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洪水調節ルールの変更

八ッ場ダム事業の問題点

ダム計画の迷走

(更新日:2013年10月19日)

洪水調節ルールの変更

八ッ場ダムの主目的の一つである、「利根川の洪水調節」(治水)には、河川工学の専門家から多くの疑問が寄せられています。 参照⇒「期待できない治水効果」
2013年の基本計画の変更では、「洪水調節ルール」も変更されることになりましたが、このルール変更によって、大洪水が来たときは八ッ場ダムがパンクして、洪水調節の役には立たない、という危険性が作りだされることになりました。

国交省関東地方整備局は八ッ場ダム基本計画の四回目の変更案を公表し、関係都県は各議会で変更案に同意するための採決を行っています。

今回の基本計画変更案では、「工期の延長(八ッ場ダムの完成を2015年度から2019年度へ延期)」に焦点が当てられていますが、変更内容にはその他に「洪水調節ルールの変更」が盛り込まれています。
「八ッ場ダムの洪水調節量2,400m3/sを2,800m3/sに変更する」というものです。

(以下、群馬県議会配布資料)

治水に関する用語や数字による説明はわかりにくく、一見、八ッ場ダムの治水効果を引き上げるためのルール変更のようにも見えますが、今回の洪水調節ルールには大きなマイナス面があります。それは、このルール変更によって、大洪水が来たときは八ッ場ダムがパンクして、洪水調節機能を失ってしまう危険性がつくり出されるということです。さらに、ルール変更で洪水調節量が大きくなるという説明も事実と違っています。

1 現在の基本計画と基本計画変更案の洪水調節ルール

(1)現在の八ッ場ダム基本計画の洪水調節ルール

現在の八ッ場ダム基本計画の洪水調節ルールは大洪水の到来に対応できるように、次のように設定されています。計画洪水の最大流入量は3,900m3/s、最大放流量は1,500m3/sです。(下図参照)

 ① 流入量が400m3/sに達したら調節開始し、400m3/sを超える分の69%をカットする。
   放流量=(流入量-400)×0.31+400 (一定率方式)
 ② 流入量のピーク以降は1,500m3/sの一定量で放流する。(一定量方式)

(2) 基本計画変更案の洪水調節ルール

基本計画変更案の洪水調節ルールは大洪水より小さい洪水に対応できるように、次のようになっています。計画洪水の最大流入量は3,000m3/s、最大放流量は1,000m3/sです。(下図参照)

 ① 流入量が200m3/sに達した時に洪水調節を開始し、ピーク時まで200 m3/sの一定量で放流する。
 ② 流入量のピーク後は、洪水調節開始からピーク時までの時間をかけて、次式の放流量まで増加させ、次式で求めた放流量に達した時は、一定量(最大1,000m3/s)で放流する。
   放流量=(最大流入量-200)×0.28+200

(3)洪水調節量

洪水調節量は最大流入量と最大放流量の差で示します。現基本計画のルールによる洪水調節量は3,900-1,500=2,400m3/sです。一方、計画変更案のルールによる洪水調節量は3,000-1,000=2,000m3/sです。したがって、洪水調節量は計画変更で400m3/s小さくなります。

ところが、関東地方整備局は計画変更案のルールについては最大流入量3,000m3/sの流入時点の放流量が200m3/sであることから、両者の差をとって3,000-200=2,800m3/sを洪水調節量としています。しかし、その後、放流量が1,000m3/sまで増加するのですから、この洪水調節量の表し方は正しくありません。

計画変更案の説明では、この2,800m3/sと、現基本計画の上記の洪水調節量2,400m3/sとを並記し、あたかも洪水調節量が大きくなるような印象を与えています。国がこのようなまやかしの説明をしてよいのでしょうか。

2 洪水調節ルール変更の本当の理由(ダム検証で八ッ場ダム案を最適案にするための便法)

今回の変更案は2010~2011年の八ッ場ダムの検証で使われた洪水調節ルールを基本計画に反映させるものです。
八ッ場ダムの検証では、関東地方整備局は現在の基本計画で定められている洪水調節ルールを使わずに、新たに作った洪水調節ルールを使用して治水効果の計算をしました。

利根川の治水基準点、群馬県伊勢崎市八斗島(やったじま)地点

利根川の治水基準点、
群馬県伊勢崎市八斗島(やったじま)地点

関東地方整備局は八ッ場ダムの検証では、利根川の治水基準点である八斗島(やったじま)地点(群馬県伊勢崎市)において17,000m3/s規模の洪水を対象としましたので、この規模の洪水で八ッ場ダムの効果が最も大きくなるように洪水調節ルールを変えたのです。
その結果、八斗島地点における八ッ場ダムの効果は下図のとおり、関東地方整備局の従来の公表値より格段に大きくなりました。

八ッ場ダムの削減効果に関する従来の公表値は、基本高水流量22,000m3/s(八斗島地点)に対して平均600m3/sで、削減率は2.7%でした。ところが、変更された洪水調節ルールでは、八斗島地点17,000m3/sに対する八ッ場ダムの削減効果が平均1,176m3/sと、削減率が6.9%になり、従来の2.7%の2.6倍にもなりました。

この治水効果を前提として、治水代替案の事業費が見積もられたため、それらの事業費は八ッ場ダムの残事業費より、下表のとおり、格段に大きくなり、八ッ場ダムが最適の治水対策案であるという結論が導かれました。

これまでも関東地方整備局はその時々に八ッ場ダムを推進するのに都合のよいように数字を操作してきましたが、今回も治水効果の数字を操作することによって、八ッ場ダム案が治水上、最適案として選択され、八ッ場ダム中止の政策を覆す理由の一つとなったのです。

3 大洪水が来たときは八ッ場ダムはパンク

新しい洪水調節ルールは根本的な欠陥があります。このルールでは八ッ場ダムは小さい洪水から貯留していくため、現基本計画で想定されているような大洪水が来たときは、その洪水ピークが来る前に洪水調節容量が満杯になって、洪水調節機能を失ってしまいます。

下図は現基本計画の想定洪水(最大流入量3,900m3/s)を変更案のルールで調節した場合です。洪水ピーク流量3,900m3/sが来る前に、概ね3,500m3/sで洪水調節容量は満杯になり、それ以降は洪水調節量はゼロとなり、流入量がそのまま放流量になります。最大流入量3,900m3/sもそのままダム下流に流れてしまうことになります。

このように、関東地方整備局が今回の計画変更案に盛り込んだ洪水調節ルールの変更は、大洪水の到来には対応できないものなのです。

利根川(群馬県前橋市、県庁横 2009年11月15日撮影)

利根川
(群馬県前橋市、県庁横 2009年11月15日撮影)

利根川(台風18号通過直後 前方は榛名山 2013年9月16日撮影)

利根川
(台風18号通過直後 前方は榛名山 2013年9月16日撮影)