八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

9/26~27群馬県議会、八ッ場ダム基本計画変更(事業費の再増額)案に関する質疑

 八ッ場ダム事業に参画している利根川流域1都5県で開会中の議会では、8月に国交省関東地方整備局が発表した八ッ場ダム基本計画の5度目の変更案に同意するか否かを巡って審議が行われてきました。いずれの都県知事もこれまで通り八ッ場ダム推進の立場に変わりなく、各議会で圧倒的に優勢な自民党の後押しを受けて、事業費を再増額する計画変更案に同意する方針です。

 ダム予定地を抱える群馬県議会では、10月4日の総務企画委員会で計画変更同意案が可決されました。これに先立つ9月の本会議では、自民党の星名議員、新井議員、安孫子議員とリベラル群馬(民進党系)の角倉議員が一般質問でこの計画変更同意案を取り上げました。

本会議における4県議の質疑の録画は、群馬県議会のホームページからご覧いただけます。
 http://www.gunma-pref.stream.jfit.co.jp/?tpl=gikai_result&gikai_day_id=278&category_id=9&inquiry_id=3701

 八ッ場ダム事業では、地元住民の反対運動が長い歳月をかけて国と群馬県、自民党県連によって切り崩された経緯があります。反対運動を終息させる契機となった群馬県による「生活再建案」(1980年)は、ダム湖周辺に水没住民の移転代替地を造成する「代替地計画」を核とし、おびただしい生活再建事業を住民に約束するものでした。事業の長期化、地域の疲弊により住民の多くが流出し、ダム事業による地域の発展を掲げた「生活再建案」は”絵に描いた餅”となりましたが、今も群馬県は”ダム湖観光”による地域振興を掲げています。 

 自民党の3議員は、会派内で計画変更に多くの反発があることや、計画変更がさらに繰り返されるのではないかと不安であること、八ッ場ダム事業への支出が県内の小さな自治体や水道事業に大きな負担となっている実態を訴えていますが、ダム事業推進の姿勢に変化はありません。一方、計画変更に同意する理由を説明する県の答弁は、国の説明をそのまま伝えるのみで終わり、自民党議員もそれ以上追及しません。

 自民党県議出身の大沢知事は、八ッ場ダムに反対する1都5県議連会長の角倉議員への答弁で、民主党政権発足直後にダム湖を前提とした湖面橋の入札を強行し、八ッ場ダム建設再開のきっかけを作ったことを自らの実績として誇っていますが、「万が一、今後、基本計画の変更が行われる場合には、やはり関係都県としっかり連携して、内容を精査したうえで判断していかなければならない」と答弁し、更なる計画変更を予期しているかのようです。

 質疑の概要をお伝えします。(カッコ内の説明、太字、注は当会による加筆です。)

★9月26日 
八ッ場ダムの基本計画の変更について 星名建一議員(自民党)

星名議員
 知事は国が八ッ場ダムの基本計画を変更し、事業費を約720億円することについての意見照会に対して、計画変更に同意するとして本会議に議案を提出されました。知事が国に意見を述べる際には、議会の議決が必要となります。
 そこで、知事並びに執行部においては、このことに関して、よりわかり易く、きちんとした、議会が納得できる答弁をしていただかなければなりません。
 そこでまず知事にお聞きします。八ッ場ダムはその長い歴史において、複数回の計画の見直しが行われ、その都度、費用の増額や工期の延長がなされてきたわけです。平成13年9月の第一回変更で工期が延長され、平成16年の第二回変更では事業費が約2,110億円から約4,600億円に増額されました。更に平成20年9月の変更で、工期は平成27年度に延期になりましたが、事業費は4,600億円に据え置かれたのであります。
 平成21年9月に政権交代で鳩山内閣が発足し、前原国交大臣によってダム事業の中止が決定され(注1)、その1年後の平成22年9月に国交省関東地方整備局がダム建設の是非について再検証を開始しました。

注1) 前原国交大臣は「八ッ場ダムは中止する」と発言したが、河川官僚の抵抗により八ッ場ダム事業を中止できず、事業予算の大半を占める関連工事はダム本体着手に向けて続けられた。

 再検証は1年半にわたって行われ、平成23年12月には当時の前田国交大臣によって八ッ場ダム建設の継続が決定されたのであります。
 しかしながら、中止期間があったことにより、平成25年11月の第四回変更で工期は延長され、平成31年度の完成を目指すこととなりました。(注2)

