八ッ場ダム工期延長と事業の再評価について、八ッ場あしたの会では国土交通省へ下記の公開質問書を提出しました。回答期限は1月22日です。
2008年1月8日
国土交通省八ッ場ダム工事事務所 所長 澁谷 慎一 様
八ッ場あしたの会 (代表世話人 野田知佑ほか)
八ッ場ダムの工期延長と再評価に関する公開質問書
昨年12月13日に八ッ場ダム事業の工期延長の案が発表され、さらに、21日には関東地方整備局の事業評価監視委員会によって八ッ場ダム事業の再評価の手続きが行われました。工期延長については別途、「八ッ場ダムの工期延長に対する意見書」で述べたように、工期が大幅に遅れることが早い時点で明らかであったにもかかわらず、それを公表してこなかった国土交通省の姿勢はきわめて不誠実です。この意見書に対して国土交通省の見解を示すことを要望します。
この工期延長案で示された工事予定表をみると、地元住民にとって看過できない問題があります。また、再評価の際に発表された八ッ場ダム事業の資料を見ると、便益の評価額や発電所設置案などには理解しがたいことがいくつもあります。
そこで、それらの疑問点をまとめて下記のとおり質問しますので、文書でお答えくださるよう、お願いします。質問の項目はいずれも、八ッ場ダム事業の根幹に関わることですので、真摯にお答えください。
ご回答を1月22日までにお送りくださるようお願いします。
1 水没予定地の今後について
水没予定地区の今後について次の3点の質問にお答えください。
1-1 代替地への移転完了後の5年間について
今後の工事予定表をみると、川原湯の打越地区の場合、2010年度までに移転が完了し、その5年後にダムが完成することになっていますが、この5年間はダム本体工事の喧騒の中にあり、さらに、その工事のため、吾妻渓谷の利用が困難な状態になりますので、川原湯温泉街は営業面で非常に厳しい状況に置かれることになります。川原湯温泉街の蒙る多大な損失について、起業者としてどのように対応しようと考えているのか、国土交通省の見解を明らかにしてください。
1-2 1号橋の完成の遅れについて
今後の工事予定表をみると、川原畑地区を通る国道と川原湯の打越地区を結ぶ1号橋(県道川原畑大戸橋)の完成は、2014年度末まで延期されることになっています。しかし、この1号橋の完成の遅れは、川原湯地区にとっても川原畑地区にとっても重大な問題です。川原湯の打越地区にとって、1号橋は観光客が国道から来るためのアクセス道路ですから、その完成の遅れは川原湯温泉街の経営に大きな影響を与えることになります。現在の川原湯地区には国道が通っていますが、1号橋ができなければ川原湯地区は孤立した集落となってしまいます。
1号橋の完成の遅れがもたらす上記の問題について、起業者としてどのように対応しようと考えているのか、国土交通省の見解を明らかにしてください。
1-3 住民への説明について
上記のように、代替地には様々な悪条件があることが明らかになっています。このような代替地を水没予定地住民に分譲する地価が坪10万円を超え、最高額が坪17万円を超えることは常識では考えられません。2005年に代替地分譲基準が調印された時点では、工事が遅れるこのような事態は住民に明かされていませんでした。この問題について、国土交通省の見解を明らかにして下さい。
2 八ッ場ダム事業の再評価について
昨年12月21日に関東地方整備局の事業評価監視委員会が開かれ、八ッ場ダム等の4事業を継続することの是非が議題になりました。ダムの必要性の有無やダム建設の様々な問題点については一切審議しない不可解な委員会でしたが、結論として4事業とも継続妥当ということになりました。その理由となったのは、八ッ場ダムに関しては便益/費用が2.9で、1を大きく上回っているからということでした。治水等の公共にかかる便益が8,525億円、一方、治水等の公共に係る費用が2,917億円という数字が示されました。その中でまったく理解できないのが八ッ場ダムの便益が8,525億円もあるという話でした。この便益の算出根拠について次の4点の質問にお答えください。
2-1 洪水調節に係る便益8,276億円の算出根拠
公共に係る便益の中で圧倒的に大きいのが洪水調節に係る便益で、8,276億円もあるとされています。しかし、八ッ場ダムの洪水調節によってそのように巨額の便益がどうして生まれるのでしょうか。国土交通省によるカスリーン台風再来計算でも、利根川に対する八ッ場ダムの治水効果はゼロとされているのに、なぜ巨額の便益が算出されるのか理解できません。多くの仮定を積み重ねた上での仮想の数字ではないでしょうか。洪水調節に係る便益8,276億円の詳細な算出根拠を明らかにしてください。
2-2 河川の水量確保に係る便益① (吾妻渓谷破壊のマイナスの便益)
さらに、河川の水量確保に係る便益も加えられていました。それは「名勝吾妻峡に必要な水量を確保ことにより、景観改善の効果を便益とする」ということなのですが、常識的な感覚からすれば、八ッ場ダムの建設によって上流部が破壊され、残されたところも現在の美しさが失われてしまう吾妻渓谷で、八ッ場ダムの建設で逆に便益が生まれるというのはブラックユーモアでしかありません。
八ッ場ダムの建設によって、少なくとも吾妻渓谷の上流部が破壊され、マイナスの便益が生じることは間違いのない事実です。このマイナスの便益を評価しなかった理由を明らかにしてください。
2-3 河川の水量確保に係る便益②(現在の吾妻渓谷の流量による便益は?)
