八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

南波県議による八ッ場ダム質疑(群馬県議会12/5)

 さる12月5日、群馬県議会の一般質問で、ダム予定地を抱える吾妻郡選出の南波和憲議員が八ッ場ダムを取り上げました。
 http://www.gunma-pref.stream.jfit.co.jp/?tpl=speaker_result&speaker_id=132

 自民党の南波議員は、八ッ場ダムの関連工事を受注してきた南波建設の実質的なオーナーであることから、最も八ッ場ダム事業に詳しい県会議員の一人とされます。
 (株)南波建設のホームページでは、今回の質疑で取り上げられた八ッ場ダム事業の各種工事を受注していることが明らかにされています。➡http://www.namba-web.co.jp/h-koji1.html

 南波議員と県とのやり取りは、建設省と連携して地元に八ッ場ダム計画を受け入れさせた群馬県と自民党の立場をよく表しています。

 質問の要旨をお伝えします。(注)、カッコ内は当会による補足説明です。

平成28年第3回後期定例会 平成28年12月5日

1 八ッ場ダムについて
(1)知事の所感について  知事

南波議員:まず、知事に、八ッ場ダム事業について伺います。
09年10月4日 吾妻線鉄橋工事 平成21年9月16日、民主党政権が発足したその日、前原国交大臣はマニフェスト通り八ッ場ダムを中止すると明言し、”西の川辺川ダム 東の八ッ場ダム”が中止となりました。(注1)

(注1):川辺川ダムは休止されているが、今に至るも国交省は中止手続きを取っていない。八ッ場ダムは本体工事の入札期間であった平成21年8月、マニフェストに八ッ場ダム中止を掲げる民主党政権の発足を予測した国交省が自ら本体工事の入札手続きを凍結。だが、民主党政権発足後も八ッ場ダム事業は中止されず、事業予算の9割以上を占める関連工事は「生活再建事業」の名の下に続けられた。
写真右上=八ッ場ダム事業によるJR吾妻線の付け替え工事。政権交代直後の2009年10月4日撮影。民主党政権の間も工事は続いた。

群馬県庁と利根川 奇しくも同じ日、昭和22年9月16日にカスリーン台風が襲来し、死者が千人を超え、群馬県内でも592人が亡くなる大災害でした。利根川の治水をしっかりしなければならないという中から、八ッ場ダムが計画されました。そして、本体着工の直前、カスリーン台風と同じ日に、民主党政権は八ッ場ダムを中止しました。
写真右=利根川とノッポビルの群馬県庁。八ッ場ダムが建設される吾妻川が利根川と合流する地点のすぐ下流側に位置する前橋市の県庁付近では、八ッ場ダムの治水効果が最も発揮され、大雨の時に浸水する河川敷が水害を免れるとされる。

 川辺川と八ッ場、二つのダム中止方針に対して、熊本県知事と群馬県知事の対応は分かれました。
 川辺川ダムでは、熊本県知事は、ダム予定地住民の生活再建は行っていくものの、ダムは造らない、他の治水の方法によるべきだという、当時、民主党系の方々が訴えた手法と同じでした。一方、群馬県知事は、あくまでダム建設の継続を望み、そのためには当面、生活再建事業を継続していただきたい、という方針を示されました。

打越代替地 それから7年が経過しました。川辺川ダム予定地では、地元・五木村の願いも空しく、生活再建事業は進捗せず(注)、ダムによらない治水事業の話も全く進展していないとのことです。一方、八ッ場ダム事業では、生活再建事業も進展し、工事計画、金額(五度目の計画変更、事業費の再増額)も確定し、すでに本体工事に着手しています。
写真右=川原湯地区の水没住民が移転した打越代替地。水没予定地の斜面には本体工事の残土が積み上げられている。2016年11月16日撮影。

(注2)八ッ場ダム事業とは異なり、川辺川ダム事業では、民主党政権がダム中止を掲げた平成21年時点で、生活再建事業の殆どが終了しており、その後、ダムを前提としない地域の再建を五木村と熊本県が模索して様々な事業を行っている。ダム事業により人口が減少し、再建が容易でないという点では八ッ場ダム予定地も同じであるが、もともと川辺川ダム予定地が林業等を中心とした山奥深くの村落であったのに対して、八ッ場ダム予定地はダム事業開始前は川原湯温泉を核とした活気のある観光地であり、ダム事業による地域振興策により、ダム湖観光を核としてさらに発展するという構想を群馬県が提示し、地元がこれを受け入れたことから、状況はより深刻ともいえる。

