水道民営化の道を開く水道法改正が3月7日に閣議決定され、今国会に改正案が提出されています。
今朝の東京新聞がこの問題について詳しく伝えています。
紙面より全文を転載します。(太字は当会による加筆です。)
◆2017年3月14日 東京新聞特報部
ー民営化推進へ水道法改正案 水質悪化 値上げ懸念もー
地方自治体の水道事業の民営化を進める水道法改正法案が、今国会に提出されている。人口減少や人手不足に直面する水道事業の強化を掲げているが、これは生活に直結する公共財をビジネスの論理に委ねることも意味する。消費者団体などは、水質の悪化や料金値上げを懸念している。(橋本誠)
厚生労働省によると、改正法案は企業の参入を促す民営化と、複数の自治体の水道事業をまとめる広域化を柱とする内容。
民営化の中でうたっているのが、浄水場などの施設の所有権は自治体に残しながら、運営権を企業に売却できる「コンセッション方式」の採用だ。これにより、自治体が定めた上限・下限の範囲内で、企業が水道料金を設定できる。
厚労省水道課の担当者は「自治体から民間のノウハウを生かしたいと望む話があった。公務員削減で民間活用を進めたり、人口減で水道事業収益が減っているためでは」と語る。
現行制度でも業務の委託はできるが、これまで民間にとっては災害で損壊した施設の修繕費や倒産による負担を負うリスクがあり、運営全体を委ねた自治体はなかった。このため、改正法案は災害時などの責任を自治体が負える形にし、企業の参入を促している。
担当者は「においや色など水質の基準は、公営でも民営でも適用される。料金は最初に決める幅を超えることはあり得ない」とするが、疑問点は多い。
NPO法人・日本消費者連盟の大野和興共同代表は「浄水には微生物や砂を使ってゆっくりきれいにする方法と、化学薬品など工業的手法で一気に浄化するものがある。微生物を使うほうがおいしい水になるが、効率が悪いので全国的に廃止が進み、工業的手法が多くなっている。改正法でそうした動きがシステム化され、水がおいしくなくなるのでは」と話す。
一部の自治体の効率化を重視しすぎる傾向についても警戒する。「ぜいたく品ならまだしも、水は食料以上に大事なもの。現在の自治体の水道会計は原則、独立採算制だが、不足すれば一般会計から繰り入れ、施設改修も国の補助金などを得てやっている。現在の体制を維持し、資金不足があれば税金で補うべきだ」
ダム問題に取り組む市民団体「水源開発問題全国連絡会」の嶋津暉之共同代表は「外国資本の圧力で、門戸を開こうとしたのではないか」と法改正の動きの背景を推測する。
「推進側は合理化で水道料金が下がる可能性があると言っているが、経営権を握る改正である以上、収入が少なければ値上げもできる。海外で水道事業を民営化したケースでは、水質の悪化や料金の高騰を招いており、パリやベルリンなど欧州の自治体では再公営化が進んでいる。米アトランタでは浄化処理のレベルを落としすぎ、蛇口から茶色の水が出た例もある」
日本でも、浄水場の夜間運転や検針業務など部分的な外注化は広がっている。東京・多摩地方では武蔵野市、昭島市、羽村市、檜原村を除く二十六市町の水道事業が都に一元化され、都は施設管理などを関連企業に委託している。
一方、大阪市議会では一昨年、市の出資企業が水道事業を運営する民営化条例案が提出されたが、否決された。昨年再提出され、継続審議になっている。
嶋津代表は「水道は生活に直結する公共財だから、公営を維持するべきだ。各市に水道部門があって、管理されているのが本来の姿ではないのか」と訴えた。