今朝のニュースで、利根川最上流にある群馬県みなかみ町の全域が本日、「ユネスコエコパーク」に登録される見通しであることが報道されました。
報道では触れられていませんが、登録地域には利根川水系の巨大ダム計画がありました。2000年、首都圏の水需要の低迷を理由に建設省みずからが中止を決定した川古ダム計画です。
利根川水系の最上流にある群馬県では、1990年代以降、川古ダムのほか、戸倉ダム、倉渕ダム、増田川ダムなどの中止が相次ぎました。これらのダム事業の目的は、八ッ場ダムと同様、「利水」と「治水」です。皮肉なことに、水没住民のいない、より犠牲の少ないダム事業が中止になり、最も巨額な八ッ場ダム事業が残されました。
ユネスコエコパーク登録地域の自然保護に取り組む日本自然保護協会が川古ダム計画中止について解説した記事がネット上に公開されていますので、併せて転載します。
◆2017年6月14日 NHKニュース
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170614/k10011016851000.html
ー群馬 みなかみ町がユネスコエコパーク登録へー
群馬県みなかみ町は、谷川岳などの貴重な自然と人間社会との共生を目指そうと、町全域などを「ユネスコエコパーク」に登録することを求めていて、フランスで行われているユネスコの審議が順調に進めば、日本時間14日夜、登録が決まる見通しです。
「ユネスコエコパーク」は、貴重な自然や生き物を保護しながら、自然と人間社会との共生を目指す地域をユネスコが登録する制度です。
みなかみ町は、谷川岳や利根川の最上流域、それに、絶滅が危惧されるイヌワシが生息する赤谷の森など、町全域と隣接する新潟県の一部の合わせて9万1000ヘクタール余りを「みなかみユネスコエコパーク」として登録することを目指していて、実現すれば国内で9番目のエコパークとなります。
町によりますと、ユネスコはことし5月、諮問委員会から「みなかみユネスコエコパーク」の登録を認めるよう勧告を受けていて、フランス・パリのユネスコ本部で行われている審議が順調に進めば、日本時間14日夜には登録が決まる見通しだということです。
みなかみ町エコパーク推進課は「登録は目的ではなく始まりだと思うので、自然を生かしたまちづくりをしっかりしていきたい」としています。
◆2017年6月14日 上毛新聞
http://www.jomo-news.co.jp/ns/4914973727569338/news.html
ーきょう登録決定へ みなかみのエコパーク パリで審議 ー
フランス・パリで開かれている国連教育科学文化機関(ユネスコ)の第29回人間と生物圏(MAB)計画国際調整理事会は14日、日本ユネスコ国内委員会が推薦した群馬県のみなかみ町の生物圏保存地域(エコパーク)の登録の可否を審議する。順調ならば、同日午後1時(日本時間午後8時)までに登録が決定する見通し。
「みなかみ」はぐんま県北部の利根川源流域を中心とした面積約9万1300ヘクタールの区域。町全域と県境の新潟県魚沼市、南魚沼市、湯沢町にまたがる。
◆1996年12月1日 日本自然保護協会(NACS-J)発行『自然保護』1996年12月号より
http://www.nacsj.or.jp/archive/1996/12/665/
ー群馬・川古ダム計画に中止の判断 イヌワシ・クマタカのすむ谷はコリドー指定にー
ダム計画、公共事業見直しで中止に
イヌワシが利用している谷に計画されていることから、NACS-Jが建設省に見直しを求めていた川古ダム計画が中止されることが、9月24日に決まった。
建設省関東地方建設局が開いた「事業評価監視委員会」が建設局からの案を承認したもので、委員会は、計画が長期化している管内の直轄事業と水資源開発公団のダム事業の再評価を審議しており、政府与党による公共事業の見直し案で建設省の中止検討リストに入っていた川古ダム(新治村)と、平川ダム(利根村)も審議対象になっていた。中止理由は「利水者の事業に対する参加が見込めない」とされており、下流住民のダム建設への理解形成を疑問視していたとみられているが、将来の水がめとして準備されてきたものの首都圏人口の伸びの鈍化や、猛禽類の繁殖との関係も背景にあった。両ダムは計90億円程度が調査費などに投入されており、川古ダムは、環境アセスメントや地質調査などの最中だった。
地元市民グループが示したデータ
NACS-Jは、1996年から「新治村の自然を守る会」と、大型猛禽類の生息状況調査を行っていた。当初は、スキー場新設計画(事業主体・コクド)による、猛禽類への影響を予測するためのものだったが、調査をすすめるうちに、川古ダム計画にも重大な問題があることが明らかになった(上図参照)。このデータを基に、”川古ダム計画は新治村唯一のイヌワシ繁殖地を消失させる”として計画見直しを訴えてきた。
一帯は”コリドー”として
ダム計画は中止されたが、ここのイヌワシは1996年以降さまざまな要因から繁殖に失敗している。ダムというマイナス要因が除かれた今後は、環境の質を上げつつ維持されるしくみがほしい。そこで、三国山系も管轄している関東森林管理局による「緑の回廊(コリドー)」の設定に関し(林野庁の検討会にNACS-J横山常務理事が委員で参加)、この一帯もぜひ回廊に組み込むよう提言している。ご支援くださった会員の皆さまにお礼申し上げると共に、イヌワシ・クマタカのくらす谷の今後にもご注目いただきたい。(志村智子・『自然保護』編集長)