2008年6月4日
5月23日、大河原雅子参院議員(民主党)が提出した質問主意書に対して、6月3日、内閣より届いた答弁書について、八ッ場あしたの会のコメントを掲載します。
大河原議員の質問主意書、内閣の答弁書は、以下のページにアップされています。↓
https://yamba-net.org/wp/modules/news/article.php?storyid=572
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「八ツ場ダム建設事業の今後に関する質問主意書」の答弁書へのコメント ー八ッ場あしたの会
1 工期が2015年度より更に遅れる可能性について(一の1~11)
付替国道や付替県道の工事の遅れ、代替地への移転の遅れ、転流工開始の遅れなどから、工期がさらに延びる可能性が高いことを質問したが、予定工期を示す答弁に終わっている。しかし、この答弁からも工期再延長の可能性が十分にあることが伺える。
① 付替国道の工事は1995年度から開始されながら、進捗率は52%にとどまっている。また、地質が脆弱な川原畑地区の法面崩落事故への対策はまだ検討中である。 →予定工期の2010年度までの完成はきわめてむずかしい。
② 打越代替地の居住部分の盛土造成地は沈下量の測定が行われておらず、これから沈下量の測定を実施し、その結果で分譲開始時期を判断するとしている。 →2012年度開始予定の本体打設までに移転を完了することはむずかしい。
③ 「転流工の工事の遅れがダム完成時期に与える影響」、「付替国道の工事や代替地移転が計画より大幅に遅れる」ことは現時点ではないと答弁している。 →遅れをどのような形で取り戻すか、具体的な方策は示されていない。「現時点では」という但し書きは、完成時期に影響を与える可能性があることを示唆している。
2 建設事業費4600億円が更に増額される可能性について(二の1~5)
付替道路工事費や本体工事費の見通し、東電への巨額の減電補償などから見て、建設事業費4600億円が更に増額される可能性が高いことを質問したが、核心を外す答弁に終っている。しかし、この答弁からも再増額の可能性が十分にあることが伺える。
① 予定している事業費の範囲内で付替道路が完成するよう努力してまいりたいと答弁している。→ 努力目標でしかないことを意味する。
② 予想外の地質が現れた場合の本体工事費の増額については、「予想外の地質」がどのようなものを想定しているか不明として答弁を避けている。 → 今年1月の「都県合同による八ッ場ダム現地調査報告書」には「本体掘削等において予想外の地質が現れ、事業費が増加する可能性も残している。」と記されており、その可能性があることは明らかである。
③ 東電への減電補償については個別企業の経営上の問題にかかわるものであるとして答弁していない。 → 税金からの支出の内容を明らかにしないことは納税者の理解が得られることではない。答弁を拒否するのは、減電補償を表に出せば、再増額の可能性が高いことを認めることになるからではないだろうか。
3 水没予定地区の生活環境について(三の1)
八ッ場ダム事業の長期化により、水没予定地住民は精神的、物質的に多大な損害を蒙っている。答弁書では、昭和37年に閣議決定された「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」に基づいて補償を実施していくとあるが、この要綱において、「精神的な苦痛に対する補償」がなんら規定されていないことが今日、大きな問題であることは、これまでにも水没予定地住民から再三指摘されてきている。
「当初の代替地計画」について、「何を指すのか必ずしも明らかでない」として答弁を避けているが、「当初の代替地計画」が平成十七年度の意向調査票でないことは明らか。国の不誠実な対応が、水没予定地住民の苦悩を深刻なものとしていることを憂慮する。
4 打越代替地の今後について
(1) 沈下量の測定と移転完了(一の8~9)
川原湯地区は水没予定地住民が最も多く、自然湧出の温泉源を生活の糧とする人々が多い集落であるため、ダム事業の進行に伴い代替地の早期分譲を切望する声が高かったにも関わらず、代替地の分譲が最も遅れている。国はその原因を明らかにしてこなかった。
打越代替地の居住部分の盛土造成地について、沈下量の測定が行われてこなかったことは、代替地への移転完了時期に関わる重大な問題である。今回の答弁で明らかになったことは、次のとおりである。(答弁にある打越代替地の大沢の沈下量測定も居住部分ではない。)
① 打越代替地は大規模な盛土により代替地を造成する箇所である。
② これから沈下量の測定を実施し、その結果を踏まえ、分譲開始時期を判断する。
③ 分譲開始後も試験湛水が完了するまで(2015年度末まで)沈下量の測定を実施する。
