昨年の総選挙で与党が大勝して以来、官僚主導の政治の暴走に歯止めがかかりません。国土交通省河川局は、住民参加のモデルと期待されてきた淀川流域委員会の息の根を止めようとしています。
2006年10月25日 朝日新聞大阪版より転載
「淀川流域委、休止へ 脱ダム提言、国と対立」
国土交通省近畿地方整備局は24日、淀川水系の河川整備のあり方を議論してきた同局の諮問機関「淀川水系流域委員会」(委員長・今本博健・京大名誉教授)を来年2月以降、休止する方針を明らかにした。同委が審議することになっている河川整備計画案の策定が遅れているため、としている。だが、同水系で建設・計画中の5ダムについて同委が「原則中止」を提言したのに対し、国交省は「2ダムは事実上中止するが3ダムは事業継続」との方針を発表しており、こうした意見の食い違いが休止決定の背景にあるとみられる。
淀川水系流域委は、現在は一部公募で選ばれた学識経験者や自然保護団体関係者、流域住民ら25人で構成され、任期は来年1月まで。01年の発足後、現行の工事実施基本計画について議論を重ね、住民参加の新しいあり方として注目されてきた。
03年1月には、河川の生態系に重大な悪影響を及ぼすとして、5ダムは「原則中止」との提言をまとめた。国交省は05年6月、「豪雨時の治水や渇水時の水供給に有効」として、うち丹生、川上、天ケ瀬の3ダムは事業を縮小するなどして継続する方針を決定。同委が「代替策の検討や、環境への影響評価が不十分」と批判するなどしていた。
24日会見した同局の布村明彦局長は、国の審議会で検討中の河川整備基本方針や、河川整備計画案がまとまった段階で、議論を再開すると説明。一方で「(同委には)これまで相当意見をいただいたが、やりすぎという人もいる。自治体の首長からの評判はよくない」とも語った。
委員からは反発や戸惑いの声も上がっている。委員の一人で、龍谷大教授の寺田武彦弁護士(前委員長)は「6年間の活動実績もあるのに『継続したらだめ』という判断か。発足時は国も意欲と覚悟を持って臨んだはず。意味がないと思っているなら残念」と語った。ほかの委員も「世間的に流域委つぶしと見られる」などと話した。
<解説>先進方式に国の壁 淀川流域委、休止の方針
長良川河口堰(かこうぜき)をめぐる地域住民との対立を教訓に、国は97年の河川法改正で、河川の将来像を決める際に有識者や住民の意見を聴くことを盛り込んだ。
その結果生まれた淀川水系流域委は、国の事業案の追認ではなく、一から議論を積み上げて、ダム原則中止を提言した。その試みは流域のことは流域で決める「流域自治」の先駆けとなり、全国の環境NGOやダム問題を抱える地域住民から「淀川方式」「淀川モデル」と注目された。しかし、国交省は冷ややかだった。水需要の減少や大規模公共事業への批判など逆風が強まる中、ダムなしでは治水は成り立たないなどとして、ダムにこだわる方針を崩していない。
八ツ場(やんば)ダム(群馬県)を抱える利根川や、可動堰計画がくすぶる吉野川(徳島県)でも、NGOや流域住民が淀川方式を求めたが、流域委員会はつくられていない。今回の休止方針には、国が決めてきた河川整備に住民が参加することに、及び腰になっている姿勢が透けて見える。
(金子桂一)
◆キーワード
<淀川水系のダム問題> 近畿の主要水源である淀川水系で、丹生(滋賀県余呉町)▽大戸川(大津市)▽川上(三重県伊賀市)▽余野川(大阪府箕面市)の4ダム新設と、天ケ瀬ダム(京都府宇治市)の再開発の是非が問われている。大阪府、京都府など下流域の自治体が利水者から撤退する中、国は3ダムは洪水対策などで必要と主張。ダムの地元自治体からも事業継続を求める声が出ている。