注2) 平成25年の計画変更による工期延長は関連事業の長期化が原因。ダムサイトを走る国道の付替えは平成22年、JR吾妻線は平成26年10月にようやく付替えが完了し、平成27年1月の本体工事着手が可能となった。

 その折、工事費は据え置かれており、知事も当時、今後の増額はないと発言されていたように記憶しています。さらに今回は5回目の計画変更になります。今回の議案に関しては、わが党の政調会でも、新井議員をはじめ厳しい意見が多く出されました。事業費の増額は本県の新たな財政負担、約33億8,000万円が生じることになります。今までの経緯から考えて、本当にこれで終わるのでしょうか? これ以上の費用の増額や工期の延長はないのか、不安であります。知事の明快なご答弁をお願いします。

大沢知事
 これまでの八ッ場ダム基本計画の変更に際しては、国に対して生活再建事業に万全の対策を図ることと合わせて、工期の厳守、一層のコスト縮減による総事業費の圧縮を強く求めてきたところです。総事業費を増額する今回の基本計画の変更は、大変遺憾でありますが、国から変更の内容について直接説明を受けるとともに、関係都県と協力して、内容の精査を行った結果(注3)、変更は避けられないとの認識に至ったところであります。一方でダム湖を前提とした現地の生活再建事業は終盤を迎えており、ダムの完成をこれ以上遅らせてはならないとの思いから、熟慮に熟慮を重ねた結果、今回の増額はやむを得ないと判断したところです。
 今回の事業費増額には、現時点で想定される増要因のすべてが考慮されていると認識しています。また、工期について国からは、更なる延期の情報は受けていません。今回の変更に際して、国に対して、生活再建事業の早期完了はもとより、総事業費の圧縮、ダムの早期完成を強く求めているところであります。そのためにも、工期末を見据えた事業監理を行うため、適時、関係都県と情報を共有することを求めるとしており、県としても国がコスト縮減や工程管理にしっかり取り組むよう、関係都県と共にしっかり注視してまいりたい。

注3) 1都5県による合同調査の結果は、報告書としてまとめられている。
参照:「八ッ場ダム事業費増額についての1都5県による調査報告書」

星名議員
 県土整備部長に伺います。国の記者発表資料では、事業費の主な増要因の中で、最大のものは公共工事関連単価の変化等であり、次いで地質条件の明確化等による要因となっています。物価等に関しては、平成25年から人件費等が高騰していることが明確であり、やむを得ない部分ではあるとも思います。
 また、ダム本体の基礎岩盤の地質状況などについては、多数のボーリング調査を行ったとしても、得られる情報は限定的であり、現地での調査が進捗して初めて実態が明確になるということであります。当初から予想することは困難であったとは理解するところではありますが、しかしながら地すべり等に対する安全対策の費用については、地元住民の生活にも大いに影響するところであり、増額要因としても大きな部分を占めています。これまでもダム周辺の地すべりについては、地元住民の安全安心の観点から、非常に重要な問題であり、多くの議論がなされてきました。その時は地すべり対策は十分だともとれる答弁が当局からあったようにも思います(注4)が、県は国に対して今回の地すべり等の安全対策にかかる増額要因について、詳細の確認をしているのか伺います。また、別のダムでは、試験湛水中に地すべりが発生した事例もあると聞いていますが、今回国が提示した対策を講じれば、八ッ場ダムの湛水に伴う地すべりは発生せず、地元住民の安心安全を確保できると言えるのか、お聞きします。

注4)八ッ場ダム事業における地すべり対策費はこれまで約5.8億円とされてきたが、今回の計画変更案では地すべり対策費として約96億円の増額と、新たに代替地の安全対策費が約44億円必要としている。八ッ場ダム湖周辺には多くの地すべり地があり、水没住民の移転代替地はダム湖予定地周辺に30~50メートル規模の盛り土で造成されている。

