくのですから、八ッ場ダムなどの新規水源開発が今や無用のものになっていることは明白です。
千葉県の水道用水は1990年代後半から横ばいになり、2000年代になってからは漸減の傾向が続いています。(図8)
千葉県営水道の給水量も横ばいないしやや漸減の傾向になっています。2012年の湯西川ダムの完成で、余裕水源は約30万㎥/日にもなっています。(図9)
千葉県営工業用水道も同様です。給水量は漸減の傾向で、千葉関連四地区工業用水道の余裕水源は約20万㎥/日になっています。(図10)
〔注〕千葉関連四地区工業用水道:千葉地区、五井姉崎地区、五井市原地区、房総臨海地区で、八ッ場ダムの水源を予定している千葉地区と給水管が接続されています。
埼玉県の水道用水は1990年代になってから横ばいになり、さらに2000年代になってからは漸減の傾向が続いています。荒川の滝沢ダムが2010年度に完成して、余裕水源が約80万㎥/日にもなっています。(図11)
埼玉県水道が八ッ場ダムや思川開発(南摩ダム)に参画する理由は、利根川の農業用水転用水利権の冬期分を確保することにありますが、冬期は農業用水の取水が激減することにより、流況に余裕がありますので、実際には冬期の水源確保は必要ありません。(表1)
埼玉県の計画では各市町村水道で使用している地下水を減らすことになっていますが、埼玉県の地盤沈下は20年前から沈静化しており、水道用地下水の削減は不要で、地下水を現状よりもっと利用することも可能です。(図12)
群馬県の水道用水は、1990年代になってから減り続けています。一日最大給水量は1990年度は120万㎥/日でしたが、2014年度には92万㎥/日まで減っています。(図13)
群馬県営水道の取水量は各市町村水道の自己水源(地下水)を減らしてきたことにより、2000年代は横ばいの傾向になっていますが、県営水道全体の余裕水源は14万㎥/日もありますので、新たな水源は不要です。(図14)
群馬県水道が八ッ場ダムに参画する理由は、埼玉県と同様、広桃用水水利権の転用で得た水利権の冬期分を確保することにありますが、冬期は農業用水の取水量が激減するため、利根川の流況は余裕があり、この計画自体は意味がありません。
茨城県利根水系の水道用水は、1990年代後半から横ばいの傾向が続いており、茨城県の水需要予測は全くの架空予測なっています。(図16)
茨城県の利根水系工業用水道の給水量も横ばいの傾向が続いています。工業用水道は霞ケ浦開発の水源を大量に抱えているため、余裕水源が約50万㎥/日にもなっています。(図17)
茨城県はこの工業用水道の余剰水源を水道に転用すればよく、八ッ場ダム等の新たな水源開発を全く不要です。