④ 2012年度開始予定の本体打設までに移転を完了する。
打越の盛土造成地は何十メートルという厚さで盛土が行われているところである。このような盛土造成地は一般に5年程度、沈下量を測定した上で居住開始の可否の判断がされるものであるのに、打越代替地では沈下量測定開始と前後して、移転が進められることになっている。現地再建をめざす水没予定地住民にとっては、他に選択肢がないため、このような状況であっても代替地への移転を考えざるをえないが、一般の土地売買では考えられないことである。わが国では近年、奈良県の大滝ダムなど、国が安全を保証しながら、ダム湛水により災害が誘発され、住民が多大な被害を蒙る事態が起こり、いまだに問題は解決してない。八ッ場ダム事業において、住民が移転後に代替地の沈下の進行が明らかになったら、国はどのような責任をとるつもりなのであろうか。
(2) 吾妻渓谷へのアクセス遊歩道(三の2、3)
打越代替地から吾妻渓谷へのアクセス遊歩道は延長1300メートルもあるものが検討されている。また、ダム建設工事中の吾妻渓谷の散策可能範囲がいまだに決まっていない。打越代替地に移転する予定の川原湯温泉にとって、重要な観光資源である吾妻渓谷が現在のように集客の手段になりえるのであろうか。
5 本体工事費の割合が異様に低い八ッ場ダム(四の1~5)
今回の八ッ場ダム基本計画変更に伴って、ダム本体関係の工事費(貯水池護岸工事と地滑対策を除く)は大幅に削減され、八ッ場ダム建設事業費4600億円のたったの9%となった。
今回の答弁で、今までにつくられた国土交通省や水資源機構のダムの中で、ダム本体関係工事費が全事業費に占める割合が10%以下のダムは存在しないことが明らかになった。八ッ場ダムはダム本体関係工事費の割合が異様に低く、ダム本体以外に9割以上の事業費を使う前例のないダムなのである。
しかし、今年1月の「都県合同による八ッ場ダム現地調査報告書」に記されているように、「本体掘削等において予想外の地質が現れた」場合は、本体工事費が増加する可能性が十分にある。
6 付替国道の4車線化の問題(五の1~9)
付替国道のほとんどは、地域高規格道路として4車線道路にするということで計画され、事業費の負担も用地買収もそのことを前提として進められてきている。ところが、今回の答弁では4車線化の時期は、2車線の供用開始後、交通の状況に応じて検討するとしており、4車線化を実施する計画がないことが明らかになった。
今回の答弁で明らかになったことは次のとおりである。
① 4車線化の時期は、2車線の供用開始後、交通の状況に応じて検討する
② 付替国道の進捗率52%は2車線道路の数字である。
③ 付替国道の用地買収は4車線を前提として行われてきている。
④ トンネルと橋梁は2車線でつくられてきているが、4車線にする計画はない。
⑤ 付替国道の工事費の負担割合は、A 特別会計治水勘定59%、B 特別会計道路勘定27%、C 水源地域対策特別措置法(水特法)による関係都県14%である。
⑤の費用負担のうち、Aは八ッ場ダム建設事業費4600億円からの支出(そのうち、44%は関係都県が負担)、BとCはそれぞれ水特法による国と関係都県の負担割合を示している。
Aは現国道への補償費であり、現国道より道幅を大きくする費用負担は水源地域対策特別措置法により、BとCで負担するという仕組みになっている。現国道より大きくする部分の大半を占めるのが2車線を4車線にするための費用である。
したがって、4車線にするという前提で、水特法によって関係都県が負担をし、道路勘定からも支出が行われている。しかし4車線化にする計画は実質的になくなっているのであるから、現在の費用負担は大きな矛盾をはらんでいることになる。さらに、4車線化にする計画がないのに、用地買収を4車線で行ってきていることは、大変な公費の無駄遣いである。
7 湖面一号橋について(一の3、一の5及び6)
付替県道の中で、最も工事の進捗率が低いのは、一般県道川原畑大戸線である。川原畑大戸線は、進捗率が約21%となっており、「平成26年度末までに工事を完了すると見込んでいる」とある。一般県道川原畑大戸線は付替国道と打越代替地をつなぐ湖面一号橋の部分に当たり、川原湯温泉の打越代替地にとっては付替国道への重要なアクセス道路である。湖面一号橋の工期の遅れは、川原湯温泉の生活再建にとって大きな影響を与える心配がある。
8 久森トンネルについて(五の4について)
二車線の付替国道に関わるトンネル工事の中で、工事の進捗率の低い久森トンネルは、2003年7月にインクラインが完成し、トンネルの掘削工事が開始された。延長約二百七十メートルにすぎないトンネルの工事が5年近く経過している現在、進捗率約62%であることは、地質などの問題がある可能性が考えられる。