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豊かな森林生態系の指標種とされるイヌワシ、クマタカは全国的に減少しており、八ッ場ダム予定地域は数少ない貴重な営巣地とされてきました。 イヌワシ、クマタカなどの猛禽類は、食物連鎖の上位に位置し、広い行動圏を有していることから、地域の生態系の変化による影響を受けやすいとされます。このため、現地ではダム事業によって環境影響調査が行われてきました。 八ッ場ダム予定地域では大規模な道路や代替地造成などのダム関連工事がいたる所で進められており、イヌワシはもはやいないという報道がありましたが、「クマタカが飛んでいるのを見た」、「イヌワシも最近見かけた」という情報も寄せられています。 2013年12月、以下の報告書を情報公開手続きにより入手しました。これらの報告書によって、クマタカは八ッ場ダム予定地で今も営巣しており、イヌワシのつがいも新たに出現したことが明らかになりました。
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ミサゴ、ハチクマ、オジロワシ、オオタカ、ツミ、ハイタカ、サシバ、クマタカ、イヌワシ、ハイイロチョウヒ、チョウヒ、ハヤブサ、コチョウゲンボウ
このうちイヌワシ、クマタカは環境省のレッドデータブックに絶滅危惧種として指定されており、イヌワシは国の天然記念物にも指定されています。
平成7年2月より、イヌワシを主対象とした猛禽類調査が実施された。平成10年9月までの調査の結果、イヌワシの営巣地が確認された。
イヌワシは平成7~8年、10~11年に繁殖の成功、雛の巣立ちが確認された。
しかしその後、7年連続で雛の巣立ちは確認されず、平成18~19年にメス親が、平成19~20年にはオス親も確認されなくなった。
平成23年12月、営巣地に新しいつがいが出現し、繁殖活動を9年ぶりに確認した。平成24年にも繁殖活動が確認されたが、産卵には至らなかった。
イヌワシの繁殖に影響を与える範囲(巣から1,200メートル以内)の工事については、イヌワシの繁殖が始まる10月から工事を一時中断しているため、工事が繁殖に影響を与えたとは考えられない。
以上より、平成24年繁殖シーズンは、つがいメスが繁殖できる状態に至っていない未成熟の個体であったため、産卵に至らなかった可能性が考えられる。
八ッ場ダム関連の工事は平成6年に始まりましたが、当初は工事用進入路などの小規模工事が多く、道路や橋の建設、代替地の造成工事などの大規模工事はその数年後から始まりました。
報告書では、ダム予定地のイヌワシの繁殖活動が9年間空白であったことを記していますが、その原因については触れられていません。
平成23年に新たにイヌワシのつがいが出現したとされていますが、今後、ダム湛水によりどのような影響を受ける可能性があるかについても不明です。
クマタカは森林環境に周年生息し、小型鳥類から中型哺乳類まで森林に生息する動物を餌としており、イヌワシにくらべて餌動物が多様である。また、イヌワシの行動圏は調査地域に比べて広大である。こうした理由から、生態系の上位にある注目種としてクマタカが選定され、平成10年12月より生息分布の状況、繁殖状況、行動圏内部構造の把握を目的として、広域的に大規模な調査が実施されてきた。
平成10年12月~23年8月までの調査で、合計104地点、のべ調査員5,200名により、八ッ場ダム事業実施区域およびその周辺で観察が行われてきた。この間、合計約7,930例が観察された(繁殖つがいとその幼鳥、繁殖に関わっていない個体含む)。
この地域におけるクマタカは、落葉広葉樹林が優先する地域に最も多く分布している。繁殖活動は秋季から始まり、11~12月頃にはディスプレイが活発に見られるようになり、1月に入ると交尾や巣材運びが行われる。3月中旬には産卵し、遅くとも8月には巣立つと考えらえる。
調査の結果、クマタカ8つがいが確認された。このうち5つがいについては、八ッ場ダム事業区域と関連があることが確認された。
クマタカ7つがいについては、平成10年12月から平成23年9月までの調査で、繁殖の成否が確認された回数は延べ69回であり、このうち繁殖成功が延べ25回確認された。
平成24年は調査対象とした6つがいのうち、1つがいのみ繁殖に成功した。
