国交省が九州北部豪雨は過去最大級の流木災害であったと発表しています。
http://www.mlit.go.jp/report/press/sabo01_hh_000045.html
報道発表資料 平成29年8月28日
平成29年7月九州北部豪雨は過去最大級の流木災害
~今回の災害と流木の記録がある土砂災害との比較を行いました~
平成29年7月九州北部豪雨における発生流木量と既往土砂災害(平成23年那智川や平成25年伊豆大島等)における発生流木量との比較を行い、過去最大級の流木災害であることが判明しました。国土交通省では、流木による被害を減少させるため、砂防事業による流木対策を強力に推進していきます。
—以下略—
災害が発生してから2か月がたちますが、現地では復旧に程遠い状況であることが報道されています。
以下の朝日新聞の記事では、終りの方で太田猛彦・東京大名誉教授(砂防学)と小松利光・九州大名誉教授(河川工学)の談話が紹介されています。いずれもダム推進論者で、十数年前の川辺川ダム住民討論集会では国交省側の専門家として意見を述べていました。
◆2017年9月5日
http://digital.asahi.com/articles/ASK9441XRK94TIPE00R.html
ー過去最大級の流木災害、生活再建足かせに 九州北部豪雨ー
九州北部豪雨から2カ月。被災地では流木がまだ1割ほどしか撤去されておらず、大量に残されたままだ。専門家の調査で、森林のタイプにかかわらず、深く根を張った木までごっそり流されていることが明らかになってきた。記録的な豪雨がもたらした「過去最大級の流木災害」(国土交通省)が、生活再建の足かせになっている。
被害が大きかった福岡県朝倉市。山間部にある寺内ダムでは5日も、流れ着いた流木を重機で取り除く作業が続けられていた。ダム管理所によると、2カ月前、湖面を埋めた流木の量は5年前の九州北部豪雨の約20倍の推定1万立方メートル。撤去したのはまだ3割ほどという。坂井勲所長は「流木が朽ちれば、水質にも影響が出るかもしれない」。近くの駐車場にある仮置き場で働く作業員は「流木を置くスペースはほぼいっぱい。まだどんどん運ばれてくると思うが、先がわからない」と話した。
福岡県によると、県内で発生した流木は東京ドームの3分の1杯分ほどにあたる約36万立方メートルだが、8月末までに仮置き場に搬出されたのは4万立方メートル弱にとどまる。チップ化などの処理をすべて終えるのは2018年度末と見込む。大分県では約2千立方メートルが撤去され、1万立方メートル程度が山中に残ると推計する。
国交省は8月下旬、九州北部豪雨を「過去最大級の流木災害だった」と発表した。1平方キロあたりの流木発生量が134渓流で1千立方メートルを超え、赤谷川の一部では20倍の約2万立方メートルに達した。1988年以降の主な土石流災害での水準(多くて1千立方メートル程度)を大きく上回り、2013年の伊豆大島や11年の紀伊半島の豪雨と並ぶ規模だった。
朝倉市杷木(はき)志波を流れる北川では、下流部の橋に集積した大量の流木が川をせき止め、大規模な氾濫(はんらん)を招いた。土木学会調査団の東京理科大・二瓶泰雄教授(河川工学)のシミュレーションでは、流木によって氾濫面積が3・7倍に、水深が3メートル増加したとはじき出された。「傾斜が緩いほかの川でも同様のことが起きていたのでは」と話す。
北川の西を流れる奈良ケ谷川ではため池が決壊。下流の朝倉市山田に流木まじりの濁流が押し寄せ、住民3人が亡くなった。九州大の矢野真一郎教授(河川工学)の試算では、奈良ケ谷川流域で崩壊した斜面は流域面積全体の15・98%に達した。流木が堰の上の放水設備にたまり、決壊を促した可能性があるとみて調査を進めている。
■戦後植樹の木々が被害に
朝倉市などでは、5年前の九州北部豪雨でも流木被害に見舞われた。だが、同市佐田の林業の男性(55)は今回の被害の大きさに驚く。「針葉樹も、ケヤキなどの広葉樹も、根こそぎやられた」。周辺で流木を撤去しているうち、樹齢50~60年の大きくて古いスギが多い印象を抱いたという。
8月に現地調査した福岡県の山地災害対策チームによると、朝倉市と東峰村の民有林では針葉樹林も広葉樹林も同じように被害を受けていた。林野庁の専門家チームは、主に樹齢40~50年のスギとヒノキの人工林の崩壊斜面を調査したが、成長を促す間伐が行われ、下草も生えていた。根は深さ1~2メートル、横にも1・5~2メートルまで発達していた。一方、崩壊した深さはほとんどの地点で3メートル程度。一部では10メートルを超えていた。
森林総合研究所九州支所の黒川潮・山地防災研究グループ長は「過去に例のない雨によって、適切に管理されて育っていた木々が土壌ごと流されてしまった」と話す。針葉樹林が多かったことや間伐不足で流木が増えたとの見方は否定した。
県の対策チームに参加した太田猛彦・東京大名誉教授(砂防学)は、流木が多くなった要因の一つに「森林が成長した」ことをあげる。国内では50~70年代に植林が進み、林野庁によると、木の体積を示す森林蓄積量は過去半世紀で2・5倍以上に増えた。朝倉市の民有林のスギ・ヒノキも、樹齢41~60年が6割近くを占める。
記録的な雨は全国各地で相次いでおり、流木の発生は今後も避けられそうにない。国交省は、柵のようなもので流木を止める「透過型」と呼ばれる砂防施設の設置を進めている。一方、住民に警戒を呼びかける「土砂災害警戒区域」は、主に土石流の影響で決めており、流木は十分に考慮されていないという。
九州大の小松利光名誉教授(河川工学)は「新たに施設をつくるのは限界がある。流木を考慮して橋の改修や撤去を検討したり、治水機能を持たない既存のため池などを流木捕捉に生かしたりするなど、知恵を出し合う必要がある」と指摘する。
◆2017年9月5日 NHK
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170905/k10011127031000.html
ー九州北部豪雨 川底えぐられ土砂増大かー
九州北部豪雨で発生した大量の土砂について、九州大学などの専門家が現地調査を行った結果、山の斜面から崩れ落ちた土砂に加え、川底や川の周囲の土砂も深くえぐられて下流に押し流され、土砂の量が増大して被害の拡大につながったと見られることがわかりました。
九州大学大学院の笠間清伸准教授など、地盤工学会の研究グループは九州北部豪雨で被害を受けた福岡県朝倉市の山あいを流れる筑後川の支流の被害の状況を調査しました。
その結果、合わせて6つの川の上流で、川底や川の周囲の土砂が深くえぐられているのが確認され、川底が深さ5メートルほど削られた川もあったということです。
このため研究グループは山の斜面から崩れ落ちて川に流れ込んだ土砂に加え、川底や川の周囲の土砂も増水した川に深くえぐられて下流に押し流され、土砂の量が増大して被害の拡大につながったと見ています。
笠間准教授は「勢いを増した川の流れに土砂が含まれることで、川底や川の周囲の土砂を削り取る力が増して浸食が進んだのではないか。山の斜面の土砂より浸食された川の土砂のほうが多い可能性があり、さらに詳しく調べていきたい」と話していました。