長野県では、治山ダムの魚道が魚の遡上にほとんど効果がない問題を複数の市民団体が訴えており、行政への働きかけを行っています。
関連記事と市民団体の要望書、市民団体の要望を受けてスリット化改修が行われた大町市の砂防ダムの写真等を掲載します。
◆2016年8月15日 朝日新聞
http://digital.asahi.com/articles/ASJ824HK7J82UOOB00L.html?rm=373
ーダムの魚道、土砂で埋まり役割果たせず…長野県、検証へー
長野県が長野市鬼無里の裾花川の治山ダムに設けた魚道が、ほとんど機能していないことがわかった。本体工事だけでも4千万円。県側は「効果を検証したい」としているが、環境団体などはダムに切り込みを入れ、河川の流れをより自然に近い形に戻すよう求めている。
県長野地方事務所林務課によると、この治山ダムは1997年5月の上流域からの雪解けの鉄砲水などによる被害を受け、緊急事業として設置。県営奥裾花ダムの上流に位置し、ミズバショウで有名な奥裾花自然園に向かう途中にある。
治山ダムには魚も遡上(そじょう)できるように水抜き用の穴が二つ設けられたが、上流からの土石などで埋まってしまい、魚道の役割を果たせなくなった。地元漁協との協議を経て、県は2013、14年度の事業として新たな魚道を建設。15年3月に下流からダムに向かって約73メートルの魚道が完成しログイン前の続きた。
だが、林務課によると、現状ではイワナなどがこの魚道を通って遡上することはほとんどないという。担当者は「降雪量が少なかったこともあり、今年は全体的に水が少ない」と説明する。6月上旬に記者が現場を訪れた際も、魚道に水流を確認できなかった。
一方で県は今後、水抜き穴を完全にふさいで水が魚道を流れるようにしたり、魚道の入り口が流木などで詰まらないようにしたりする追加工事を予定している。同課は「(工事が)すべて完成した後に機能などを調査する」としている。
こうした県の対応に、自然保護団体や山岳団体などからは「本流をせき止めて魚道を機能させるような手法は不自然」と疑問の声も上がる。そのうえで、ダムに切り込みを入れる「スリット化」を提案。魚や水生生物、土砂、流木なども含めて上下流が自然に近い形でつながると指摘する。
林務課の担当者は「相対的な意見としてスリット化はわかるが、まずは現状で検証したい」と話している。(北沢祐生)
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報道に先立ち、市民団体が長野県に対して連名で「既設砂防ダム、治山ダムへのスリット(オープン)化改修推進のための要望書」を提出しています。要望書を提出した市民団体の一つ、「渓流保護ネットワーク・砂防ダムを考える会」より、要望書と長野県の回答をお送りいただきましたので掲載します。同会のフェイスブックには、現場の写真等も掲載されています。
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2016年7月22日
長野県知事 阿部守一 様
長野県建設部長 奥村康博 様
長野県林務部長 池田秀幸 様
既設砂防ダム、治山ダムへのスリット(オープン)化改修推進のための要望書
長野県建設部、林務部におかれましては日ごろから自然保護や渓流環境への心配りをしていただきありがとうございます。今回の要望は、既設砂防・治山ダムへのスリット化改修のお願いです。
今まで県内の渓流の中に多くのダム(堰堤)が造られてきました。そしてそのことは流れの連続性を遮る、景観を壊す、など水生生物や渓流環境に大きな影響を与え続けてきました。それに対し、私たちは長野県に様々な意見を述べてきました。しかしながら既設ダムへのスリット化改修は砂防課においては6基、林務課においてはほぼ0という状態が続いています。ちなみに他県では北海道、青森県をはじめいくつかの県で、砂防・治山における既設ダムのスリット(オープン)化改修が行われております。
