八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

川原湯温泉の観光業とダム観光

 八ッ場ダムに関するマスコミの報道の大半は、事業者の記者発表を情報源としたものです。
 先ごろ上毛新聞、読売新聞、産経新聞に掲載された本体工事見学ツアーの報道もその一つです。

 平成29年3月22日 国交省関東地方整備局八ッ場ダム工事事務所
 http://www.ktr.mlit.go.jp/kisha/river_00000305.html
 -カスリーン台風から今年で70年!八ッ場(やんば)ダム建設がいよいよ佳境に! 本年4月1日から八ッ場ダム観光プロジェクト「やんばツアーズ」がスタートします。ー

旧温泉街の伐採 八ッ場ダム予定地にある川原湯温泉では、観光資源として最も大切な温泉源がダムに沈み、名勝・吾妻渓谷にダム本体が建設されることから、自然資源の代替として「ダム観光」による地域振興をめざさなければならなくなりました。しかし、地元がダム計画を受け入れた1985年からすでに32年が経過し、住民は激減しています。水没予定地の川原湯温泉街は、往時は20軒の旅館のほか、多くの飲食店が軒を連ねていましたが、現在、代替地で営業している宿泊施設は5軒、常時営業の飲食店はわずか1軒です。
(写真右=水没予定地の旧温泉街では、3月末までにすべての建物が解体される。樹木の伐採も進んでいる。)

打越代替地 3月の群馬県議会では、川原湯温泉の宿泊客数について、県特定ダム対策課が平成24年度から今(平成28)年度の12月末までの以下の数字を明らかにしました。
 質問した本郷高明県議によれば、事前の質問通告は10年間の宿泊客数であったということです。回答が平成24年度からであったのは、過去にさかのぼれば、観光業の衰退がより明らかになるからでしょうか。
(写真右=ダム湖畔となる山の中腹に造成された川原湯温泉の移転地、打越代替地。50メートル以上の盛り土造成地はこのままでは安全を確保できず、ダム湖に水をためる前に安全対策工事が実施される。)

※以下の旅館名は、あしたの会による。

・平成24年度 年間宿泊客数8888名 
        水没地の旧温泉街5軒(山木館、やまきぼし旅館、丸木屋、やまた旅館、ホテルゆうあい)。

・平成25年度 年間宿泊客数8069名 
        旧温泉街から移転2軒(やまた旅館、山木館)、新規1軒(民宿山水)代替地で営業。
        年度末まで2軒(やまきぼし旅館、ホテルゆうあい)が旧温泉街で営業。

・平成26年度 年間宿泊客数6340名 
        代替地で営業4軒。年度途中で一軒(丸木屋旅館)が旧温泉街から代替地へ移転。
        旧温泉街では1軒(やまきぼし旅館)が休業、営業は1軒(ホテルゆうあい)

・平成27年度 年間宿泊客数6582名 
        代替地4軒(やまた旅館、山木館、山水、丸木屋旅館)、旧温泉街1軒(ホテルゆうあい)

・平成28年度 12月末までの宿泊客数5358名 旧温泉街に残っていたホテルゆうあいが年度途中で代替地へ移転し、現在、代替地で5軒営業。 

群馬県議会公式サイト 産経土木常任委員会 平成29年3月14日 本郷高明議員による質疑

打越代替地2 ちなみに、川原湯温泉の観光客年間入込数は、2003(平成15)年までは20万人を上回っていました。2004(平成16)年に高額な代替地分譲地価を設定する協定が調印され、それ以降、住民が大量に地区外に転出することになりました。2004年の年間入込数は15万人以下に激減。それでも当時は、旅館と民宿合わせて14軒と飲食店4軒、土産屋2軒が営業していました。これらの数字からも、ダム事業の進捗がいかに川原湯温泉に大きなダメージを与えたかがわかります。
写真右=代替地の造成工事は長い年数がかかり、代替地分譲基準が調印された2004年ののちも、川原湯温泉が移転する打越代替地の造成はなかなか終了しなかった。2006年6月10日撮影
 
 地元では、かねてより、ダム本体工事に伴い、国交省が企画する現地ツアーが観光客を呼び込むことが期待されてきました。行政の企画はマスコミの協力も得やすく、広報力は民間の及ぶところではありません。しかしダム本体工事は2年後には終わる予定です。果たして国交省の「やんばツアーズ」は、ダム事業による観光へのダメージをどれだけ補うのでしょうか。

◆2017年3月23日 読売新聞群馬版
http://www.yomiuri.co.jp/local/gunma/news/20170322-OYTNT50307.html
ー八ッ場ダム 工事見に来てー

◆国交省、新年度からツアー

 長野原町で建設が進められている八ッ場ダムで、国土交通省八ッ場ダム工事事務所は22日、新年度から、工事風景を見学できる個人・団体向けツアー「やんばツアーズ」を開催すると発表した。

 用意するツアーは10種類。個人向けでは、夜間工事の見学と吾妻川でのホタル観賞をセットにしたツアー(7月上旬開催)や、ダム見学と吾妻峡の紅葉を楽しむツアー(10月下旬~11月上旬)などを開催。これまでのダム見学も、4月からはツアーの一つとして、土曜日の開催を隔週から毎週にするなど、回数を増やす。