上原幸彦 県土整備部長
 ダム完成後の湛水の影響による地すべりなどの地盤対策には、大きく分けて地すべりに対する地盤対策と代替地における盛土造成地に対する地盤対策がございます。地すべりに対する地盤対策につきましては、最新の貯水池周辺の地すべり調査と対策に関する技術指針案に基づき、飛行機からレーザー光線を使用して詳細な地盤の高さを測量し、地すべりの可能性のある区域を選定します。次に選定した区域に対して、地盤の状況が詳細にわかるボーリング調査や地下水の状況調査なども行い、地下の状態を正確に把握するとともに、湛水の影響も考慮した安定解析により、所定の安全率が確保されているかどうかを確認し、対策の必要性を判断しました。
 ダム湖周辺地域全体で調査検討を行った結果、(民主党政権時代の)ダム検証時に11箇所としていた対策箇所が6箇所となりました。次に、代替地の盛り土造成地に対する地盤対策につきましては、宅地造成等規制法および最新の宅地防災マニュアルなどに基づき、調査段階から盛り土の安定性に関する専門家の意見を聴きながら、盛り土をしている地盤の状況が詳細にわかるボーリング調査や、土の特性を計測する試験を行い、盛り土造成地における土壌の状態を正確に把握するとともに、湛水の影響も考慮した安定解析により、所定の安全率が確保されているかどうかを確認し、対策の必要性を判断してまいりました。すべての代替地において調査検討を実施した結果、ダム検証時と同じ5箇所が対策箇所となりました。
 県としては、国が可能な限り調査検討を充実させ、安全性を確認した結果であり、今回国が必要とした対策を確実に実施することにより、地元の皆様の安全と安心は確保されるものと考えています。

星名議員
 埋蔵文化財の発掘調査費用につきましても、大幅な増額となっていますが、その要因をお聞きします。(注5)

県土整備部長
 主に調査の進捗に応じて、掘削調査の範囲が拡大したこと、および一つの掘削調査地点でも何層にも及ぶ年代の調査が必要になったことにより、調査員の延べ人数と作業時間が増大したため、増額となったものです。

注5)八ッ場ダムの発掘調査費は現計画では約98億円だが、今回の計画変更案では約67億円の増額が提示されている。水没予定地は全域が天明浅間災害遺跡であり、その下層に縄文、平安時代の遺跡などがある。

星名議員
 9月14日の上毛新聞に、八ッ場ダム予定地近くの居家以岩陰(いやい・いわかげ)遺跡から8300年前の国内最古級の埋葬人骨が発掘されたという記事がありました。
 八ッ場ダムの発掘で調査範囲が拡大しているということですが、現時点でその成果について伺います。

笠原寛 教育長
 居家以岩陰遺跡(八ッ場ダム予定地上流)や唐堀遺跡(八ッ場ダム予定地下流)など、八ッ場ダムの近隣で注目される遺跡の報道が相次いでいますが、八ッ場ダム関連の遺跡でも大きな成果が得られていると考えています。
 平成6年度に開始した(八ッ場ダム関連の)発掘調査では、これまでに54遺跡の調査を行っており、工事工程等を調整しながら、ダムの完成までに終了する予定です。現時点までに縄文時代や江戸時代の遺跡が調査され、数多くの遺構や出土品が発掘されています。
 このうち縄文時代の遺跡では、横壁中村遺跡や長野原一本松遺跡、林中原Ⅱ遺跡などにおいて、縄文中期から後期、約5000年から3000年前の大規模な集落跡が発見され、長野や北陸地方との交流を示す土器や石器を含む豊富な遺物が出土しています。縄文時代の群馬は、関東の平野部と長野や北陸地方との交流の中間点にあり、双方の地域の文化的要素が混在していることが県内各地の発掘調査によって確認されていますが、八ッ場という山間地域においても地域間の交流を如実に物語る遺物が発見されたことは大きな成果と考えています。
 また、江戸時代、天明3(1783)年、浅間山が大噴火した際の泥流、いわゆる天明泥流により埋没した屋敷跡や畑跡が発見されています。中でも東宮遺跡(川原畑地区)でみつかりました屋敷跡では、下駄や草履、鉄鍋や団扇、クワや鎌など多様な生活用具や農具類が発見されており、江戸時代における山間部の集落の様相と泥流被害の状況を今に伝える調査成果が得られています。これらの成果につきましては、順次発掘調査報告書として刊行しているほか、縄文時代の石で作った斧や江戸時代の櫛、あるいは漆塗りの遺物の一部を県立歴史博物館で現在展示しているところです。
 
星名議員
 コストの縮減について、県土整備部長に伺います。今回、大幅な増額の計画変更が示されています。増額の要因や金額のみが大きく報じられており、コストの縮減が見えてきません。あらゆる事業を見直す中で、コスト縮減の要因はなかったのでしょうか? 当然のことでありますが、この部分をしっかりとしておかなければ、到底今回の増額への納得はいかないものだと思います。
 
県土整備部長
 平成25年度の第四回変更から平成26年度末までにダム本体工事の落札差金などにより約57億円の減額が生じたことを確認しています。今後、工事用道路の幅員の見直しや他の工事で発生する建設残土の有効活用により、約76億円のコスト縮減を図ることを確認しています。引き続き、県として、より一層のコスト縮減による総事業費の圧縮に努めることを求めるとともに、1都4県と連携し、ダム完成まで事業が適正に実施されるかについて確認してまいりたいと考えています。

