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八ッ場ダム計画変更案(事業費増額)について、国交省資料から読み取れること

 国交省関東地方整備局は八ッ場ダムの事業費を再増額する基本計画変更案を記者発表した8月12日、公共事業評価監視委員会を開催し、増額についての説明資料を配布していたことが議会関係者からの情報でわかりました。

 この配布資料は「八ッ場ダム建設事業(報告)」というタイトルで、増額要因を23項目にわけて記者発表資料より詳しく具体的に説明しています。以下の青い文字列をクリックすると、配布資料が開きます。
 「八ッ場ダム建設事業(報告)」

 公共事業評価監視委員会は国交省関東地方整備局が不定期で開催しているもので、審議内容は一般の人々には別室でのテレビ傍聴のみ認められています。、開催を知らせる記者発表(8月5日)では八ッ場ダムは議題に入っておらず、開催結果の発表(8月15日)で八ッ場ダムが報告事項と記されているだけでした。
 「平成28年度第3回 関東地方整備局事業評価監視委員会の開催結果について」 

 8月12日の記者発表については各紙が報道しましたが、記者発表と同じ日に配布された資料の説明に触れた報道はありませんでした。
 公共事業評価監視委員会の配布資料は関東地方整備局のホームページに掲載済みですが、トップページから直接は辿り着けません。
 関東地方整備局のサイトマップ http://www.ktr.mlit.go.jp/guide/sitemap.html
「事業評価監視委員会開催結果」→「平成28年度分」→「第3回委員会」配布資料 → 「資料4」八ッ場ダム建設事業(報告)

 配布資料の10ページに以下の工程表が掲載されています。ダム完成は平成31年度で現計画と同じであることを示していますが、これまで工期延長を繰り返していますので、この説明を鵜呑みにする人はいないでしょう。

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 本体工事は3年前の計画変更時に公表された工程表では平成26年10月に開始されるはずでしたが、実際は昨年(平成27年)1月にようやく開始されました。けれども、なぜかこの工程表では本体工事は予定通りに開始されたことになっています。
 また、昨年9月の現地での説明では、平成30年度中に本体工事を終えるとのことでしたが、この工程表では本体工事が平成31年度前期までかかっており、本体の基礎掘削で予定外の地質に遭遇し、工程の練り直しが必要になったことを物語っています。その結果、試験湛水には半年間しか予定されておらず、湛水試験によって地すべり等が発生した場合、工期延長が必至であることが読み取れます。

 増額要因についての説明は、14ページから36ページまで続きます。その中から主なものを見てみます。

1.発掘調査の費用増(約67億円)ー15ページ
 八ッ場ダム予定地は遺跡の宝庫です。水没予定地は全域が江戸時代・天明3(1783)年の浅間山大噴火による泥流に覆われてた災害遺跡であり、その下には縄文時代を含む、天明期より古い年代の遺跡が埋もれています。
 発掘調査費用は当初計画では約66億円でしたが、今回の増額が認められれば、発掘調査の費用は約130億円以上となります。発掘調査の費用増大は、群馬県の開示資料ですでに何年も前から明らかにされてきたことです。

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2.湛水に伴う地すべり等の安全対策の費用増(約96億円) ー18ページ
 八ッ場ダム事業では地すべり等安全対策費が増減を繰り返してきました。
 地すべり等安全対策費は当初3地区49.17億円とされましたが、2004年の計画変更で3地区5.82億円に縮減されました。しかし、民主党政権下の2011年、関東地方整備局が八ッ場ダムの検証で公表した地すべり等の対策費は109.7億円でした。この検証では、地すべり地は3地区を加えて6箇所となり、5箇所の未固結堆積物層(応桑岩屑流堆積物層、崖錐堆積物層)への対策も加えられました。
 以下は今回の配布資料に掲載されている表です。

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 地すべり地については2011年の検証時に必要とされた久森沢(林地区)の対策が不要とされ、さらに未固結堆積物層5箇所のうち4箇所が「対策不要」となり、対策箇所が合わせて5箇所減少しています。地すべり対策の対象とされた6箇所のうち、3箇所は現計画にすでに含まれていますので、新たな対策の対象箇所は八ッ場ダム検証時の8箇所から3箇所に減らされたことになります。配布資料の42ページには、地すべり等の対策箇所を限定したことにより、コストを約47億円減額したとの説明があります。