砂防・治山ダムの働きに関しては防災、山の緑化など大切な機能を備えていることは理解できますが、明治時代からの長い砂防・治山政策の結果として(貯水ダム堆砂も含む)、中下流域や海岸線への必要な土砂供給が滞ることで、河床低下や海岸浸食などの大きな問題が生じていることも事実です。国はこのような諸問題の解決のために、新規砂防・治山ダム建設にあたりスリット型(オープン型)を奨励しています。なお国はこれらのダム型は、クローズ型ダムに比べ土砂調節量が増大することを認めてもいます。しかし上記の諸問題が生じてきた主な原因は、過去に建設してきたクローズ型ダムの機能の積算が及ぼす影響であったことは紛れもない事実のひとつです。こうしたことから、現在長野県が進めている“新規ダムのスリット型建設”だけでは上記諸問題を解決できないことは明らかです。
以上のことから私たちは下記のことを要望いたします。
記
1、既設砂防・治山ダムのスリット(オープン)型への改修を優先的に進めて下さい。
2、ダム改修や建設に際し、渓流の水生生物や景観など環境に配慮することを優先し、実行するようお願いいたします。
なお回答を7月31日までに文書にてお願いいたします。
山岳会ロック&ブッシュ 会長 小古井聡
長野県勤労者山岳連盟 会長 関昌憲
長野県自然保護連盟 会長 渡辺隆一
水と緑の会 会長 常田長時
渓流保護ネットワーク・砂防ダムを考える 代表 田口康夫
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山岳会ロック&ブッシュ 会長 小古井聡 様
長野県勤労者山岳連盟 会長 関昌憲 様
長野県自然保護連盟 会長 渡辺隆一 様
水と緑の会 会長 常田長時 様
渓流保護ネットワーク・砂防ダムを考える 代表 田口康夫 様
長野県林務部長の池田秀幸、建設部長の奥村康博と申します。
知事あてにご要望をいただきましたが、回答は担当部局から行うこととしております。治山事業は林務部、砂防事業は建設部が担当しておりますので、共同でお答えさせていただきます。
ご要望いただきました、1および2について県の見解を申し上げます。
(ご要望1)
既設砂防・治山ダムのスリット(オープン)型への改修を優先的に進めて下さい。
(回答)
現段階において既設砂防堰堤・治山ダムのスリット化の計画はありませんが、今後実施しないということではありません。砂防・治山施設ともに、流域全体の施設配置計画を考えるなかで検討していきます。その際は、その場所における砂防及び治山施設の発揮すべき効果を考慮したうえで、新設、または既存施設の改修(スリット化)のどちらが効果的であるかを比較検討していきます。
(ご要望2)
ダム改修や建設に際し、渓流の水生生物や景観など環境に配慮することを優先し、実行するようお願いいたします。
(回答2)
治山及び砂防の観点で事業を進めていますが、景観・環境にも配慮しながら進めており、今後もこの考えを継続して参ります。
ご不明な点がございましたら、担当までご連絡くださいますようお願い申し上げます。
平成28年8月15日
長野県林務部長 池田 秀幸
長野県建設部長 奥村 康博
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昨年、長野県では、市民団体の意見を取り入れて、大町市乳川の 白沢砂防ダム(高さ15m、幅120m)のスリット化改修を終えたとのことです。市民運動を支援しているパタゴニアのホームページに、砂防ダム問題やスリット化された白沢砂防ダムの情報などが掲載されています。
☆参考ブログ:「新しい砂防ダムよりずっといい:スリット化で一石三鳥」(パタゴニア)
スリット化による改修を提案した市民団体「渓流保護ネットワーク・砂防ダムを考える」のフェイスブックには、スリット化改修完了後の以下の写真が掲載されています。
スリット化は4回に分けて約3~4mくらいずつ切り下げて行われたということです。砂防ダムの基礎が残っているので、そのままでは段差ができてしまうのですが、市民団体の要望通り、砂防ダム直下に石組みで洗堀防止対策が施されている様子がわかります。
(渓流保護ネットワーク・砂防ダムを考える」フェイスブックより、同会の田口康夫代表撮影)