八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

小さなダムの大きな闘いー石木ダムのこと

 石木ダム計画は長崎県の事業です。国が進める八ッ場ダムが全国一のダム事業費と、わが国人口の四分の一以上を抱える利根川流域を対象地域としていることと比べると、石木ダムは何から何まで小ぶりです。
石木川s けれども、この小さな石木ダムの行方がダム行政の中で、いま、注目を集めています。それは、ダム予定地の住民13世帯(つい最近生まれた赤ちゃん含め61人)がこの半世紀、ダム反対を貫くという、わが国では例のない粘り強さを発揮し、支援の輪が大きく広がる一方で、長崎県が強制収用も辞さない強硬姿勢を示し続け、情勢が緊迫しているからです。
(写真右=石木ダムのダムサイト予定地。写真下=住民が水没予定地に掲げた看板。周りはお花畑のように季節の花に彩られている。)
ダム建設反対の看板 (2)

 八ッ場ダムも石木ダムも、ダム建設の主目的は「都市用水の供給」と「洪水被害の軽減」です。
キャプチャ 八ッ場ダムが開発する「都市用水」は利根川流域の関東一都四県に供給されることになっていますが、石木ダムの都市用水は人口25万人余りの佐世保市のみが対象です。当の佐世保市は、県とともにダム推進の旗振り役ですが、水需要は減少の一途を辿っているのが実状です。
 また、(国交省がPRする八ッ場ダムの洪水調節効果には大いに疑問があるものの)八ッ場ダムが長大な「利根川の洪水調節」を大義名分としているのに対して、石木ダム建設予定地は河口まで僅か4キロしかありません。
 
 石木ダム予定地は、長崎県の大村湾に面した川棚(かわたな)町にあります。長崎空港から車で40分あまり、JR大村線を利用する場合も、大村湾の風光明媚なリアス式海岸沿いを走ります。(右図をクリックすると拡大します。)

川棚川河口付近s 「川棚」駅の近くを流れる川棚川の橋の上でサヨリを釣っている人がいました。すぐそばに河口があるので、サヨリが群れているのです。
 川棚川には石を積んで天然うなぎを採る”うなぎ塚”も点在しています。川棚川は大村湾にそそぐ川の中で最も大きな河川ということですから、川棚川水系に石木ダムが建設されれば、川棚川の生態系が変わるだけでなく、閉鎖的な地形の大村湾の生態系にも影響を及ぼしそうです。(写真右=河口近くの川棚川)
 川棚川のうなぎ塚 http://www.orai-nagasaki.jp/mail/54/ 

虚空蔵山 (2) 石木ダム予定地を流れる石木川は、この長崎県が管理する2級河川、川棚川の支流です。源流は”九州のマッターホルン”と呼ばれる虚空蔵山(標高608メートル)です。(写真=朝焼けに浮かぶ虚空蔵山の山頂)

 石木ダム予定地は「川原地区」といいます。八ッ場ダム予定地にも「川原湯(かわらゆ」、「川原畑(かわらはた)」という地名がありますが、石木川が流れる「川原」は「こうばる」と呼びます。ダムは深い谷間に造られるものだと思っていましたが、「こうばる」を流れる石木川は小川と呼べるような川で、周辺の山も高くはありません。
 関東地方の利根川上流のダムは、どこもダムの受益者とされる首都圏とは地形的にも心理的にも大きな距離があります。山間のダム予定地に住む人々は周辺から孤立しがちです。しかし石木ダム予定地の住民は、谷間の住民ではありません。同じ町内の海沿いの地域や他の地域の人々との交流も活発です。

 いま、石木ダムで焦点となっているのが、強制収用を視野に入れた事業認定手続きと付替え道路の工事です。
 事業認定手続きは八ッ場ダム事業でも進められていますが、石木ダム事業では手続きが先に進んでおり、一部農地は長崎県が強制的に取り上げる手続きを済ませました。住民は農地での畑作業をこれからも続けるとしていますが、長崎県はさらに家屋の強制収用を目指しています。(写真=10/19撮影、稲こき)
 石丸さんちの稲刈りs

DSCF6211 (2) 後者の付け替え道路の工事は、業者が重機を運び込んだものの、住民らの座り込みによって工事を始めることができないままです。八ッ場ダム事業では20年ほど前から付け替え道路などの関連工事が延々と行われ、「ここまで来たのだから、ダムを造るしかない」という声がよく聞かれますが、石木ダム事業ではまだ関連工事が未着手です。
 10月21日には業者が工事予定地から重機の運び出しを行いました。当分、工事着工は無理と見て、いつまでもレンタルの重機を野ざらしにしておくわけにはいかないと判断したようです。(写真右=重機の運び出し。)

工事事務所長 重機搬出を許可した住民らに礼を言いに来た、という長崎県の工事事務所長は、「業者も経営が苦しい」と説明。それでも、「工事を中止する」とは決して言わず、「あなた方がちょっとでも隙をみせたら、入る気満々」と、同じ言葉を繰り返しました。(写真右=住民に差し出された柿を手に取る長崎県の工事事務所長。「渋柿ではありません。」)

