2013年1月29日
利根川水系の河川整備計画の策定をめざしてきた国交省関東地方整備局は、本日午後、突然、河川整備計画の原案なるものをホームページで公表しました。
国交省のホームページに掲載された記者発表
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000072680.pdf
河川整備計画とは、利根川水系において今後20~30年間に実施するインフラ整備の中身を定めるもので、八ッ場ダム計画の上位計画に当たります。
本来は、上位計画である河川整備計画を先に定め、その中に八ッ場ダム計画を位置づけて初めてダム計画が法的な根拠を与えられるのですが、河川整備計画の策定を河川管理者(利根川水系の場合は国交省関東地方整備局)に義務づけた河川法改正は1997年のことであり、1997年以降も関東地方整備局が利根川の河川整備計画の策定作業を怠ってきたため、八ッ場ダムはこれまで上位計画のない状態で事業が進められてきました。
八ッ場ダムをはじめ、利根川水系において巨額な税金を投入する大型公共事業については、流域住民の反対の声が強いのですが、わが国のこれまでの河川行政では、流域住民の意見を公共事業に反映させる仕組みがありませんでした。1997年の改正河川法は、流域住民の意見を不十分ではありますが取り入れることを可能にしたものでした。このため、流域住民と行政が対立することが少ない多摩川水系などでは、スムーズに河川整備計画が策定されたのですが、問題が山積する利根川水系では、関東地方整備局が河川整備計画を策定できずに実質、作業を棚上げしてきました。ところが、民主党の野田政権が八ッ場ダムの本体工事の予算執行には河川整備計画の策定が必要というハードルを設けたため、国交省は急遽、昨年から河川整備計画の策定作業に取り組まなければならなくなりました。
しかし、昨年9月から10月にかけて開催された有識者会議では、現在の河川行政に批判的な学者らが、国交省の示した利根川の目標流量に科学的妥当性がないことを、様々な角度から指摘し、八ッ場ダムが利根川の洪水対策として不要であることが露呈する結果となりました。河川整備計画の策定作業を強引に進めようとした国交省のやり方に対しては、与党議員から批判が相次いだこともあって、関東地方整備局は立ち往生してしまい、その後、予定していた9回の会議を開かずに3カ月以上が経過しました。
公共事業の大盤振る舞いを掲げる安倍政権の誕生は、関東地方整備局にとって、ブレーキをかける政治の圧力がなくなったことを意味します。本日の記者発表は、関東地方整備局が流域住民、有識者の反対を押しのけて、強引に利根川の河川整備計画を策定する姿勢を示したものです。
記者発表に伴って、国交省関東地方整備局がホームページに掲載した資料は以下の二つです。
○1.「利根川・江戸川河川整備計画」における「治水対策に係る目標流量」について関係する住民や学識経験を有する者、関係都県よりいただいたご意見から得られた論点及びそれに対する河川管理者の見解[PDF:2066KB]
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000072613.pdf
○利根川水系利根川・江戸川河川整備計画(原案)[PDF:6343KB]
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000072612.pdf
これらの資料について、関東地方整備局は記者発表の中で、次のように説明しています。
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国土交通省関東地方整備局では、「利根川水系利根川・江戸川河川整備計画」の策定に向けた取り組みを進めているところです。
このたび、「利根川水系利根川・江戸川河川整備計画(原案)」を作成しましたので、お知らせします。
また、あわせて「治水対策に係る目標流量」を設定するに当たっていただいたご意見や、河川管理者の見解についてもお示ししています。
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利根川水系の河川整備計画策定に当たり、国交省は当初、「目標流量」を先に決定することをめざしていました。これは過大な目標流量を設定することで、八ッ場ダムの必要性を強調し、利根川の河川整備計画に八ッ場ダム計画を位置づけ易くするためでした。
しかし、昨年9~10月に開催された利根川の有識者会議では、過大な目標流量が科学的根拠がないと批判を浴び、これに対して国交省は、「最終的に決定権は関東地方整備局にある」と繰り返すのみでした。
「目標流量」に関する有識者会議の議論で墓穴を掘るだけだった国交省は、今回の発表資料で、流域住民や有識者から「いただいたご意見」と河川管理者(関東地方整備局)の見解を並べるだけで、「目標流量」の議論を切り上げようとしているようです。
「河川整備計画の原案」発表を大きく打ち出し、「目標流量」の資料を添え物のように目立たない形で公表したのは、そのためでしょう。けれどもこれでは、改正河川法の趣旨は生かされず、行政がやることには誰も逆らえないことになってしまいます。八ッ場ダムの歴史は、河川行政が民主主義とは程遠いものであることを示していますが、利根川の河川整備計画の策定をめぐる関東地方整備局の姿勢は、八ッ場ダム事業における住民無視と何も変わりません。
本日公表された「河川整備計画の原案」には、むろん八ッ場ダム事業が含まれています。国交省はこの原案について、早くも今週金曜日(2月1日)に利根川流域の関係都県会議を開催すると発表しています。
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000072681.pdf
利根川流域の関係都県は、河川行政において国交省関東地方整備局と連携していますので、関係都県会議開催の目的は、国交省の原案を公の場で関係都県に賛同してもらうためと考えられます。国交省も関係都県も、八ッ場ダムの本体工事の着工をめざす方針に変化は見られません。
昨日は、国交省の現地事務所と群馬県が八ッ場ダムの関連工事の現場を報道関係者に公開し、そのニュースがNHKや上毛新聞で取り上げられました。湖面橋や道路、鉄道の付け替えなど、膨大な税金を費やしてきた工事がこれほど沢山あるのだから、今さら後戻りはできないと、既成事実をアピールしているようでした。
なお、今日の記者発表について、ジャーナリストのまさのあつこさんがさっそく詳しいレポートをブログにアップしています。
http://seisaku-essay.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/post-fdf6.html