さる6月12日、上毛新聞が八ッ場ダムの本体打設が14日に始まるとの記事を掲載しました。読売新聞も同日午後7時過ぎにコンクリート打設のニュースをネット配信しています。14日当日にはNHKのニュースもありました。
ダム本体のコンクリート打設は、ダム本体工事の第一段階である基礎岩盤の掘削工事の終了後、第二段階として行われるもので、コンクリート打設の開始は本体工事の本格化を意味します。
しかし、これらの記事を読むと、コンクリート打設が行われるのは、ダム本体ではなく減勢工です。減勢工とは、「ダムから落下する流水のエネルギーを弱めるための施設」で、ダム直下につくられます。
下の写真は、6月11日に吾妻渓谷の小蓬莱よりダム本体工事現場を撮影したものです。
写真手前の岩盤が露出している箇所が減勢工の箇所と考えられます。ここは4月の段階ですでに岩盤が露出している状態でした。木々の葉が茂る前でしたので、現在より岩盤がよく見えました。(右写真=2016年4月19日)
上の写真の中央から後方にかけて、両岸が逆八の字型に削られている部分がダムサイトです。ダム本体が建設される場所は、まだ岩盤が露出しておらず、掘削工事が続いています。
上毛新聞では基礎掘削の進捗度を「9割超」と伝えています。基礎掘削が終了しなければ、本体打設は行えません。
八ッ場ダムと同様、国交省関東地方整備局を事業主体として2012年に竣工した湯西川ダム(栃木県)では、ダム本体打設を開始する前に、基礎岩盤の掘削工事が完了し、減勢工部のコンクリート打設の試験施行を行った後、報道関係機関を対象とした見学会を開いています。
右画像と以下の説明=国交省関東地方整備局 記者発表資料 報道関係機関対象「湯西川ダム本体建設工事等現場見学会」の開催について4ページ
○基礎掘削完了
○9月からのコンクリート本打設に向けて、減勢工箇所にてRCD試験施工中
国交省八ッ場ダム工事事務所は基礎岩盤の掘削工事が開始された昨年以来、掘削工事を今年5月に完了し、6月より本体打設を開始すると説明し、各紙もそのように報じてきました。予定通り本体工事が進んだなら、今月はダム本体のコンクリート打設開始に際し、湯西川ダムのように報道関係へのお披露目が行われたはずです。
上毛新聞と読売新聞による八ッ場ダムコンクリート打設の報道は、新聞休刊日前日の日曜日(6/12)でした。両紙はいずれも「関係者への取材でわかった」と書き、国交省の正式発表はなかったことを示唆していますが、群馬県内で最も購読者の多い両紙の報道は影響大です。
報道の”先走り”はダムの早期完成を要望する地元や関係都県の願望に沿ったものではあるとしても、ダム本体のコンクリート打設は予定した6月には開始できず、遅れているという事実は変わりません。(写真右=吾妻渓谷のダムサイト左岸、コンクリート製造機や骨材を運搬設備が設置されている。2016年5月26日)
八ッ場ダムを巡っては、これまでも同じようなことが繰り返されてきました。
国交省は2013年以来、八ッ場ダムの本体工事を2014年10月着工と説明し、各紙も繰り返しそのように報道しましたが、実際に本体工事が始まったのは2015年1月末でした。2014年秋の段階では国交省の正式発表はなかったのですが、地元紙は2014年10月16日の一面トップで「八ッ場きょう着工」の大見出しを打ちました。しかし、この時開始されたのは本体工事に向けた測量作業でした。(写真右=吾妻渓谷右岸。渓谷遊歩道があった山は削られ、掘削面にダム本体の形が青いラインで描かれているのがうっすらと見える。2016年5月26日)
9日の群馬県議会産経土木委員会では、本郷高明議員(民進)が本体打設の開始時期を質問したところ、県土整備部特定ダム対策課長は、
「国交省に状況を確認したところ、「基礎掘削工事は終盤を迎えており、準備が整ったところからコンクリート打設を開始する予定」と聞いている。」「国に確認したところ、「現れた岩盤の状況はおおむね想定したとおりである。岩盤の状況に応じ適宜対応しているところであり、設計内容に対して大きな変更をすることはない」と答弁しています。
昨年6月に開かれた事業認定の公聴会では、国交省関東地方整備局は、「基礎掘削を行って、実際に現れた岩盤の状況によっては、設計内容を照査することを考えております。」と説明しているのですが、(八ッ場ダム事業認定公聴会の議事録より)、ダム工事に詳しい専門家によれば、基礎岩盤の掘削終了後、露出面を磨いて岩盤に異常がないかどうかを精査するとのことです。掘削が完了していない現段階では、岩盤が露出していない状況ですから、岩盤の安全性を判断できるとは考えられません。
八ッ場ダム事業では道路などの関連工事費が膨れ上がった結果、本体工事費が圧縮され、基礎掘削が149万立方メートルから60万立方メートルへ、ダム本体の基礎を18メートルからわずか3メートルに縮小しています。(右図=2007年12月21日 国交省関東地方整備局 事業評価監視委員会資料より)
当会では、八ッ場ダム本体工事の施工計画書を情報公開手続きで入手しています。施工計画書は八ッ場ダムの本体工事をどのように進めるかを施工業者(清水・鉄建・IHI異工種建設工事共同企業体)が公式に示しているものです。本体工事が始まる直前の2014年11月19日に開示請求した施工計画書は、通常よりはるかに開示に日数を要した上、肝心な部分がすべて黒塗りでした。
(参考記事「八ッ場ダム本体工事の施工計画書、情報開示に60日」)
以下は施工計画書の中で計画行程表を掲載してあるはずのページですが、全面黒塗りです。
