八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

「科学者の会」、太田国交大臣に要請書提出

2013年1月17日

 本日、「ダム検証のあり方を問う科学者の会」は太田昭宏国土交通大臣に対して、八ッ場ダムと利根川水系河川整備計画に関する要請書を提出し、国土交通記者会で共同代表の今本博健京都大学名誉教授(河川工学)、川村晃生慶応大学名誉教授(環境人文学)らが会見を行いました。
 要請書を入手しましたので、全文を転載します。

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 2013年1月17日

 国土交通大臣 太田昭宏 様

 「ダム検証のあり方を問う科学者の会」
 呼びかけ人
 今本博健(京都大学名誉教授)(代表)
 川村晃生(慶応大学名誉教授)(代表)
 宇沢弘文(東京大学名誉教授)
 牛山積(早稲田大学名誉教授)
 大熊孝(新潟大学名誉教授)
 奥西一夫(京都大学名誉教授)
 関良基(拓殖大学准教授)(事務局)
 冨永靖徳(お茶の水女子大学名誉教授)
 西薗大実(群馬大学教授)
 原科幸彦(東京工業大学名誉教授)
 湯浅欽史(元都立大学教授)

 賛同者 125人

 連絡先
 〒112-8585 東京都文京区小日向3-4-14 拓殖大学政経学部
 関良基 気付 「ダム検証のあり方を問う科学者の会」

 八ッ場ダムと利根川水系河川整備計画に関して貴大臣の判断を求める要請

 昨年12月に政権が交代し、八ッ場ダムと利根川水系河川整備計画の今後がどうなるのか、大いに注目されています。
 貴大臣がどのような判断をされるかは、将来の河川行政に対する貴大臣の見識と姿勢を示すものであると言っても過言ではありません。
 利根川水系河川整備計画は八ッ場ダムの上位計画になるもので、河川整備計画による八ッ場ダムの位置づけがないまま、八ッ場ダムの本体工事を進めることは1997年の河川法改正の本旨を大いに歪めるものです。1997年改正河川法によってつくられた法システムに従って河川整備計画による位置づけを優先しなければなりません。
 何よりもまず、利根川水系河川整備計画を民主的かつ科学的に策定することが必要です。利根川・河川整備計画の策定作業は昨年、4年ぶりに再開されましたが、国土交通省は利根川本川(江戸川を含む)の河川整備計画のみを策定しようとしています。しかし、利根川には渡良瀬川、鬼怒川、小貝川、霞ケ浦といった大きな支川があり、それらの支川も含めて、水系全体の河川整備計画を策定することが求められています。支川と本川は相互に関係しており、特に支川の状況が本川に影響するので、本川だけを切り離して先に河川整備計画を策定することは、科学的見地から見てあってはならないことです。

 利根川水系河川整備計画の策定においては新たな局面を迎える時代になったことを十分に踏まえなければなりません。それは、過去の高度成長時代につくりすぎた社会資本の維持管理費・更新費が年々増大する一方で、厳しい財政事情により、社会資本投資の増額が困難になってきているため、新しい社会資本投資を次第に縮小せざるを得ない時代になっていることです。ダムに関して言えば、老朽化した多くのダムの撤去のための費用をそろそろ見込まねばならなくなっているのです。従って、これからの時代は、従前どおりに利根川においてダムや河道整備等に巨額の河川予算を使い続けることはもはや困難であり、利根川流域住民の安全を本当に確保できる喫緊の対策を厳選して、そこに河川予算を重点的に投じるようにしなければなりません。巨額の河川予算を使うことを前提とした河川行政は早晩行き詰まり、その結果として、氾濫の潜在的危険性を内包した利根川が半永久的に放置されることになります。
 そして、もう一つ重視しなければならないことは利根川流域、すなわち、首都圏もまもなく人口が減少するようになり、すでに20年近く減り続けている都市用水の需要が今後も縮小の一途を辿っていくことが必至の時代になっていることです。
 さらに2010年には生物多様性条約締約国の間で「2020年までに生物多様性の損失を食い止めるための行動をとることを私たちの使命(ミッション)」と位置づけて愛知ターゲットが採択され、「遅くとも2020年までに、生物多様性の価値が、国と地方の開発(略)の戦略及び計画プロセスに統合」されることなど20項目の目標が設けられました。河川法により「河川環境の整備と保全」をも目的として策定される河川整備計画は、生物多様性条約締約国の間で採択された目標を達成する責務が課せられています。過去の開発で失われた利根川の自然をできるだけ取り戻すとともに、自然に新たな負荷を与えない河川整備計画をつくり上げていかなければなりません。

 このように治水・利水・環境において時代は新たな局面を迎えているのであって、そのことを踏まえた利根川水系河川整備計画を策定しなければなりません。そのためには、従前の河川行政の考え方を踏襲する河川管理者に整備計画の策定を委ねてはなりません。整備計画の基本的な考え方と内容について十分に議論を行う場を設け、河川管理者とは一線を画した専門家、流域住民の意見が反映されるようにしなければなりません。流域住民等の意見を計画に反映させること、すなわち、民主的に河川整備計画を策定することは1997年河川法改正の国会質疑の政府答弁で言明されていることです。

 八ッ場ダム予定地の現地では民主党政権下でも自公政権下と変わりなくダムの関連工事が進められてきましたが、地形、地質を無視した工事は難航し、工期が大幅に遅れてきました。ダム湛水による地すべりの危険性なども懸念され、現地では八ッ場ダム計画の抱える矛盾が各所で露呈してきています。
 ところが、歴代の国交大臣は現地訪問に当たり、八ッ場ダム事業の抱える矛盾に目を向けることなく、形式的な視察をするだけでした。私たちは、八ッ場ダムが災害を誘発し、今後、工期がさらに延長され、事業費が増大する可能性を危惧しております。現地を視察される際には、私どもの説明にも是非、耳を傾けていただきたいと存じます。

 以上のことを踏まえ、貴大臣が下記7点の判断をされることを要請します。

 ① 利根川水系河川整備計画を民主的且つ科学的に策定すること。

 ② 利根川の支川を含めた水系全体の河川整備計画を策定すること。

 ③ 利根川においてダムや河道整備等に巨額の河川予算を使い続けることはもはや困難であるので、利根川流域住民の安全を本当に確保できる喫緊の対策を厳選して、そこに河川予算を重点的に投じる河川整備計画を策定すること。

 ④ その策定は首都圏の水需要が縮小の一途を辿っていく時代であることを前提とすること。

 ⑤ 河川整備計画の基本的な考え方と内容について十分に議論を行う場を設け、河川管理者とは一線を画した専門家、流域住民の意見を計画に反映させ、公明性、客観性がある河川整備計画を策定すること。

 ⑥ 生物多様性条約締約国間で採択した愛知ターゲットを達成できるよう、過去の開発で失われた利根川の自然をできるだけ取り戻すとともに、自然に新たな負荷を与えない河川整備計画をつくり上げること。

 ⑦ 八ッ場ダム本体工事については上記①~⑥のとおり、利根川水系河川整備計画を策定し、さらに八ッ場ダム予定地における様々な問題を現地で確認したうえで、その是非を判断すること。  以上