現在の吾妻渓谷はそれなりの流れが常にあって、渓谷美をつくりだし、訪れる人々の心を癒してくれます。八ッ場ダム完成後は景観のため、一定流量をダムから放流するので、それによって便益が新たに生まれるとされていますが、現在、渓谷を流れている流量では便益がなぜ出ないことになるのでしょうか、その理由を明らかにしてください。
また、その放流予定量と現在の流量との大小関係はどうなっているのでしょうか。放流予定量および昨年1年間の毎日の吾妻渓谷の実績流量を明らかにしてください。
2-4 河川の水量確保に係る便益③(河川の水量確保に係る便益の算出根拠)
「吾妻渓谷に必要な水量を確保することによる景観改善の便益」が155億円もあるとされています。委員会の配布資料によれば、これは仮想市場評価法とされる方法によるもので、「その自然は守るならばいくらまでなら対価として支払ってよいとする金額」をアンケートで求めた一人あたりの数字に観光客数をかけて算出したものだということです。
委員会での国土交通省の説明によれば、「観光客数は年間750万人とし、アンケートは他のダムで行った結果である」ということですが、吾妻渓谷の実際の観光客数はそれよりも二桁小さい数字です。750万人とした根拠を説明してください。また、他のダムについてのアンケート結果をなぜ吾妻渓谷に使えるのか、その理由を説明してください。
3 発電について
今回、八ッ場ダムで群馬県が発電を行う案が示されました。最大11,700kW、年間発電量40,992,000kWHで、八ッ場ダムから放流される水を発電に使う従属発電だということですが、この発電に関して次の2点の質問にお答えください。
3-1 八ッ場ダムで失われる発電量
事業評価監視委員会で国土交通省は発電目的の追加で「環境にやさしいクリーンエネルギーの供給が可能になる」という説明をしていましたが、これは既存の発電所の存在には触れない一方的な説明でした。吾妻川には東京電力㈱の発電所がいくつもあり、八ッ場ダムができると、ダムに水をためるため、それらの発電所への送水量が大幅に減りますので、吾妻川の全発電量はむしろかなり小さくなり、多額の減電補償が必要です。
八ッ場ダム予定地より下流の吾妻川にある発電所の最大発電量は次のとおりです。 松谷発電所25,400kW、原町発電所27,400kW、箱島発電所24,000kW、金井発電所 14,200kW、渋川発電所 6,800kW
八ッ場ダムができると、これらの発電所の発電量が大幅に減りますので、八ッ場ダムに発電所が付設されても、吾妻川全体の発電量はかなり減ることになります。八ッ場ダムができることによって失われる発電量を示して下さい。
3-2 発電所の場所
八ッ場ダムに付設される発電所はどの位置に設置されるのでしょうか、八ッ場ダムのすぐ直下ならば、発電所の建設のために吾妻渓谷の一部が破壊されることになります。八ッ場ダムの下流に設置されるならば、発電所までの吾妻渓谷には水が流れないことになります。発電所が八ッ場ダムから何メートル、何キロメートルのところに設置されるのかを明らかにしてください。
4 八ッ場ダムの事業費について
八ッ場ダムの事業費に関して下記の2点の質問にお答えください。
4-1 「現時点で」という但し書きの条件について
事業評価監視委員会の資料では「現時点で総事業費を変更する必要はないと考えています。」と書かれており、「現時点で」という但し書きが付いています。これは将来、何かの条件が変われば、総事業費が増額される場合もあることを意味します。将来、総事業費が増額されることがあれば、それはどのような条件が変わった場合なのでしょうか。その条件の内容を明らかにしてください。
4-2 東京電力に対する減電補償のスケジュールについて
4-1で述べたように、八ッ場ダムに水をためるためには、吾妻川の東京電力㈱の発電所に現在送られている水量を大幅に減らすことが必要です。それによって、発電量が大きく減少しますので、減電補償が必要となります。八ッ場ダムの下流には発電所がいくつもありますので、その減電補償はかなり大きな金額になることが予想されます。この減電補償について今後、どのようなスケジュールで東京電力と交渉を進めていくのか、また、その補償金をいつ支払うのかを明らかにしてください。
4-3 減電補償の補償額について
この減電補償について国土交通省は総事業費の4,600億円に含まれると説明してきましたが、発電所の規模と数から見て、かなりの金額になると予想されますので、4,600億円の枠内に収まるとは思われません。国土交通省が総事業費の4,600億円に含まれるという東京電力への減電補償の予定額を明らかにしてください。
また、代替地の造成等に伴う発電送水トンネルの補強工事のために国土交通省が東京電力に支払った補償額(工事中の減電補償を含む)も明らかにしてください。