八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダムと発電

八ッ場ダムとは

ダム建設の目的

(更新日:2018年11月16日)

八ッ場ダムと発電

八ッ場ダムができると、水力発電量が大幅に減少

晴天日には流量が少ない吾妻川(ダム予定地)

晴天日には流量が少ない吾妻川(ダム予定地)

2008年のダム基本計画の変更で八ッ場ダム事業に発電目的が加わりました。これは八ッ場ダム直下の吾妻渓谷に群馬県営の発電所を設置して、ダムからの放流水を利用して発電を行うものです(従属発電)。最大発電力は11,400kW、年間発電量は平均で約4100万kW時です(最大使用水量13.6m3/秒、有効落差104.94m)。

このことから、国交省と群馬県は、八ッ場ダムはクリーンエネルギーも供給すると宣伝し、また、2011年の福島第一原発事故で、水力発電を八ッ場ダムに期待する意見も出ています。しかし、実際は逆であって、八ッ場ダムができると、水力の発電量が大幅に減少してしまうのです。

八ッ場ダムが計画されている吾妻川流域には数多くの発電所があります。吾妻川は酸性度が高く、水質が悪い川ですが、1960年代から開始された中和事業により、発電には支障がありません。

水力発電所に吾妻川の水を運ぶ送水トンネル

水力発電所に吾妻川の水を運ぶ送水トンネル

吾妻川の水力発電所では流れ込み式で発電が行われています(下図1)。ダム予定地近辺から吾妻川下流にかけては六つの東京電力の発電所があって、それらの最大出力は合計112,400kWもあります(下表1)。吾妻渓谷と並行して走っている松谷発電所への送水トンネルには最大で25.6m3/秒の水が流れていて、そのような大量の水を使って発電が行われています。松谷発電所で使った水はそのすぐ下流の原町発電所へと、順繰りに送られるため、発電用水が川に戻るのは吾妻川が利根川に合流してからです。

八ッ場ダム予定地上流の取水堰では、下流の発電所に送水するため、吾妻川の水が晴天日はほほ全量が取水されており、ダム予定地付近の吾妻川の流量が随分少なくなっています。

このままの状態で八ッ場ダムができても水が十分に貯まらず、ダムの機能を果たすことができません。そこで、八ッ場ダムができた場合は現在、東京電力の発電所に送られている水の大半を吾妻川に戻して、ダム貯水池に入れる必要があります。その影響は直下の松谷発電所だけでなく、下流側の発電所にも及ぶため、八ッ場ダムが完成すると東京電力の発電所の発電量が大きく減少することになります。

1998~2007年の10年間の実績流量を使って、八ッ場ダムができた場合の東電発電所の発電量の減少を試算すると、条件によって結果が変わりますが、現実的な条件では年平均で17,700~20,500万kW時にもなります。

このように、八ッ場ダムができると、新設される八ッ場ダム発電所が生み出す発電量約4100万kW時の4.3~5倍にもなる発電量が既設の東電発電所から失われます。

八ッ場ダムは発電量を増やすものではなく、既設の水力発電所でつくられている電力を大きく減らすものなのです。今回の原発事故で水力発電の重要性が高まってきましたが、その面でも八ッ場ダムをつくることは大きなマイナスになってしまうのです。

なお、八ッ場ダムをつくる場合は、これまでの発電用取水量の大半を八ッ場ダムに貯めるようにするため、国が巨額の減電補償金を東京電力に支払わなければなりません。その金額は160~230億円になるとも予想されますが、国交省は私企業との交渉内容を明かせないとの理由から、予想される減電補償額を明らかにしていません。この減電補償は八ッ場ダムの事業費をさらに増額させる要因にもなります。

※数字は水力発電所への送水量(m3/秒)を示す。

表1:八ッ場ダムによって影響を受ける東京電力(株)水力発電所
20110403

吾妻川流域は火山灰など火山性の堆積物からなる地層なので、水もちがよく、降った雨が浸透してゆっくり流出するため、晴天日も流量が豊富な川です。
吾妻川流域はいわば天然のダム湖のような機能を持っています。

その豊富な流量をあてにして、大正、昭和の初めの頃から吾妻川には流れ込み式の水力発電所が数多く設置され、晴天日においても大量の電力を生み出しています。

東京電力松谷発電所

東京電力松谷発電所

なお、東電の減電問題について八ッ場ダムの県営発電所から東電の発電所まで導水管を設置して、ダム放流水を既設発電所に使う計画が進められていますが、どれほどの効果があるのか、分かりません。

八ッ場ダムに設置される予定の県営発電所の放流口は標高470mです。
八ッ場ダム予定地から最も近く、影響が最も大きい吾妻渓谷下流の松谷発電所は標高が約480mですから、松谷発電所に導水するためには新たに電力を消費しなければならず、また、たとえ導水しても発電に使うことはできません。

松谷発電所の背後の山には、吾妻川の水が東京電力の導水管を通って流れ込む調整池(鍛冶屋沢ダム・昭和4年完成)があり、松谷発電所はこの調整池との標高差を利用して、有効落差115mで発電しています。

導水管で鍛冶屋沢ダムに運ばれる吾妻川の水

導水管で鍛冶屋沢ダムに運ばれる吾妻川の水

鍛冶屋沢ダム

鍛冶屋沢ダム

鍛冶屋沢ダム

鍛冶屋沢ダム

 

したがって、導水するとすれば、松谷発電所出口の放流管まで導水管を設置して、その下流の原町発電所で使うようにするしか方法がありません。その距離は約3kmありますので、導水管を設置するとすれば、10億円以上の工事費が必要になると予想されます。その工事費は八ッ場ダム事業費に入っていません。

導水管の構想はもともと東吾妻町に固定資産税が入るということから、東吾妻町から浮上してきた話であって、事業主体も費用負担も何も決まっていない不確かな話なのです。 

そして、松谷発電所から毎秒2.4m3の河川維持用水を吾妻川にたえず放流することが必要ですので、仮にこの導水管が設置されても、試算をしてみると、東電の減電量は大きくは減りません。

したがって、巨額の費用をかけて導水管を敷設する経済的なメリットがあるかどうかも分かりません。

以上のとおり、八ッ場ダムによって水力発電量が大きく減ることは避けられないことであると考えられます。