不開示の理由は、施工業者の「経営戦略そのものに影響を及ぼすおそれがある」ということです。こうした言い訳によって、八ッ場ダムの本体工事は情報公開の時代に逆行する形で進められています。
関連記事を転載します。
◆2016年6月14日 NHK
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160614/k10010556061000.html
ー八ッ場ダム 本体へのコンクリート流し込み始まるー
群馬県で進められている八ッ場ダムの本格的な工事のうち、およそ1年半かけて行われてきた岩盤の掘削作業がほぼ終わり、14日から本体にコンクリートを流し込む作業が始まりました。
群馬県長野原町の八ッ場ダムは7年前の政権交代で、一時建設が中断されましたが、その後建設の継続が決まり、去年1月からダムの本体を造る本格的な工事が始まっています。
このうちダム本体を支える岩盤の掘削作業がほぼ終わり、14日から本体にコンクリートを流し込む作業が始まりました。
作業は、放流した水の勢いを弱める「減勢工」と呼ばれる本体の下流側の部分から始まり、2年後に完成すれば本体のコンクリートの高さは116メートルに達するということです。
使われるコンクリートの量は、東京ドームの容積のおよそ7割に相当する90万立方メートルに上るということで、国土交通省は、水を貯める試験などを経て平成31年度の完成を目指しています。
八ッ場ダムの建設は、利根川の治水事業の一環として60年以上前に構想が持ち上がりましたが、ことし3月末の時点でおよそ4%の土地を取得できていないということで、国土交通省は引き続き地権者と交渉を進めていくことにしています。
◆2016年6月12日 上毛新聞
ー八ッ場 14日に本体打設 天候見てコンクリートー
八ッ場ダム(長野原町)の建設事業で、国土交通省八ッ場ダム工事事務所が14日にもダム本体のコンクリート打設を開始することが11日、関係者への取材で分かった。民主党政権下で工事が一時中断するなど曲折を経た建設事業が、本体完成に向け大きな節目を迎える。
コンクリートの打設開始は当日の天候を見て最終的に判断する。
関係者によると、最初にコンクリートを打設するのは、ダムから放流される水の勢いを弱める「減勢工」と呼ばれる構造物で、ダム本体の最下流部に当たる。掘削工事で掘り出した河床の上に、コンクリートを流し込む作業を進め、順次、堤体工事に入っていく。
八ッ場ダムでは、2014年10月に本体工事の測量が始まり、15年1月にコンクリート打設の前段階となる基礎掘削に着手した。これまでに基礎掘削は9割超が完了している。コンクリート打設の開始後も、掘削は並行して行う。
コンクリート打設は18年5月にも終わり、高さ116メートルの堤体が姿を現す見通し。同年9月以降の試験湛水などを経て、19年度中にダム完成を見込む。
八ッ場ダムは吾妻川に建設中の多目的ダムで総事業費は約4600億円。
国交省は今年4月、水没予定地の強制収用を可能にする土地収用法に基づく事業に認定。3月時点の水没予定地取得率は95%(面積ベース)だが、未取得の用地には地権者が不明な場所も残り、全てを任意で取得するのは難しい状況という。試験湛水なでの取得を目指している。
◆2016年06月12日 19時07分 読売新聞社会面
http://www.yomiuri.co.jp/national/20160612-OYT1T50066.html
ー52年に計画浮上の八ッ場ダム、コンクリ打設へー
群馬県長野原町で建設が始まっている八ッ場ダムについて、14日からコンクリートを流し固める「打設」の工程に入ることが、関係者への取材でわかった。
1952年に計画が浮上してから紆余うよ曲折を経て着工した大型工事は、いよいよダムの姿を現し始める。
昨年1月に本体工事が始まり、清水建設(東京都)などの共同企業体(JV)が、爆薬などを使ってコンクリートを敷くのに適した岩盤を露出させる「本体掘削」を進めてきた。順調に作業が進んだことから、予定通り打設の作業に入る。
国土交通省八ッ場ダム工事事務所によると、初めにコンクリートを打ち込むのは、ダムの一部の「減勢工」と呼ばれる部分。ダムから放流された水の勢いを弱める役割を持つ。
今後、高さ約116メートルになる堤体部分の打設も始めていく。近くの施設で製造したコンクリートを、ケーブルクレーンを使って打設面まで下ろして、流し込む。作業は24時間体制で行われ、2018年5月頃に完了する見込み。
同事務所は「天候に左右されるため、14日の朝に打設に入るかどうかを判断する」としている。
コンクリートの材料となる骨材を作る「プラントヤード」はすでに完成している。原石山から採取した石を、直径5ミリ以下~8センチの4種類に加工。ヤードから約10キロ離れたコンクリート製造施設までベルトコンベヤーで運び、水やセメントを混ぜてコンクリートにする。
堤体が出来上がった後は、安全性を確かめる試験湛水などを経て、19年度中に完成する予定だ。川原湯地区八ッ場ダム対策委員会の豊田幹雄委員長は「いよいよという感じだ。残されている生活再建事業もしっかりと行ってほしい」と期待を込めた。
ダム計画は1952年に利根川下流域の治水対策として持ち上がり、調査が始まった。2009年9月、当時の民主党政権がダム建設の中止を決めたが、11年12月、計画継続の方針に戻された。
参考*「八ッ場ダム減勢工、コンクリート打設開始」(その2)
https://yamba-net.org/wp/?p=16083