星名議員
 八ッ場ダムについての知事の思いについてお伺いします。
 平成21年9月16日、民主党政権が誕生し、前原国交大臣は任命されたその日のうちに、地元住民の意見を聴くことなく、「八ッ場ダムの建設中止」を表明しました。その時の地域の皆さんの驚きと落胆は計り知れないものであったと思います。そんな中、大沢知事は地元知事として、毅然として国と対峙し、地元住民の生活再建のため、懸命に八ッ場ダム建設工事の再開を訴えました。そこには何十年もの間、国の政策転換や政治状況に翻弄され続けた地域住民への思いや、安心安全への願いがあったと拝察します。その熱い思いは、県民を動かし、議会を動かし、下流の1都4県を動かし、厳しい状況にあった湖面一号橋(八ッ場大橋)の工事再開を勝ち取り(注5)、ダム事業の再検証へと繋げて、ついには八ッ場を中止した政権の大臣をも中止の撤回と工事の継続決定へと突き動かしたのであります。

注5)八ッ場ダム湖予定地をまたぐ3本の湖面橋の一つ、八ッ場大橋は県道の一部であるが、国が建設費の殆どを支出することから、前原大臣は建設中止を検討したが、2010年2月、群馬県が橋脚の入札を強行した。八ッ場大橋は付替え国道から川原湯温泉の代替地へのアクセス道という位置づけで、ダム建設を前提とした生活再建事業のシンボルとされた。工事はゼネコンと地元業者が受注し、2014年10月に開通したが、交通量は少ない。

 まさに「至誠にして動かざる者は 未だ之れ有らざるなり」―群馬県の誇る初代県令、楫取素彦の盟友、吉田松陰の言葉通り、誠を尽くせば動かされない者などないということではないでしょうか。公約だからと言って、即座に建設中止を決定した政権が世論や下流と県の強い要望に押されて再検証したら、やっぱり必要だから建設継続を決定するとは、どういうことでありましょう。(注6)
 結果的に事業が本当に再開したのは、安倍政権が誕生してからです。この間の地域住民の不安や苦痛や苦悩、さらに再検証による膨大な費用や時間、労力をどのように考えているのか、このことについての前政権の責任はきわめて重大であると言わざるをえません。そこで改めて知事の八ッ場ダムに対する思いと計画変更についての考えを伺います。

注6)八ッ場ダムの検証は、事業主体である国交省関東地方整備局が自ら行い、客観的な検証とは程遠いものであった。検証過程では、八ッ場ダムの必要性が強調され、問題点には一切触れず、富士川から水を首都圏に引くなどの代替案と比較して八ッ場ダム事業が優位であるという理由で「継続妥当」との結論が出された。

大沢知事
 八ッ場ダムには水没住民を中心として、半世紀にわたる反対闘争がありました。しかし、地元の皆さんは苦渋の決断の末、下流都県の治水・利水のために建設を受け入れてきたところです。そうした歴史があったにもかかわらず、平成21年の政権交代でダム建設は一方的に中止をされました。このような状況に対して、私は直接国交大臣にお会いし、中止の撤回を申し入れ、また1都4県の知事と連携し、都県議会議員、何より地元の皆さんのお支えをいただき、建設の再開に向けて全力で闘ってまいりました。ダム検証が行われている間、地元の皆さんは将来に強い不安を持っていたと思います。そのような中でも、湖面1号橋(八ッ場大橋)の工事を着手することができました。今年6月からはコンクリート打設が始まりました。ようやくここまできたかと、感無量でありました。水が満々と貯まったダムのもとに、地元の皆さんが平穏に暮らせる日が近づいてきたという思いであります。(注7)
 今回の事業費の増額は大変遺憾でありますが、地元の皆さんの気持ち、下流都県の皆さんの気持ちを考えると、今回の変更もやむを得ないと判断せざるを得ませんでした。群馬県としては、一日も早いダムの完成と、生活再建事業の完了を強く国に求めていきたいと考えています。

星名議員
 ありがとうございました。知事の思いをしっかりと披歴していただきました。結果は議決に表われることと思います。

注7)八ッ場ダムの地元における反対闘争は1965年から約20年続いたが、1970年代後半には国と県の切り崩しによって地元は疲弊していった。水没予定地には1979年当時、340世帯の住民が暮らしていたが(群馬県調べ)、1985年、群馬県が提示したダム湖観光を前提とした「生活再建案」を長野原町が受け入れて以降、多くの住民が転出し、国が造成したダム湖予定地周辺の代替地へ移転したのは僅か56世帯である(2016年3月末現在、国交省資料)。