 そこで民主党政権が事業の中止を表明して以来のことを振り返って、八ッ場ダム建設地の知事として、現時点における所感を伺います。

自民党のポスターと湖面1号橋大沢正明知事:知事に就任した平成19年は、八ッ場ダム事業の工期を平成22年から平成27年へ5年間延長する(三度目のダム基本計画変更の)議論が始まった年でした。この時は、ダムの完成が遅れることにより、地元の生活再建に支障が出ないよう、副知事をトップとした八ッ場ダム地域生活再建推進連絡会を設立するなど、県として全庁態勢で生活再建支援に取り組んだところです。
 しかし、平成21年の政権交代により、国は一方的に工事の中止を表明しました。苦渋の選択によりダムを受け入れた地元の皆様がこれ以上苦しむことのないよう、関係各方面に様々な働きかけを行うとともに、一都五県の知事との連携により、中止の白紙撤回と生活再建事業の継続を強く求めました。当時の前原国交大臣に再三申し入れを行い、湖面1号橋(八ッ場大橋)の着手を認められ、生活再建事業に遅れの出ないよう、最大限の努力をしてきました。写真右上=水没予定地の川原湯温泉駅周辺に建設された湖面1号橋。2009年の政権交代の後、自民党の巻き返しの象徴として推進された。

左岸作業ヤード その後、事業は再開しましたが、中止の影響もあり、工期がさらに四年延びて、平成三一年度の完成となりました(第四回八ッ場ダム基本計画変更)。また、県議会の先の第三回定例会で事業費の再増額に関する基本計画の変更に対して議決をいただき、ようやく八ッ場ダムの完成が見通せるようになったと考えています。
写真右=八ッ場ダム本体左岸作業ヤード
 現地では6月にダム(減勢工部)のコンクリート打設も始まり、ダム湖を前提とした生活再建事業も最終段階に入っており、政権交代当時とは隔世の感があります。これまでの紆余曲折は大変なものでありましたが、南波議員をはじめ、議会の皆様のご協力をいただいたおかげで、なんとかここまで来たと考えています。改めて感謝申し上げます。県としては、引き続き国に対して、一日も早いダムの完成を求めるとともに、地元の皆様の笑顔が見られるよう、ダム湖を前提とした生活再建に全力で取り組む所存です。

南波議員:知事が前原大臣と一対一で話し合われ、湖面一号橋の建設継続を決めていただいた、あの時が節目だったのかなと、そのような思いが今になるといたします。定礎式も明年早々に行われると思いますし、これからいよいよ、八ッ場ダム事業は最終段階を迎えます。どうぞ最後までよろしくお願いします。
 
(2)本体完成までに生活再建及び地域振興対策として行うべきことについて 
 ア.県道・川原畑大戸線の完成時期について  県土整備部長
 イ.川原湯地区・横壁地区の地域振興対策の進捗状況について  県土整備部長
 ウ.観光などの地域振興対策の実施状況について  県土整備部長

南波議員:平成31年度完成を目指して、本体工事が着々と進んでいます。本体完成までにダム予定地住民の生活再建と地域振興を担う群馬県として、やっておくべき課題があろうと思います。
 そこで三点について伺います。一点目は県道・川原畑大戸線の完成時期です。この路線の開通により、西吾妻と高崎が近くなります。また、東吾妻町坂上地区の人は、JR吾妻線の川原湯温泉駅の利用が可能となります。第一回定例会の折、岸善一郎議員がこの路線の大柏木トンネルについて質問しました。地元では八ッ場ダムの完成と同時期の開通を望む声が強いわけですが、開通はいつ頃となるか伺います。
写真右=骨材を運ぶベルトコンベヤーが設置された大柏木トンネルの入り口

穴山沢とクラインガルテン2 二点目としては、水没五地区については、それぞれ地域振興施設を設ける計画となっています。すでに川原湯温泉の王湯会館、川原畑地区のクラインガルテンや林地区の道の駅、さらに長野原地区の観光案内所、東吾妻町の松谷地区では道の駅が完成し、それぞれに賑わいを見せています。残された川原湯地区と横壁地区の施設について、現在の状況はどうなっているのでしょうか?
写真右=川原畑地区のクラインガルテン(菜園付き別荘)。穴山沢の大規模盛り土造成地に建設された。2013年12月27日撮影

 三点目としては、ダム完成後、観光地として整備するために、長野原町や東吾妻町とともに観光振興対策を考えておられるところですが、桜の木を植えたり、トロッコ型自転車を走らせたり、あるいはダム本体の中にエレベーターを設置して、ダムを上下流から眺められるようにするなど、いくつかの提案を聞いているところです。ダム周辺の観光などの地域振興対策について、どのような事業を進めようとしているのか伺います。