(写真下=長崎県の石木ダム工事事務所を取り囲む住民と支援者。工事予定地ゲート前)
阻止行動s

新聞記事 関連工事の阻止行動は、今年5月から始まりました。雨の日も、風の日も、入れ替わり立ち替わり、毎日何十人もの住民とその支援者が工事現場のゲート前にやってきます。猛暑のころは熱射病になりそうだった、と聞きました。ゲートに吊るした傘は、日よけにも役立ちます。

 10月19日には、住民らの粘り腰に業を煮やしたダム推進派が、「阻止されたらブルドーザーを使って、(測量や付け替え道路工事の)業者を入れさせないと。それが難しければ、機動隊を入れるかだ」などと公の場で発言し、長崎県内各紙で大きく取り上げられました。この物議をかもした元自民党県議が石木ダム予定地の土地収用を審理する委員で、しかも退任に伴う感謝状交付式での放言でしたから、土地収用の審理は「公正中立」という名目からほど遠いと、一斉に批判を浴びました。
 長崎県内のマスコミは、県の強引な姿勢への反発を強めています。(写真右=10月20日付長崎新聞)

ぼたもちs 県内世論も県を批判する報道を後押ししています。行政によるダム推進キャンペーンをよそに、石木ダム事業への批判が高まっているのは、石木ダムが不要であることが明らかであり、生活を守ろうとする住民の真摯な姿勢が共感を呼んでいるからです。地元では表に出て県と交渉する男性たちだけでなく、女性陣も毎日大活躍です。
 この日も、阻止行動の合間に、手作りの大きなぼたもちやおにぎりがどっさりテーブルに並び、美味しいお茶とともに支援者らにふるまわれました。

読書 「こうばる」の住民は、町のスポーツ大会や公民館活動にもこれまで積極的に参加してきたといいます。川棚町の中心部から支援に来た町民は、「こうばる」の女性たちと町の手芸クラブで知り合い、温かい人柄に触れてダム問題に関心を持つようになった、と話してくれました。町内でダム反対の署名を集めた時には、1万4千人の町で6千筆が集まったものの、署名した町役場の職員らに上から圧力がかかったそうです。(写真右=座り込みの時間を読書で過ごす。読んでいるのは「小さなダムの大きな闘い」
 http://kadensha.net/books/2014/201403chisanadamu.html)

「税金の無駄遣い」の看板 地元に近ければ近いほど、行政の事業が大きな圧力となって人々に沈黙を強いるのは、八ッ場ダムでおなじみです。それでも、毎日のように佐世保市や長崎市から応援にやってくる支援者がおり、「座り込みはできないけれど、応援しとるよ~」とお菓子の差し入れをしてくれる町の人もいます。
 9月30日の深夜2時に、県と業者がこっそり重機を工事現場に運び込もうとした時には、物音に気づいた近隣住民が知らせてくれたおかげで、たちまち40名もの住民と支援者が集まり、工事阻止に成功したということです。

(写真=大量の渋柿の皮をむき、棕櫚の葉で吊るしていく。)
DSCF6163

 強権的な安倍政権の下、長崎県は普通の人々が権力者の横暴ぶりにならされてしまっているこのタイミングを逃すまいとしているのか、これまでにも増して傲岸な姿勢ですが、住民たちは明るくパワフルで自然体です。阻止行動が毎日行われている場所は、実は二つの大きな砕石場に挟まれた、騒音とホコリが大変な所なのですが、集まった人々はお喋りしたり、読書したり、食べたり、時には干し柿づくりをしながら、ワイワイガヤガヤ。住民も支援者もここに集うことで互いにエネルギーをもらっているようです。

DSCF6137 (2) 住民はダム計画と対峙することで、来る日も来る日も時間を取られ、生活を脅かされ続けます。工事を始められない業者は大損ですが、税金を使う行政は、組織の都合で住民を翻弄し続け、どれほど時間がかかろうが、ちっとも困りません。ダム行政で当たり前のように振り回される土地収用法がどれほど惨いものか、石木ダムや八ッ場ダムの予定地へ行くとよくわかります。

 「心の底からダムのない生活をしたい」-ダム反対の闘士というにはあまりに生活感あふれる、心優しい人々が住むこの美しい土地が、一日も早くダム計画の桎梏から解き放たれることを願ってやみません。

 以下のページで石木ダム問題をわかりやすく伝えています。
★「失うものは 美しいもの」 
 http://www.ishikigawa.jp/

 ブログで最新情報が発信されています。
★石木川まもり隊ブログ http://blog.goo.ne.jp/hotaru392011
★ブログ「西風に吹かれて」 http://blog.goo.ne.jp/bhdsy27

写真=昭和40年代に、事業者を見張る目的で住民らがダムサイト予定地に建てた団結小屋。小屋の向こうが水没予定地であり、住民たちの居住地域。
団結小屋s

水の底より今の故郷 (2)

第二団結小屋

サルの塔

★ダム問題に取り組む水源開発問題全国連絡会が11月1日、三重県伊賀市で開いた総会で、石木ダム反対地権者の方から、次のような現状報告がありました。補償金を利用して地権者を締め付けるダム行政の浅ましさがますます露わになってきました。

「強制収用まで土地を提供しない地権者に対して、収用委員会の裁決による補償金額は(路線価によるという理由で)ダム容認派への補償金額より格段に安くされる。補償金の受け取りを拒否しても、起業者は法務局に補償金を供託するため、翌年、補償金への税金等が地権者にかかってくる。税金、健康保険料等の徴収額は補償金額の3割にもなる。」