★9月26日 
八ッ場ダム建設に関する基本計画の変更の問題点について 角倉邦良議員(リベラル群馬)

角倉議員
 私は八ッ場ダムについては常々反対ということでこの議会でも質問させていただいてきました。
 八ッ場ダムについての疑問点ー洪水対策については、昨年の鬼怒川の堤防の破堤(茨城県常総市)を考えた時、優先順位はダムより堤防強化なのではないか。さらに水利権の確保という点では、水需要の明らかな減少、人口減少、あるいは節水機器の普及、こうした中でこれ以上(八ッ場ダムによる)水利権を確保していく必要があるのかと。さらに造られようとしている八ッ場ダムの、代替地を中心とした安全性が本当にどうなんだろうということも含めて、やはりこのダムには問題がある。八ッ場ダムに反対し、この基本計画変更に反対の立場であることを明確にしたいと思います。
 しかし、一方で、現にダム予定地があるのはこの群馬県です。(八ッ場ダム事業による)生活再建に取り組まれ、そこに暮らしていこうという人たちがいらっしゃるわけですから、事業が安全になされているのか、生活再建が進められているのか、そういった観点も含めて質問したいと思います。
 初めに、今回の計画変更案では、地すべり等安全対策の対象箇所が11箇所から6箇所へと減らされたという問題です。八ッ場ダムを造る立場からすれば、安全は絶対に必要と思いますが、地すべりが起こった後に対処するのと、地すべりが起こる前にできる限りのことをやっておくのと、後者の方がどう見てもお金もかからないし、安全も担保されると思います。工期や経費の圧縮の問題で安全対策箇所が減らされるとしたら、これは逆ではないか、事前にしっかりやるべきだと思うんですが、如何でしょうか? 

上原幸彦 県土整備部長
 (地すべり等安全対策についての国交省の調査について、星名県議の質問への答弁を繰り返し、八ッ場ダム検証時に抽出された11箇所のうち、)5箇所に対しては対策は不要であると、国から聞いております。

角倉議員
 うーん、この問題については、僕ら(の会派)としては、県が安全性をすべて国に丸投げするのではなくて、県としても独自に安全を求めていただきたいと訴えてきただけに、国がこう言っているから、という答弁は残念だという思いがあります。
 次に、ダム建設事業の完了の時期についての質問ですが、何をもって事業の終了というのかを端的にお示しください。

県土整備部長
 事業主体である国がダム本体工事および関連工事がすべて終了し、特定多目的ダム法第14条に基づき、国土交通大臣が完了の公示を行った時点で完了ということになります。

角倉議員
 国土交通大臣が「完了」とした後に、たとえば地すべりが起きた、あるいは他に色々な問題が起きた時に、都道府県の負担があるのかどうか、国が全面的に費用を持つという認識で宜しいのでしょうか? 

県土整備部長
 一般的に完成した後のダム管理に要する費用の一部について、特定多目的ダム法第33条に基づく負担割合に応じ、負担しなければなりませんが、県としては河川法第60条に関する費用に関して、同法の60条と63条に基づく負担割合に応じた負担を求められることになります。ダム完成後に発生した事象については、この考え方に基づいて支払う必要があります。

角倉議員
 そうすると、大臣がダム完成と宣言して、たとえばその後に大規模な代替地の地すべりがあった時には、群馬も含めた関係都県は相応の負担金を払わなければならないという認識で宜しいのでしょうか?

県土整備部長
 それについては、群馬県、そして著しく利益を受ける都県があれば、そこにも負担を求めるということで、国が払う部分と各都県が払う部分とが決められており、負担割合に応じて支払うことになります。

角倉議員
 ダムが完成すればそのあとは負担がないと一般の県民は考えてきたわけですが、今の部長の答弁を伺い、代替地は群馬県そのものですから、事象によっては県は相当の負担を追わなければならなくなる可能性がないとはいえないと思います。
 知事もいつも仰っていますが、群馬県は国に頼まれて、苦渋の選択で八ッ場ダムに対応してきたということです。群馬県として、より強く国に言ってもらわなければならない段階にきているのかなと思っております。
 先ほどの部長のご答弁を聞くと、この八ッ場ダムに問題があり続ける限り、群馬県は相応の負担を払い続けなければいけないということですから、これはダムを建設するという立場に立ったとしても、負担金の問題に慎重に対応しなければいけないと、申し上げさせていただきます。
 次に企画部長、お願いします。
 八ッ場ダム基本計画の変更への同意議案を今議会に提出されているわけです。この計画変更について、知事が国に意見を伝える場合には、県議会の議決を必要とするということですが、その法的根拠についてご説明をお願いします。

