2009年9月1日 上毛新聞社会面より転載
ー「建設中止は困る」 民主大勝で八ッ場ダムの地元 現実味増し危機感 住民ら決定なら抗議運動も 反対派 住民の負担減提言へー
民主党の歴史的大勝を受け、同党が衆院選マニフェストに建設中止を明記した八ツ場ダムの工事が進む長野原町では31日、動揺が広がった。ダムの建設中止が現実味を増す中、既に代替地への移転を済ませた住民らの思いは複雑。地元観光協会などは建設中止が正式決定した場合、新たな住民運動を展開することも示唆する。一方でダム建設反対派は今後、住民への負担が少ない建設中止の在り方をめぐって、政権を獲得する民主党に積極的に働き掛けていく方針だ。
「選挙の結果にはがっかりした。地元としては、とにかくダム建設を中止してもらっては困る」。長野原町の高山欣也町長は沈痛な胸の内を明かした。
全国的に民主大勝の結果になったが、地元の群馬5区では、ダム建設推進を掲げた自民の小渕優子氏が圧勝。民主候補が出馬しなかったこともあり、吾妻郡内の比例代表の民主党得票率は27・05%と、県全体の得票率を12?以上も下回る結果となった。高山町長は「地元はダムを望んでいる」とあらためて強調する。
水没予定の川原湯温泉で旅館を営む樋田省三同温泉観光協会長は「ダム建設は国の政策。水没住民は国と約束して生活再建を進めてきたのに、政権が変わったからといって国の方針が変わっていいのか」と憤る。樋田会長は今後、ダムの中止方針が正式決定された場合には、抗議運動や住民運動に取り組む方針という。
同町川原湯地区の代替地に移り住んだ美容師、大竹春子さん(88)は「国民のためと言っているが、地元住民の苦しみを聞こうとしていない」と批判する。
一方、ダムの本体工事の中止と関連事業の見直しを求めている「八ツ場あしたの会」の渡辺洋子事務局長は、「計画から半世紀以上も長引くダム建設は、もっと早く政権交代が実現していれば既に見直されていたはずの政策」と話し、選挙結果を歓迎。その上で「地元住民への負担減を最優先に、真の地域再生を目指すべきだ」として、これまでも行ってきた民主党への政策提言を、今後も積極的に行っていく方針だ。
同様にダム建設を問題視してきた「八ツ場ダムを考える一都五県議会議員の会」の関口茂樹代表世話人は、「ダムの中止で、ほかの事業すべてが白紙になるのではない」と強調。半世紀に及ぶ地元住民の苦悩に配慮し、「住民の生活を可能な限り守る、新たな法の整備を急ぐべきだ」と指摘した。