工事期間中のクマタカの繁殖成功率は低下する可能性があり、環境への影響があるという予測結果を得た。事業による影響を回避・低減させるため、環境保全対策(騒音・振動の影響抑制や、生息環境の攪乱抑制、クマタカの繁殖期間中、一部工事を必要に応じて一部中断するなど)を行うことにより、クマタカの生息は維持され、生態系の変化は最小限にとどめられると考えられる。
これらの保全対策により、環境影響は事業者の実行可能な範囲でできる限り回避または低減されていると考える。長期的には各つがいは生息し、繁殖活動は維持されると考える。
また、猛禽類の調査は、環境保全という目的のために実施されることになっていますが、これらの調査に基づいて行われてきた環境保全対策がどれほど有効であったかは、報告書からはわかりません。
八ッ場ダム予定地では、調査のために発信器や足輪をつけたクマタカの幼鳥の姿が見られます。
環境影響調査自体がダム事業の一環として行われていることから、調査がクマタカの繁殖活動に負荷をかけることを心配する声も聞かれます。
現在、ダム予定地では山の中腹で道路建設、代替地の造成などの地形を改変する大規模工事が行われており、棲家を追われた動物が人家の少なくなった水没予定地に以前より多く見られるようになっています。ダム湖への湛水は、これらの動物の行き場を奪うことになります。八ツ場ダム(長野原町)の建設予定地周辺で、環境省のレッドリストで近い将来の絶滅の危険性が高いとされるクマタカのつがい7組(14羽)を、国土交通省が確認していたことがわかった。国交省が環境アセスメントに準じた形で政権交代前に用意していた報告書に、生息状況を記していた。報告書はダム建設工事で「繁殖活動が低下する可能性がある」と予測している。(菅野雄介)
朝日新聞が入手した報告書は「八ツ場ダム 環境保全への取り組み(案)」と題し、当初は2009年8月の公表を予定していた。河川工学や生物研究者ら10人の有識者による第三者機関「八ツ場ダム環境検討委員会」が、水質や生物の生息調査などのデータをもとに、ダム建設が環境に与える影響を08年末から分析した結果をまとめた。
クマタカの定点観察などの調査は、1998年12月~07年10月の繁殖期にダム予定地周辺で行われた。この間の9回の繁殖期に、クマタカのつがい7組による計18回の繁殖成功を確認したという。
同様に絶滅が危惧されているイヌワシのつがい1組も06年2月以前には繁殖を確認していたが、現在は生息が確認できていないとした。
報告書は、クマタカやイヌワシを保護するために、騒音や振動、森林伐採などの抑制や工事時期の配慮などの対策を取ることで生息が維持されると結論づけている。
このほか報告書では、県のレッドデータブックなどに「絶滅の恐れのある野生生物」として掲載されている動物類189種、植物類31科51種を確認したことを記載する。
動物類では、哺乳(ほ・にゅう)類のイタチや昆虫類のムカシトンボ、ゲンジボタル、ミヤマシジミ、両生類のシュレーゲルアオガエルなど29種が「主な生息環境の一部が直接改変により生息に適さなくなり、生息の状況が変化する可能性がある」として、人工的な生息環境の整備で対応する方針を記した。
植物類は、環境省レッドリストの「準絶滅危惧」に掲げられたアギナシやナガミノツルキケマンなど24種が、「生息地が消失する」とされ、移植や種子の採取で対応するとしている。
99年施行の環境影響評価法(環境アセスメント法)では、ダムも、住民に情報を公開して意見を求める環境アセスの対象とされている。
一方、八ツ場ダムは、99年以前に付け替え道路などの関連工事に着手していたため、法に基づく環境アセスについては対象外だった。しかし、国交省は、昨年の環境検討委やその報告書を「法アセスに準じた環境への配慮」と位置づけていたという。
朝日新聞がこの報告書の存在を報じた直後の09年11月、前原誠司国交相は水質については「できる限り開示していきたい」と発言し、報告書の基になった水質データを昨年末から順次公開している。
ただ、国交省関係者は「報告書自体はダムを造る前提でまとめたものだ。(ダム建設が中止の方向になった現在では)意味がなくなった」と言う。同省関東地方整備局は生物の生息調査のデータについては「公表の見通しは立っていない」としている。