向田忠正 企画部長
 今回の議案提案は、特定多目的ダム法第4条第4項の「国土交通大臣は基本計画の変更をしようとするときは、あらかじめ関係都県の知事の意見を聞かなければならない。この場合において、関係都県の知事は意見を述べようとするときは、当該都県の議会の議決を経なければならない」との規定を根拠とするものです。

角倉議員
 そうすると、群馬県議会がこの議案を否決すると、八ッ場ダムの建設は一旦中断するという認識で宜しいのでしょうか?

企画部長
 議会の議決を得られず、知事が意見を提出できなかった場合、国土交通省が計画変更手続きを進めることができず、結果的には生活再建事業も含めて止まるものと、国からは聞いております。

角倉議員
 それだけ議会での議決は重いということだと思います。では知事、お願いします。
 最後の質問になります。知事とは八ッ場ダムについての認識は異なっており、我々の会派の中でもこれまで色々な意見がありました。しかし、ダムを建設してしまっている以上、安全対策と事業費負担の軽減という点では一致できると思います。
 県民としては、更なる工期延長や事業費増額がなされた場合、知事がどう対応されるのか、大きな関心を寄せていると思います。
 ダム建設完了の時期、あるいは基本計画変更についての議決の重さについて質疑させていただいてきましたが、この次、増額があるということになった時は大変なことになってしまうと思うんです。私はやはり、自治体がもっている力を生かして、国交省の言い分で増額されていくことに対して、もっともっと都道府県が力を発揮し、言うべきことを言い、やるべきことをやって、もしさらに増額になるなどということになれば、そんな簡単なことではないですよと、知事にしっかり示していただきたいと思うんですが、知事、如何でしょう?

大沢知事
 (星名議員にも答弁した内容を繰り返し、)万が一今後、基本計画の変更が行われる場合には、やはり関係都県としっかり連携して、内容を精査したうえで判断していかなければならないと思っています。

角倉議員
 地元に県民が住んでいるという群馬県の知事の立場からすると、国交省とはなかなか厳しいやり取りがあるとは推測します。しかし、やはり自治体はよい意味で拒否権も持っているということです。住民の生活再建もしていかなけれがならない、長野原町の皆さんがダムの完成を待ち望んでいるということも、八ッ場ダムを推進する立場からすればあるんだと思います。ただ、何でもかんでも国が言ってくればOKというわけにはいかないという強い意志を是非、知事にお示しいただきたいと思います。
 2013年の朝日新聞の記事で、記者とのやり取りの中で、「増額は断固反対」という知事の言葉が紹介されています。このままでは、これから地すべりなど諸々の問題が出てきた時に、群馬県として増額に応じざるを得ないという状況をどんどんどんどん作られてしまう。ダム完成後も1都5県は、国交省に言われたら打ち出の小槌のようにお金を払わなければいけないとしたら困る。私は根本的には、大臣がダム完成宣言をした後の維持管理については、国が全面的に責任をもって、全額負担すべきだと法律改正をしてほしいぐらいの気持ちです。
 国には増額はそれほど簡単なことではないとしっかりと伝えてもらいたいと思いますが、如何でしょうか?

大沢知事
 私はこの八ッ場ダムにつて、すべて国の言いなりで従ってきたつもりはありません。(民主党政権による)21年の中止(方針)が出された時も、八ッ場ダム建設再開のスタートとなる1号橋(八ッ場大橋)建設に結び付けていただいたわけでありまして、これは八ッ場ダムの県としての大きな成果だったと思っております。
 今後の増額問題についても、県としての意見をしっかりと申し述べていきたいと思っております。

★9月26日 
八ッ場ダム建設事業費の増額と藤岡市の負担について 新井雅博議員(自民党)