 5箇所を「対策不要」と判断した理由の説明はこの資料にはありません。しかし、例えば、対策不要とされた地区の一つ、川原湯地区の上湯原は背後の金鶏山から崩落した崖錐堆積物が広く分布し、過去、何度も土石流がこの一帯を襲いました。ダムに貯水すれば、地下水位の変動で地すべりの危険性が高まることが心配されているところです。ダム検証の結果では、20億円の費用をかけて押さえ盛土工法で地すべり対策を講じる必要があるとされていたところです。なぜ、対策不要となったのか、その理由を明らかにさせる必要があります。
 現計画5.82億円に加えて約96億円の増額となれば、地すべり対策費は101.82億円となりますが、湛水試験やダム完成の後、対策費用がさらに膨張する可能性があります。
 
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3.湛水に伴う代替地の安全対策の費用増(約44億円)ー19ページ
 代替地の安全対策の費用は、2011年の八ッ場ダム検証時に新たに浮上した問題です。検証時に5箇所で約40億円の追加費用が必要と試算されましたが、今回の計画変更案でも5箇所で約44億円と、地すべり等安全対策ほどの変更はありませんでした。

4.本体掘削工事の費用増(約41億円)ー20ページ
キャプチャ 本体工事の基礎岩盤の掘削工事が進んだことで、予想より地質が悪く、工事費が余分にかかることになりました。これは今回の計画変更で新たに露呈した問題です。
 20ページに掲載されている右図は、除去が必要な脆い地層が広がっているため、掘削範囲を追加しなければならないことを示しています。
 八ッ場ダム事業では、関連工事費の膨張により、本体工事費が圧縮され、現計画ではダム本体の深さが18メートルから3メートルに減らされています。今回の計画変更案で何メートルに増やすのか、この資料では明らかではありませんが、いずれにしても基礎岩盤の掘削量を増やすことになります。

掘削進捗率95% 基礎岩盤の掘削工事は、昨年9月に国交省が説明したタイムスケジュールでは、今年4月時点で完了し、6月からコンクリート打設が開始される予定でしたが、本体工事現場では今も基礎岩盤の掘削工事が終わっていません。
 6月14日にダム堤体の下流に造る減勢工部のコンクリート打設が始まり、本体工事が順調に進んでいると報道されましたが、これは現計画における本体工事の行き詰まりをカモフラージュするための国交省のアピールをマスコミがそのまま流した結果です。
 国交省八ッ場ダム工事事務所が設けた本体工事現場の展望台「やんば見放台」には現在、平成28年7月末の掘削進捗率約95%と書かれた右の図が掲示されていますが、掘削量が増えることにより掘削工事の工期はさらに延長され、進捗率は減少することになります。

 本体工事関係では、この他14ページ(耐震化ー約3億円)、17ページ(景勝保全ー約8億円)、21ページ(グラウチング施工費用増ー約3億円)、24ページ(骨材プラントヤード基礎地盤の土質改良ー約2億円)、25ページ(減勢工の設計変更ー約18億円)、26ページ(建設副産物の処分ー約16億円)などの増額要因があります。

5.その他の主な増額要因
 これらの他に、配布資料では高額な増額要因として、貯水池内の樹木の伐採ー約36億円(22ページ)、流路工の盛り土材調達ー約41億円(29ページ)、公共工事の関連単価の増額ー約212億円(34ページ)、消費税の増額ー約32億円(36ページ)などが挙げられています。

写真下=展望台「やんば見放台」より川原湯地区を望む。
山の中腹の打越代替地に旅館や住宅、本体工事業者のプレハブ宿舎が並び、水没予定地には本体工事現場から搬出された基礎岩盤掘削工事の土砂が積み上げられている。八ッ場大橋(湖面橋)の背後には上湯原代替地があり、JR川原湯温泉の新駅や住宅等が建っている。今回の計画変更案には、川原湯地区の代替地四箇所で安全対策を実施する費用が追加されているが、上湯原の未固結堆積物層については「対策不要」とされた。2016年8月24日撮影
やんば見放台より川原湯地区を望む

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