2007年12月9日 讀賣新聞東京23区版より転載
「ダム建設より節水推進を」
東京から電車で2時間、さらに山あいの道を進むと、群馬県長野原町の湯治場「川原湯温泉」は、紅葉が見事な吾妻川の渓谷に張り付くようにしてあった。
鎌倉時代から続くこの温泉街は、八ッ場(やんば)ダムの完成とともに沈む運命にある。計画から半世紀。激しい反対運動を経て、住民は最終的に、ダムの受け入れを決めた。
付近では山を削る工事が続いていた=写真=。「近い場所で暮らしたい」との住民の意向が尊重され、「ずり上がり方式」という集団移転先を高台に造成する前代未聞の手法だ。総事業費も4600億円に倍増された。
国と地方の長期債務(借金)は、773兆円に達する。ダムに翻弄(ほんろう)された住民の心情を思いながらも、来年度の予算編成を控え、国と地方による税源の奪い合いを見ると、やはりダムの必要性が気になる。
実はこのダムは、都民生活と密接にかかわっている。都は現在、1日623万トンの水道水を供給できる水源を持っているが、都水道局の「需要は伸びる」との予測から、1日43万トン分を八ッ場ダムから受け取ることにしたのだ。このため都は、871億円を負担する。
ところが今は、最も多い日でも500万トンの利用しかなく、需要は年々、減少傾向にある。漏水対策と節水型製品の普及、下水の再利用が進んでいるためだ。
水源確保の必要性はよくわかるが、水道局の予測はどうも腑(ふ)に落ちない。ダム計画はもう変わらないのだろうか。地球温暖化対策で二酸化炭素の排出削減を進めるように、水需要も削減目標を定め、大々的な節水活動をして補うわけにはいかないのだろうか。(健)