新井議員 
 小さな自治体にとっては、小さな話では済まされないお話をさせていただきます。
 今回の増額720億円により、群馬県の負担は約34億円になるとのことですが、同じ八ッ場ダムに水利権を求め、利水者となっている藤岡市も現在、八ッ場ダム建設事業費4,600億円の0.5%、おおよそ23億円を負担しています。
 今回の720億円の増額により、藤岡市が被る、新たに支出しなければならない金額は3億6,000万円になると聞いています。おそらく国の役人は、3億や34億はお金という感覚を持ち合わせていないのではないかという危惧があります。
 今日のニュースによれば、国では臨時国会で3兆円を超える補正予算ということでありますので、国の役人の頭では720億円というのは大したことない、そのように思っているかもしれません。今回の増額に当たって、県当局が国の役人と向き合うときに、それぞれの負担感の違いというものを是非、お話していただきたいと思うのであります。
 藤岡市は今回の増額で、合わせて30億円近く支出することになるでしょう。藤岡市の一般会計は、おおよそ280億円前後と聞いておりますので、1年間の市の予算の1割以上をトータルで八ッ場ダムの建設事業費に支出する。群馬県にその数字を当てはめるならば、800億円近くを投入することになります。小さな自治体になればなるほど、そういった国家プロジェクトに対する負担は大きなものとしてのしかかってくる。
 そうした大きな負担を強いているにもかかわらず、藤岡市は20年の長きにわたって、毎年毎年、暫定水利権(注8)を得るために、数十万円という大金を書類作成に支出し、国に承諾を求める作業をしている。そういった自治体の事務負担も県として理解をし、この増額問題に対しては国としっかり対峙していただきたい、と思っております。
 さらに付け加えさせていただく質問でありますけれども、藤岡市は暫定水利権の状態でありますので、31年度、八ッ場ダム完成のあかつきには、しっかりと手続き等、県当局もご支援をしていただきたいと、部長にお尋ねさせていただきます。

注8)八ッ場ダム事業に参画している自治体の多くが暫定水利権を安定水利権としてもらうことを目的として、高額な負担金を払い続けている。八ッ場ダムの暫定水利権は、八ッ場ダムがなくても取水し続けることが可能なのであるから、安定水利権として認めればよいのだが、利根川の水利権許可権者は国交省であり、八ッ場ダム建設の事業者も同じ国交省である。国交省は、水利権許可権をダム事業推進の手段に使っていると言っても過言ではない。

向田忠正 企画部長 
 八ッ場ダムの建設事業費の増額に伴う市町村の負担についてでございます。藤岡市にとって3億6,000万円の増額というのは、大変に重い負担であるという認識をもっております。また、現在、藤岡市は、八ッ場ダムに使用権を設定し、水道用水として神流川から取水している権利、これは八ッ場ダムが未完成であることから、1年ごとの更新が必要な暫定水利権として国から許可をされているものです。こうした毎年の更新手続きというのも、自治体にとっての負担になっているという認識をもっております。
 八ッ場ダムが完成すれば、この暫定水利権の更新期間はまず3年に延長される見込みであると、国からは聞いております。さらに、八ッ場ダムに藤岡市が設定する使用権と、他の自治体が保有する下久保ダム(注9)の使用権を振り替えて、安定水利権に変更する手続きができるようになります。こうしたことからも、八ッ場ダムの早期完成を求めていくと共に、藤岡市と連携いたしまして、国ともしっかりと協議を進め、その方向に進められるように努力をしていきたいと考えております。

注9)藤岡市が水道用水として取水する神流川の上流に水資源機構の下久保ダムがある。八ッ場ダムと同時期に計画された下久保ダムは、1968年に竣工。利根川水系では矢木沢ダムに次ぐ規模。

★9月27日 本会議 一般質問
県営水道事業について 安孫子哲議員(自民党)

安孫子議員 
 県央第一水道と県央第二水道、つまり県営の水道事業の料金について、確かに建設の時期や規模の違いもあるでしょうが、県央第一水道の料金は1立方メートル当たり50円なのに対して、県央第二水道は倍以上の107円です。この県央第二水道の供給料金を下げろ下げろというわけではなくて、昨日の議会で八ッ場のお話もありましたけれど、八ッ場ダム事業に市町村さん、苦労されているんです。 当然、前橋も。よって107円のこの数字を1円でもいいから下げていただきたいと思うんですが、皆さん注目しておりますので、ご答弁よろしくお願いします。

