八ッ場ダムは、わが国のダム行政を象徴する存在です。八ッ場ダム事業の行方は、今後のダム行政に大きな影響を与えることは確実です。
2009年9月3日 読売新聞関西版より転載
ー各地の予定地でも計画の行方に不安…八ッ場ダム入札延期気をもむ推進派、勢いずく反対派ー
「首都圏の水がめ」として建設が進められてきた八ッ場(やんば)ダム(群馬県)について、国土交通省は3日、本体工事の入札延期を表明した。民主党への政権交代で、建設中止が現実味を帯びてきたことで、地元住民や資金を負担してきた自治体からは反発や困惑の声が上がった。全国各地のダム建設予定地でも、計画の行方に不安が広がった。
香川・新内海ダム
香川県・小豆島の県営新内海(うちのみ)ダム。現ダムの老朽化と1970年代の2度の豪雨被害の経験から、県は従来の8倍の貯水量を持つ新ダム建設を計画した。総事業費約185億円のうち国、県が各約88億円、小豆島町が約9億円を負担し、2010年1月着工、13年度供用開始を目指す。
民主党の鳩山代表は06年11月、現地を視察し、当時のメールマガジンで「無駄な公共事業の最たるもの」と断じた。今年7月の記者会見でも「必要な事業か、疑いが消えない」と改めて疑問を投げかけた。
本体工事の入札は今月7~9日に迫っており、北原義則・県土木部長は「首相になれば、経緯を踏まえて適切に判断してくれるはず」と祈るような表情。これに対し、計画に反対する市民団体「寒霞渓(かんかけい)の自然を守る連合会」の山西克明会長は、「新ダムは現ダムの補修で十分」と勢いづく。
愛媛・山鳥坂ダム
国交省が08年、準備工事を始めた「山鳥坂(やまとさか)ダム」の地元、愛媛県大洲市では、建設の是非を最大の争点とした市長選が今月6日、告示される。
総事業費850億円。19年度の完成を目指すが、今年1月の市長選で、ダム反対派の前市議(61)を僅差(きんさ)で破った推進派の市長が先月、急死。これを受け、改めて市長選に立候補を表明した前市議を、民主党は1日、「大型公共事業を見直す党の方針と一致する」として推薦した。
一方の推進派からは、同ダム工事事務所初代所長も務めた副市長(54)が、自民党大洲支部の要請を受けて出馬する見通し。加戸守行・同県知事も3日、「山鳥坂ダムの準備工事はすでに始まっており、国には着実に実行して頂けると思っている」と強調した。
滋賀・大戸川ダム
滋賀、京都、大阪、三重の4府県知事が計画の白紙撤回を求め、国交省が3月に「凍結」を表明した大戸川ダム。大津市をはじめとする滋賀県内の地元市が建設推進を求める中、衆院選では民主党が県内4小選挙区を独占した。目片信・大津市長は2日の記者会見で、「(民主政権により)実現の可能性はさらに一歩後退した」と認めた。
熊本・川辺川ダム
国交省が熊本県に計画する川辺川ダムは、蒲島郁夫知事が昨年9月に計画反対を表明したことを受け、本体関連工事は事実上、休止状態。県は、八ッ場ダムの入札延期について「民主党がマニフェストに建設中止を掲げている以上、国交省の常識的な判断」と評価した。