大柏木トンネルとトロッコのレール上原幸彦県土整備部長:初めに県道・川原畑大戸線の完成時期についてでございますが、大柏木トンネルは地域交通の効率化や観光振興のほか、西毛地域と吾妻地域を結ぶ広域連携の要として重要な施設であると認識しています。現在、大柏木トンネルでは、八ッ場ダム本体工事の原石山からダムサイトへダム本体コンクリートに必要な砕石を運搬するためのベルトコンベヤーが設置されています。大柏木トンネルを県道として供用するためには、ダム建設に必要なベルトコンベヤーが撤去された後、舗装や照明などの工事を行う必要があります。現在、平成31年度のダム完成に合わせ、大柏木トンネルが開通できるよう、具体的な協議を行っているところです。

 次に川原湯地区、横壁地区の地域振興対策の進捗状況についてです。現在、川原湯地区および横壁地区の地域振興施設につきましては、地元の皆様が中心となって規模や内容について活発な議論が行われているところです(注3)。群馬県といたしましては、地元および町に寄り添い、検討に必要な資料や情報の提供、地元の皆様が持っているイメージを具体化する作業や新たにできる地域振興施設での経営相談などを積極的に支援しているところです。
 なお、ダム完成まで残り4年弱となりまして、建設にかかる時間も考慮いたしますと、非常に限られた時間の中で検討していく必要があります。地元が真に望む地域振興施設について、一日も早く完成するよう、国、県、町が一体となって、しっかりと支援していく所存です。

みちの駅「あがつま峡」オープンshuku(注3)長野原町の水没五地区の地域振興施設や東吾妻町の道の駅(写真右)は、八ッ場ダムの水源地域対策整備事業として下流都県の負担金で建設されることになっているが、完成後の維持管理は地元負担となる。もともとが観光地であった川原湯地区は、地域振興施設による観光業の再建が最も必要とされる地域であるが、人口が減少する中、施設を建設しても、その後の維持管理が困難であることが問題となって、横壁地区とともに議論がなかなか前に進まないとされる。交通の拠点として活用される林地区と東吾妻町の道の駅や、草津温泉の最寄り駅として乗降客数の多い長野原草津口駅に設けられた観光案内所は軌道に乗っているが、川原畑地区のクラインガルテンは、当初から20世帯の住民では維持管理を負担できないとして、長野原町が管理している。

 最後に、観光など、地域振興対策の実施状況についてのお尋ねですが、まず、議員よりご質問のあった三つの地域振興対策の実施状況についてお答えします。
 「やんば一万本桜プロジェクト」につきましては、現在、具体的な植樹場所などを示した全体計画の早期策定に向けた作業を進めているところであり、今年度末を目途に策定できるよう、関係者と調整していきたいと考えています。桜の植樹につきましては、地域住民と行政が協働して、平成25年12月から昨年度までにダム湖となる水没地の周辺で417本の植樹を行ったところであり、来年3月にも川原畑、川原湯、林、横壁の四地区で植樹を予定しています。なお、平成27年6月から、植樹した地域の草刈りなども、地域住民と行政が協働して行っているところです。

吾妻線(松谷) 次に、トロッコ型自転車につきましては、JR吾妻線の廃線敷きの活用策として、ダム下流の東吾妻町が検討しておりますが、現在、町と国が廃線敷きの利活用について協議していると聞いております。
写真右=廃線となっているJR吾妻線の線路。東吾妻町松谷地区。線路が錆び、草が生い茂っている。

 観光用エレベーターにつきましては、吾妻渓谷とダム湖を一体的に利用する観光客の動線の一部としてダム本体に設置するものであります。ダム本体工事の完了と同時に、エレベーター工事も完了させる予定であります。このほか、ダム湖面の利活用とか、名勝などのライトアップ、ダム湖周辺の観光拠点を結ぶレンタサイクルの導入などについても、現在検討しているところであります。引き続き、八ッ場ダム周辺の長野原町と東吾妻町が連携した様々な地域振興策がダム完成までに完了できるよう、県としてもできるかぎりの支援を行ってまいりたいと考えています。

南波議員:ありがとうございます。地域振興対策として地域振興施設については、一日も早く具体化していかないと、本当に間に合わなくなっちゃうんじゃないかなと、そのようなことを危惧しているところでございます。是非、地元の方々との話し合いを、より密にしていただきたいと思います。観光振興対策についても同様ですが、これについては、かなりの部分、お金が伴うという要素もあるわけですので、そうした点も踏まえて、是非実行に向けてやっていただければありがたいと思います。

写真下=川原湯温泉街のメインロードであった県道が潰され、聖天さまの露天風呂があった山の尾根を巻く町道が新たに建設される。2016年12月12日
温泉街の町道建設

写真下=川原湯温泉の中心であった共同湯・王湯の跡。タイルが張られた二つの浴槽が残されている。王湯の後ろにやまきぼし旅館(休業中)が残っているが、今年4月に告示された事業認定により、この建物も今年度中に解体しなければならない。2016年12月12日
王湯跡とやまきぼし