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鬼怒川水害における上流4ダムの治水効果

 9月の鬼怒川水害について、水問題研究家の嶋津暉之さん(本会運営委員)による講演内容を以下のページでお伝えしましたが、
 https://yamba-net.org/wp/?p=12923

 その後、鬼怒川上流ダムの治水効果について新たに明らかになったことがありますので、補足の解説を掲載します。

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鬼怒川堤防決壊が求める河川行政の転換 (補足)

キャプチャその1 下流部では洪水ピークのカット効果が激減する4ダムの洪水調節

 国交省は右表のとおり、4ダムの洪水調節がなければ、下流の水海道(約⒒㎞地点)でピーク水位が25cm上昇して浸水区域が大きく拡大したというシミュレーションの結果を示し、ダムの効果の宣伝に努めている。このシミュレーションは条件を仮定して計算したものであり、今回の洪水を正しく再現しているかどうかは定かではないが、仮に4ダムで25㎝の水位低下効果があったとしても、流量で見ると、その削減効果はきわめて小さい。

 水海道地点の今年度の水位流量関係式(HQ式)〔注〕は未確定であるので、過去の各年度のHQ式を情報公開請求で求めたところ、今回の洪水に比較的合うのは平成19年度のHQ式であった。このHQ式に今回の洪水の最高水位8.08mを入れると、3,941㎥/秒になり、今回の洪水のピーク流量の公表値約4,000㎥/秒に近い値になった。そして、このHQ式に25cm高い8.33m(8.08+0.25)を入れると、4,115㎥/秒になった。実績ピークの公表値4,000㎥/秒に合わせて補正すると、4,115×(4,000÷3,941)=4,180㎥/秒となる。
 
 〔注〕水位流量関係式(HQ式):河川で常時観測しているのは水位であって、洪水時に浮子(ふし)を投げ込んで流量観測を行い、その結果から水位と流量の関係式を年度ごとにつくる。その式から流量を求める。

 よって、国交省の計算でも上流4ダムの洪水調節は下流部では4,180㎥/秒を4,000㎥/秒へ約5%引き下げただけである。
 一方、ダム地点で4ダムの洪水調節がない場合のダム放流量を計算し、実績ダム放流量(下流側の川治ダム+五十里ダムの放流量)との差をとると、下図のとおり、2,000㎥/秒以上になる。

キャプチャグラフ

 したがって、今回の洪水ではダム地点では2,000㎥/秒以上の洪水ピーク削減効果があったものが、水海道地点ではわずか約180㎥/秒にとどまり、1/10以下に激減している。

 鬼怒川水系ダムによる洪水ピークの削減量が下流で激減した理由は、①ダム地点の洪水ピークと下流部の洪水ピークとの間に時間のずれがあったこと、②下流部まで流下する間に川幅が広い中流部で河道貯留効果が働き、洪水ピークが減衰したことにある。

 このように、国交省の計算でも、ダムの洪水調節の治水効果は効率がきわめて悪い。
 湯西川ダムの建設事業費は1840億円にもなるから、4ダムを合わせた事業費を現在価値で表わせば、6000億円以上になるであろう。このような巨額の河川予算をかけても、4ダムでこの程度の治水効果しか得られないのであって、ダムを重視する河川行政の誤りは明らかである。この予算を河道整備に振り向けていれば、決壊を防ぐこともできたであろう。

川治ダムの緊急放流 日光市藤原地区の約140戸が一時避難

キャプチャ3 今年10月9日の下野新聞が「上流 日光・川治ダム越流の恐れ」「迫る緊急放流 住民避難」という見出しで、鬼怒川水系4ダムの一つ、川治ダムの直下で9月10日午前4時45分に一時避難の発令が出されたことを伝えている。(右の画像をクリックすると、記事が表示されます。) 川治ダムが満杯以上になって、緊急放流する危険が高まり、洪水をコントロールできなくなる恐れが生じたため、日光市藤原地区の約140戸が一時避難したのである。大雨が収まり、緊急放流は見送られたが、もし緊急放流していれば、ダムの直下はダムの洪水調節の効果を前提とした河道になっているので、氾濫し、大きな被害が発生したに違いない。

 このように、ダムとは、満水になると、調節機能を失い、かえって危険な存在になるものであり、その面でもダムに依存した河川行政からの脱却を図るべきである。

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 鬼怒川水害についての講演は、12月13日に東京・水道橋で開かれる下記の集会でも行われることになっています。
 https://yamba-net.org/wp/?p=12496