八ッ場あしたの会では、2007年12月、国土交通省が八ッ場ダム工期延期の見通しを公表したことについて、冬柴国交大臣に意見書を、国交省八ッ場ダム工事事務所に公開質問書を発送しました。回答期限を1月22日としましたが、国交省八ッ場ダム工事事務所より、公開質問書への回答は1月末頃になると連絡がありました。
意見書に対する国土交通省の回答が届きましたので、これを公表します。あわせて、回答に対する八ッ場あしたの会のコメントを掲載します。
平成20年1月22日
八ッ場あしたの会 代表世話人 野田知佑 様
国土交通省 関東地方整備局 八ッ場ダム工事事務所 澁谷 慎一
「八ッ場ダムの工期延長に対する意見書」に対する回答について
2008年1月8日付けで冬柴国土交通大臣宛にいただいた八ッ場ダムの工期延長に対する意見書について、下記のとおり回答させていただきますので、よろしくお願いいたします。
記
1. 八ッ場ダム建設事業の基本的な進め方について
八ッ場ダムを建設している利根川水系は、わが国の社会経済活動の中枢を担う首都圏を抱える関東平野を貫流する国土管理上極めて重要な河川であり、八ッ場ダムは、利根川流域の住民の方々の生命と財産を守る治水対策上、また、首都圏の生活と産業を支える水資源の確保等のため必要不可欠な施設です。
八ッ場ダム建設事業を進めるにあたっては、これまでも当事務所のホームページや様々な記者発表、パンフレットの作成、出前講座による説明、住民の方々を対象とした現場見学会等を通じて、できる限りの情報公開に努めてきております。
今後とも、引き続き、コスト縮減や情報公開等に努めつつ、地元関係者、関係都県の理解と協力をいただきながら、事業の着実な推進に努めたいと考えています。
2. 工期について
事業主体として、水没関係住民の皆さんに対して移転に関する意向調査を鋭意進めてきておりましたが、近年、地区外へ転出を希望される方が急増したことから、地元との合意形成を図りつつ、代替地計画の縮小見直しを行う必要が生じました。また、ダム本体工事等による工事現場周辺の居住者の方への騒音・振動の影響を軽減するため、夜間の工事は行わないなど施工時間帯の制限等を加える必要が生じました。
このような状況を踏まえ、工期を精査した結果、5年間の遅れが生じる見込みが明らかとなったことから、先般、工期を平成27年度に変更することを公表したところです。
なお、平成14年度に仮排水トンネル工事に着手していなかった時点で工期が遅れることが明らかであったのではないかとのご指摘ですが、仮排水トンネル工事はダム本体基礎掘削の前までに行う工事であり、当時の工程上は平成14年度以後に工事に着手しても、平成22年度までに完成すると考えていました。
3. 地元対応について
事業主体として、機会あるごとに事業の進め方や生活再建の考え方などについてきめ細かく丁寧に地元に説明するとともに、関係都県と緊密な連携を図りつつ、地元住民の方々の意向を十分に踏まえた生活再建対策を鋭意進めて、ダムを早期に完成させることが重要であると考えています。
昨年6月から代替地分譲手続きが開始され、生活再建が現実のものとして動き出しており、一歩ずつではありますが着実に生活再建は進展しているものと考えており、今後、新しい代替地のもとで、移転された方々の生活再建が円滑に進められるように誠意を持って最大限の努力をして参りたいと考えています。
4. 関係都県への対応について
八ッ場ダム建設事業については、特定多目的ダム法に基づく基本計画を作成、変更する際に、関係都県の議会の議決を経て、各知事から同意をいただくなど、所要の手続きを経て、事業を進めています。
また、国、関係都県、利水者からなる「八ッ場ダム建設事業のコスト管理等に関する連絡協議会」を設置し、コスト管理等を徹底することとしており、事業主体と関係都県、利水者が連絡情報を緊密に取りながら、事業を進めているところです。
今後とも、コスト縮減や情報公開等に努めつつ、地元関係者、関係都県の理解と協力をいただきながら、事業の着実な推進に努めたいと考えています。
国土交通省の回答に対するコメント
2008年1月24日
八ッ場あしたの会
私たちの意見書に対する国土交通省の回答は、内容が乏しいといわざるをえません。
ただひとつ直接的な答えになっているのは、工期延長の理由でした。
「2.工期について」よりー
① 地区外への転出が続出したため、代替地計画の縮小見直しの必要が生じました。
② 居住者の方への騒音・振動の影響軽減のため、夜間工事をやめるなどの措置の必要が生じました。
地元住民のために工期を遅らせざるをえなかったという書き方です。地元住民の地区外への移転続出の原因を作ったのは、代替地の造成を遅らせてきた国土交通省です。また、騒音・振動の影響軽減のためとありますが、居住者の方が周辺にいる状態で工事を進めることは最初からわかっていたことです。逆に言えば、2010年度に完成する計画では、そのことも考慮しない、居住者を無視した工程が組まれていたことになります。
先の意見書で述べたように、工期延長に伴う新たな工程表では、本流迂回のための仮排水トンネル工事着手から供用開始まで9年が必要です。住民への騒音・振動の影響軽減に配慮しなければ多少は短縮することが可能であったかもしれません。しかし少なくとも、事業費大幅増額案、代替地分譲基準案が示された2003年度後半においては、仮排水トンネルの着手がまだ先のこととされていたのですから、その時点で2010年度の完成が無理であることは自明のことでした。けれども国土交通省は、下流都県にも、地元住民にも2010年度の完成を約束しました。「1.八ッ場ダム建設事業の基本的な進め方について」において、「情報公開に努めてきております」とありますが、工期延長という大切な情報が伏せられてきたのですから、本来の意味での情報公開に努めているとは考えられません。
関連工事が始まってから、地元の方々は騒音・振動に悩まされ、それが原因で転出を余儀なくされた方もおられます。また、川原湯温泉は観光地として大きな被害を蒙ってきました。住民側から国土交通省に対して、工事の影響軽減を求める要望が再三出されています。2015年度への工期延長の理由を地元住民のせいにするのは、起業者としての責任を放棄するものであり、住民の方々をあまりに愚弄するものです。
また、「3.地元対応について」には、「一歩ずつではありますが着実に生活再建は進展している」とあります。一部水没地区の中には、代替地の分譲が始まった地域もありますが、最も大きな犠牲をともなう全水没地区では、生活再建が進展しているといえる状況ではありません。国土交通大臣が現地に暮らしている住民の方々の犠牲をどれほど理解しているのか、疑問を抱かざるをえません。