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石木ダム・すべての土地の強制収用手続きへ

 石木ダム予定地のすべての土地について、昨日、ダム事業者の長崎県は強制収用するための裁決申請を行いました。
 関連記事を転載します。

◆2016年5月11日 NHK長崎放送局
 http://www3.nhk.or.jp/lnews/nagasaki/5035227271.html?t=1463001145845
 ー石木ダムの中上流部を裁決申請ー

 川棚町に計画されている石木ダムについて長崎県は11日、ダムの完成で水没するおよそ9万平方メートルの土地などを強制的に収用するための「裁決申請」を行いました。
 これで、ダム建設に必要なすべての土地を取得するための手続きが終わりました。

 県と佐世保市が川棚町に計画している石木ダムをめぐっては、建設への反対運動が続き、地権者との用地交渉が難航しています。
 県は土地収用法に基づいてダムの建設用地を強制的に収用するための手続きを進めていて、これまでにう回道路の工事に必要なおよそ5500平方メートルが県側に明け渡されたほか、本体工事に必要な3万平方メートルについても、明け渡しの時期や土地の補償額を決める県の収用委員会にはかられています。

 県は11日、収用委員会に対して、ダムに水没するおよそ9万平方メートルの土地や家屋、それに公民館などを強制的に収用するための「裁決申請」を行いました。
 収用委員会が申請を受理して裁決を行った場合、県は180日以内に土地や家屋を明け渡すよう地権者側に求めています。
 今回の「裁決申請」で、長崎県はダム建設に必要なすべての土地を取得するための手続きを終えたことになります。

◆2016年5月11日 テレビ長崎
 http://www.ktn.co.jp/news/2016051167274/
 -石木ダム・すべての土地の強制収用手続きへー

 東彼杵郡川棚町での石木ダムの建設をめぐり、土地の収用を進めている県は、手続きが残っている土地のすべてを強制収用するための裁決申請をきょう収用委員会に行いました。

 県土木部の吉田慎一次長は「裁決申請が必要な土地はすべて3段階に分けて申請した」と述べました。県が強制収用のための裁決申請を行ったのは、石木ダムの建設予定地のうち貯水池となるおよそ9万㎡です。
 9軒の家屋と公民館、田畑や道路などが対象で、補償額は8億5千万円あまりです。石木ダムの建設をめぐっては、買収の済んでいない予定地のうち、一部の土地が去年強制収用されました。
 県の収用委員会では4軒の家屋を含む土地について補償額を決める審理が進んでいて、きょうの申請ですべての土地が強制収用の手続きに入ったことになります。

 事業に反対する地権者側は審理に対し抗議を続けていて、訴訟にも発展しています。
 県土木部の吉田慎一次長は「歩み寄れる部分を模索するなかで、もしかすると一度に解決することも淡い期待を持っている」と話しています。

 3回目となる裁決申請に対し、予定地の住民は淡々と受け止めています。
 住民の石丸穂澄さんは「誰も声をひろってくれない。非常に腹立たしい。地元の人たちだけでどうしようもできない歯がゆさとかもどかしさがずっとある」と話しています。

 県はあくまでも石木ダムは必要な事業であるとし、6年後の2022年度に完成させる計画です。

◆2016年5月12日 長崎新聞
 http://www.nagasaki-np.co.jp/news/kennaitopix/2016/05/12090803047793.shtml
 ー石木ダム予定地裁決申請完了ー

 県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業で、県は11日、反対地権者13世帯のうち9世帯の家屋を含む約9万平方メートルの未買収地について、県収用委員会に裁決申請した。これで全ての反対地権者の土地家屋に対する裁決申請が完了し、強制収用(行政代執行)に必要となる手続きは、収用委による裁決のみとなった。

 今回申請したのは、反対地権者13世帯の宅地を中心とする全収用予定地約12万6千平方メートルのうち、9世帯の宅地(約9千平方メートル)を含む約9万平方メートル。計画では、貯水池や付け替え道路となる。

 申請書によると、権利者354人(一坪地主約260人含む)の補償金は計約8億5500万円。裁決した場合、家屋を含む土地は180日以内に、含まない土地は60日以内にそれぞれ明け渡さなければならなくなる。収用委が受理すれば裁決手続きが始まる。

 県は収用予定地を3回に分けて裁決申請した。既に収用委は迂回(うかい)道路用地約5千平方メートルを裁決済み。4世帯の宅地を含むダム本体用地約3万1千平方メートルも先に審理している。

