八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

水没予定地の風景とダム事業による樹木の伐採

 今秋も多くの方が現地を見学されました。
吾妻川と水没予定地 あしたの会主催の現地見学会のほか、他の市民団体やグループが企画した視察もありました。
 水没予定地に佇み、住民が生活を営んできた土地や周りの山々の風景を眺めた方々は、変わりゆく風景をどのように受け止めたでしょう。

 右は、湖面橋となる「八ッ場大橋」から上流側を撮った写真です。濁った緑白色の吾妻川が中央を流れ、両岸の渓畔林が残されているのが見えます。

 下は、同じく八ッ場大橋から撮った写真です。
 中央を草津方面に向かう旧国道が走っていますが、今は国交省の許可がないと入れません。
 左手前は、かつては家屋が並んでいた川原湯地区の下湯原ですが、本体工事のために利用されており、発掘調査が終わったところは地面が剥き出しになっています。その奥に見える坂を上がっていくと、川原湯温泉街がありました。
 水没予定地の風景 (2)

本体工事現場と残土 右は八ッ場大橋から吾妻川の下流側、八ッ場ダムのコンクリートの壁が建設されるV字谷の吾妻渓谷の方を見て撮った写真です。
 眼下に広がるのは川原湯地区の下湯原で、2年前までJR吾妻線の川原湯温泉駅がありました。昨年は下湯原遺跡の発掘調査をやっていました。
 土が剝き出しになっているのは、吾妻渓谷の本体工事現場で掘削した土砂の置き場です。国交省八ッ場ダム工事事務所は、本体工事の基礎岩盤の掘削が始まった当初からこの場所を残土置き場として利用する予定でしたが、発掘調査が終了するまで別の場所に土砂を運搬しなければならなかったとして、八ッ場ダム基本計画の変更に事業費約12億円の増額を盛り込みました。発掘調査期間は本体工事との関係で十分の時間が取られたとはいえず、調査期間終了時には、未調査の大量の土や遺物が調査現場から搬出されたようです。

DSCF9207 水没予定地の川原湯温泉には、坂道の途中に立ち入り禁止の柵が設けられ、そこから下には行かれなくなってしまいました。
 立ち入り禁止区域はこれからますます広がっていきそうです。

 柵の向こうの右手の山の中腹にあった「聖天さまの露天風呂」は、跡形もなく解体されています。木立に囲まれた露天風呂は、川原湯温泉でも人気スポットの一つでした。
 これから、右手の山裾に尾根を巻く形で町道が建設される予定です。
聖天さまの露天風呂跡

彼岸桜が狂い咲き (2) 坂の上の川原湯神社の境内では、毎年お彼岸の頃に咲く桜がポカポカ陽気のせいか狂い咲き。
 神社のある所はダムができても水没はしませんが、来年の春祭りまでに代替地へ移転する予定です。
 川原湯神社は地元が国交省と補償交渉で妥結した2001年、春祭りの後に火事で焼けました。現在の社殿は、その後に建てられたものです。
 八ッ場ダム事業の補償基準が決まり、多くの住民が川原湯地区から転出して人口が激減する中、社殿の再建は大変だったと、当時の役員から伺ったことがありますが、その社殿もいずれ解体されるのでしょう。

川原湯神社の新築 川原湯神社の移転再建地は、上湯原の新しい川原湯温泉駅の裏手にあります。
 県道の脇の山側に建設中の新しい川原湯神社は、砂防ダムに囲まれています。
 八ッ場ダム反対闘争のリーダーから長野原町長になった故人が晩年、上湯原の梅林をよく歩いておられました。川原湯神社の移転地を見ると、「私たちは他に行き場がないのです」と呻くように仰った言葉が聞こえてくるようです。

金鶏山と川原湯温泉街 右の写真は、吾妻川の対岸の川原畑地区から川原湯の山並みを眺めた写真です。
 川原湯温泉の新駅のある上湯原は、この山の谷が長い歳月の間に削られ、土石流によって運ばれた土砂が堆積した場所です。八ッ場ダム事業では、この谷のすべてに幾重にも砂防ダムを建設中です。
 山の背後には八ッ場ダムの骨材をとる原石山があり、ダム事業でつくられた約3千メートルのトンネルで運搬されています。
 
 骨材は廃線になった水没予定地の線路跡に設置されたベルトコンベヤーで本体工事現場に運ばれます。ベルトコンベヤーはトンネルと水没予定地の区間を合わせると10キロにもなります。ベルトコンベヤーが稼働している時は大きな音がします。
 ベルトコンベヤーの背後の山の中腹に川原湯温泉街がありました。温泉街に残された建物が木々の間から見えています。八ッ場ダムが満水になると、温泉街のあったところはすべて沈む予定です。
 ベルトコンベヤーと川原湯温泉の山

DSCF8976 八ッ場ダム事業では昨年まで、水没予定地の樹木の伐採は経費節減のため殆ど行わないと説明されてきましたが、8月に国交省関東地方整備局が公表した基本計画の五度目の変更案に樹木の伐採による増額約36億円が盛り込まれました。
 当会による情報公開請求の結果、今月11日に開示された国交省の資料の一部を以下に掲載します。今年度の計画図を見ると、水没予定地の樹木伐採が広範囲で行われることがわかります。(写真左=伐採作業の工事名は「吾妻川河道整備工事」)

 当初の伐採範囲は流木止めより下流の黄色の部分のみでしたが、計画変更による新たな伐採範囲が赤色で示されています。
キャプチャ

 平成28年度の伐採計画図その1(国交省の開示資料より作成)
 右手に八ッ場ダムの本体工事現場があり、吾妻川を挟んで南側が川原湯地区、北側が川原畑地区。両地区の伐採範囲を赤い矢印で指しています。

キャプチャ

 川原湯地区の水没予定地で進められているカラマツの伐採。カラマツの伐採

 川原畑地区・三ッ堂の大岩周辺の伐採。三ッ堂周辺の伐採