 団体向けでは、英語版の資料を配布する外国人向けツアーや、八ッ場ダムのミニ模型をセメントで作る小中学生向けツアーなどを用意した。旅行会社のツアーに組み込んでもらうことも検討している。

 ツアーはいずれも無料。「道の駅八ッ場ふるさと館」などの集合場所から、同事務所が用意するバスで工事現場を回る。

「やんばコンシェルジュ」と名付けた地元の女性ガイドも案内を行う。

 現場を公開して工事への理解を求めるとともに、地域振興に役立てることが狙いだ。同事務所は「建設中のダムを見られる機会はなかなかない。約30トンの大型ダンプをクレーンでつるして現場に下ろす様子など、迫力ある光景を見に来てほしい」とアピールする。

 問い合わせは同事務所(0279・82・2317)へ。

 ダムの本体工事は2015年1月に始まり、現在はコンクリートを流し固める「打設」が高さ116メートルの堤体の約1割の高さまで完了した。4月からは夜間も工事を行い、19年度中の完成を目指している。

◆2017年3月24日
http://www.sankei.com/region/news/170324/rgn1703240019-n1.html
ー「八ツ場ダムの今」観光資源に 国交省が地域活性へ工事見学10ツアー 群馬ー

 本体工事が進む長野原町の八ツ場ダムで、国土交通省は来月1日から一般個人や団体向けの工事見学ツアー観光プロジェクト「やんばツアーズ」をスタートさせる。四季折々の景色の中で「建設のクライマックス」を迎えるダムを新たな観光資源とし、地域活性化につなげる考えだ。

 ツアーは個人向けと教育機関や企業などの団体向けに計10ツアーを用意。バスで現場を巡る通年開催のもののほか、期間限定で夏季のホタル観賞や冬季の樹氷見学などとダムの夜間工事見学を合わせたものを新たに設けた。また、ダム愛好家向けにファンクラブを開設、希望に合わせた特別見学会も実施する予定だ。

 27年から始まった通年のバス見学はこれまでに延べ約3600人が参加しているが、隔週開催だった土曜日を毎週実施するなど回数を増やすという。

 団体ツアーでは、訪日外国人向けに温泉旅行とのセットや首都圏唯一の建設中のダムとして土木を学ぶ学生らにツアーも用意。小中学生向けにもミニチュア模型製作など体験型のプログラムを導入する。

 個人、団体のいずれでも、地元出身の20~30代女性の「コンシェルジュ」が案内するという。

 これらツアーは、ダムへの理解を深めてもらい、新たな観光資源として人を呼び込み地元を盛り上げたい考えで、国交省八ツ場ダム工事事務所は「事業開始から65年たち、(完成までの)残り3年の今しか見られない光景をぜひ見に来てもらいたい。完成後もリピーターになってほしい」と参加を呼びかけている。

 八ツ場ダムは、昭和22(1947)年に死者1100人の被害を出したカスリーン台風を受け、利根川改修計画の一環として事業が開始された。政権交代で曲折もあったが、平成27年1月から本体工事が始まり、現在、ダムの高さ116メートルのうち10%程度まで工事が進んでいる。来月からは「巡航RCD」といわれる高速施工技術で工事のスピードがアップ。24時間昼夜兼行で工事が行われる予定で、31年度の完成を目指す。
 ツアーの問い合わせは同事務所(電)0279・82・2317。

◆2017年3月23日 上毛新聞
ー八ッ場工事見ませんか 国交省来月から インフラ観光を提案ー

 本体工事が進む八ッ場ダムを観光資源にして、ダムのPRと地域活性化を図ろうと、国土交通省八ッ場ダム工事事務所は4月、観光プロジェクト「やんばツアーズ」を始める。夜間見学会や訪日外国人向けツアーなど多彩な企画を新設し、鉄道やバス、旅行会社と連携しインフラ観光として売り込む。

 八ッ場ダムは4月中旬、24時間体制でコンクリートを打設する「巡航RCD工法」の工事が始まり、本体工事は最終局面を迎える。この時期にしか見ることができないダムの工事現場を観光地として提案する。

 個人、団体向けのツアーには、地元出身の20代女性を中心とする案内人「やんばコンシェルジュ」が応対する。訪日外国人には、日本のダム技術を見学して温泉旅館に宿泊するツアーを用意する。

 首都圏で建設中の唯一のダムとして、土木技術者や土木系学生向けに最新技術を学ぶ見学ツアーも企画。特別見学会に参加できる「八ッ場ダムファン倶楽部」をつくり、ダム愛好家に入会を促す。

 新たな誘客活動について、川原湯温泉の老舗旅館、山木館の樋田洋二社長(70)は「地域振興策に力を入れてもらえるのはありがたい。ツアーを生かし、地元も一丸となって誘客に努めていきたい」と期待する。
 「やんばツアーズ」に関する問い合わせは同事務所(電話0279-82-2317)