 2017年度のダム本体工事着手を目指す県は「治水、利水の両面で必要な事業であり、工期に沿うよう申請した」とした。中村法道知事は「自然災害が相次ぐ中、一刻も早い完成により住民の安心、安全を確保したい」とコメントした。(前田敏宏)

( 以下の太字の部分は、紙面記事より転載しました。)

手続きは前進も ”袋小路”の様相

解説 県は石木ダム実現に向け、全ての未買収地を強制収用(行政代執行)につながるレールに乗せた。徹底抗戦の構えの地権者らを立ち退かせるには代執行が不可避。13世帯約60人の暮らしを公権力が根こそぎ奪い取るという、現代日本ではおよそ想像しがたい光景が現実味を帯び始めた。

 半世紀にわたり反対運動を続ける地権者側は昨年12月以降、ダムの必要性を争うべく法廷闘争に踏み切った。一方の県側はそれには構わず、事業認定という国の”お墨付き”を盾に粛々と手続きを進めている。

 激しい反対運動により、県が先に申請した家屋や農地の収用裁決の審理は停滞し、付替え道路の工事も前進する気配はない。にもかかわらず今回、全世帯の家屋を収用委に諮ったことで、県は事実上、話し合いによる解決の道を閉ざしたといえるだろう。

 もし、機動隊を投入した34年前の強制測量のような壮絶な光景を見せられた時、県民の大多数が「仕方がない」と思えるほど石木ダムの必要性への理解が浸透しているとは思えない。それでも県は本気で強硬手段に打って出るのか。手続き上は一歩進んでも、実際には前にも後ろにも進めない”袋小路”にいよいよ追い込まれたようにも思える。 (東彼支局 熊本陽平)

◆2016年5月13日 長崎新聞社説
ー失敗事業へ向かう道  石木ダム

 川棚町に計画される石本ダムは1975年の事業採択から40年。82年の強制測量という失態によって、この事業は迷路に入り、長い時間がすぎてしまった。現在も完成していない責任の相当部分は県にある。

 県は11日、反対地権者9世帯の家屋を含む約9万平方㍍の未買収地を、県収用委員会に裁決申請した。これで反対地権者13世帯の土地と家屋に対する裁決申請が全て終わり、強制収用に必要な手続きは収用委員会による裁決だけとなった。

 収用委が受理すれば、裁決の手続きが始まる。裁決された場合、家屋を含む土地は180日以内に、含まない土地は60日以内に県に明け渡さなけれぱならなくなる。

 この計画は失敗公共事業へと向かっている。反対する地権者が頑強に抵抗している。完成すれば巨大な自然破壊となる。だが理由はそれだけではない。

 基盤整備が遅れた地方にとって、公共事業は地域のまちづくりに貢献し、住民の暮らしをより良くし、一面では経済の刺激にも役立ってきた。長崎県は戦後こうして発展してきた。今後もそれは続く。しかしこの事業は、やり方を間違っている。

 ダムの必要性の説明が不足している。その状態で強制収用を実施する構えをとるのは全く許されない。この2点で、この事業は手法を誤っていると言わざるを得ない。

 県事業である以上、佐世保市と川棚町だけの問題ではない。県の説明相手は県民であることを忘れないでほしい。

 大型事業は程度の差こそあれ、自然を壊す。それでも必要性に異論がない事業は容認されてきた。この事業の必要性には大きな疑義が出ている。国が必要だと認めるだけでは足りない。県は、県民に説得力のある説明をできているのか。少なくともその切実度は理解されていない。

 強制収用が現実味を増す中、反対地権者は脅されている心持ちだろう。重要なのは、見守っている大勢の県民にも、県が地権者を脅して押し切ろうとしているようにしか映っていないことだ。単に法に従って手続きだけを進めるような行政の在り方を見せられると、いったいどこを向いて仕事をしているのかと言いたくなる。

 まず水の問題について、県民の理解が広がるようにしてほしい。現在と今後の佐世保市の水事情の逼迫を、県が県民に説明する努力が必要と感じる。防災対策についても同様である。

 既に問題は反対地権者らによって法廷に持ち込まれている。たとえ造っても、手法を間違えた公共事業を成功とは呼べない。強制収用の手続きを止め、状況を緩和する努力に全力を注ぐときだ。(森永玲)