関勤・企業管理者
 現在、水道事業は人口減少や節水機器の普及によって、水需要が伸び悩む中で、老朽化施設の更新費用の増加など、全国的に水道事業の経営環境は厳しさを増しております。
 県央第一水道と県央第二水道の受水市町村への供給料金の差について、水道事業は浄水場、あるいは送水のための管路、これらの設備を整備し、投下した資本を供給料金を通じて回収しなければならない仕組みになっているために、どうしても施設整備の減価償却費が給水原価を大きく左右することになります。
 平成10年に建設した県央第二水道は、それより15年前の平成58年に建設した県央第一水道と比べ、施設規模はほぼ同格ですが、資材の高騰などにより建設費は約3倍近くかかっております。また、水利権の取得費も生じているというのが実際の数字でございます。これらがどうしても供給料金の差になっているのも事実です。
 そういう中で、お尋ねの料金の見直しについてですが、県央第二水道の供給料金は、平成26年から28年の3年間の供給料金を決定した平成25年の時の見直しの際、1立方メートル当たり110円から107円に3円下げさせていただきました。今年度も実は平成29年度から平成31年度までの次の供給料金の見直しを行う年に当たっております。そういう中で、県央第二水道の減価償却が進んでいること、あるいは更なる経費の節減を図ることにより、今回の見直しでも給水供給料金をさらに引き下げたいと考えているところです。県央第一水道と第二水道の料金の差を直ちに解消するのは正直言って難しいところはありますが、この差を少しでも縮められるように、引き続き今後も努力していきたいと考えております。

安孫子議員
 すばらしいご答弁でした。
 下げるという言葉がどういうことなのか、皆さんにわかりやすく数字をお示しするとあらば、第二県央水道の前橋市では、供給料金を1円下げていただければ、年間約1千万円負担が減るんです。本当は前橋以上に(県央第二水道を)使っている伊勢崎の県議が喜ばなければならないんですね。
 水道会計は水道料金の負担が減った金額で子供たちの面倒を見るというわけにはいかないんです。水道会計は水道会計で使わなければいけない。
 前橋市本庁管内の給水管を見てみると、60年から80年経過して、震度5の地震が三回続くとはねるといわれているんです。今回の補正予算、前橋市の予算書見たら40億円も公共事業費が削られているんです。給水管の交換ができない、だから県央第二水道の負担金が下がったそのお金で給水管を交換したいと、(前橋市より)伺っております。企業管理者のご答弁を聞いて、あ~、やっぱり見ているところは見てくれているんだなーと、本当にうれしい次第であります。
 それと同時に八ッ場ダムのお話が各議員さんから出ておりました。720億円の増額をされる工事費、これを国にしっかり意見してやっていただきたい、そのことはわかるんですけれども、もう一点見方を変えると、もしかして群馬県が負担金が増えちゃったこと、増額したことによって、水道料金に影響が出てしまうんではないか、そう心配される声もあります。そのことについて伺えればと思います。

関 企業管理者
 企業局は四つの水道事業(注10)を今やっておりますが、県道第二水道と東部地域の水道、この二つの水道事業が実は、八ッ場ダムに水利権を求めております。ダムが完成するまでの暫定的な不安定な水利権を早く安定的な水利権にするためにも、一刻も早いダムの完成が待たれるところであります。
 そういう中で、八ッ場ダム建設に関する基本計画が変更され、ダム建設事業費が増額となった場合、群馬県のダム建設負担金は33億8千万円増額されることになります。このうち企業局の水道事業で、水利権を得るために必要となる負担金が14億3千800万円含まれております。お尋ねの供給料金への影響でございますが、負担金の増額は取得する水利権の減価償却費を増加させることになりますので、現時点での受水市町村の給水量を前提として試算させていただきますと、給水原価を1立方メートル当たり1円弱ほど上昇させる要因となります。ただ、企業局としては、先ほども答弁しましたが、引き続き経費節減の経営努力を行う中で、八ッ場ダムの事業費増額があっても、受水市町村の供給料金に影響させることなく、さらに引き下げる方向で検討を進めております。

安孫子議員
 県が負担することによって、八ッ場で水利権を得る東部と県央第二には影響が出るだろうなと思っておりましたが、1円を市町村に負担させないようにするということで安心したんですが、それと先ほどの値下げは一緒に考えないでもらいたいんです。3年ごとの見直しでやっていただくーつまり、八ッ場ダム完成後の料金の見直しもしっかり視野に入れていただきたいと思います。3円下がって3,000万、6円下がって6,000万あれば、年間本庁管内だけでも水道管を3本4本直せるんです。そのことを要望して、企業管理者への質問といたします。

注10)群馬県企業局は県央第一水道、県央第二水道、東部地域水道、新田山田水道の4事業を実施。県央第一水道の供給区域は前橋市、高崎市、榛東村、吉岡町。県央第二水道の供給区域は前橋市、桐生市、伊勢崎市、渋川市、玉村町。東部地域水道の供給区域は太田市、館林市、大泉町、板倉町、明和町、千代田町、邑楽町。