10月18日、八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会と八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会では、東京で緊急集会を開催しました。
八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会では住民訴訟でダム事業への支出差し止めを求めていますが、目的はダム本体の工事を止めることであって、現地の方が必要と考えるなら、周辺工事を継続し、地域の再建をしっかり支援していくべきだというのが、皆の総意であることも会場で確認されました。
☆集会のアピール文
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八ツ場ダム事業の一都五県における検証と政策転換を求めるアピール
私たちはいま、不思議な光景を目の当たりにしています。
2001年、八ツ場ダムの完成予定は2000年から2010年に延長されました。一都五県は国交省の提案に従いました。2004年、今度は事業費が2110億円から4600億円に増額されました。あまりの事態に一都五県は「これ以上完成が遅れたら、ダムの必要が無くなるかも知れない」と非公開の協議会で話し合いました。2007年、再び工期は延長され、完成予定は2015年になりましたが、3年前の話し合いには口をつぐんでまたしても従いました。
こうして半世紀を越えた八ツ場ダム事業には、二つの致命的な問題がありました。
一つは、首都圏の都市用水の需要が10年以上前から減少の一途をたどり、利水の必要性が失われたこと。もう一つは、治水効果の異常な低さです。八ツ場ダム計画の契機となったカスリーン台風でさえ、再来しても効果はゼロ。国交省の想定通りの雨量がダム集水域に降った2001年9月の台風15号、2007年9月の台風9号でも、八ツ場ダムがなくても下流に被害がでなかったこと、また、過去50年間で最大の洪水(1998年9月)でも、その効果は、最大13㎝の水位を下げるだけで、このときの最高水位は堤防の天端までに約4メートルもの余裕があることも分かりました。
八ツ場ダムの必要性は、時代と共に失われ、事実(ウソとホント)が隠されていたのです。
さらに、八ッ場ダムは、かけがえのない自然を喪失させ、貯水池周辺で地すべりを誘発するなど、様々な災いをもたらすダムであって、子孫に大きな負の遺産を残すものです。
私たちは、2004年に一都五県で住民訴訟を提起し、裁判を通じてこうした事実を明らかにしてきました。一都五県の支出は違法であると訴え、その支出を返還するよう求めてきました。時として自治体の政策判断を「違法」と断じる力をもちえない司法の限界を感じながらも、真実の力に希望を託し、事実を明らかにすることに力を注いできました。
一方で、一都五県のやってきたことは、地方自治法で「最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない(2条14項)」とされた自治体の本分を忘れ、独自の検証を怠り、国交省の説明を鵜呑みにして従うことだけでした。
ところが今、知事達は新政権の「政策判断」に対し、八ツ場ダム事業を止めるのであれば、自治体が払った金を返還せよと訴え始めています。国交省の判断に従ってきた自らの政策判断とその責任を棚に上げ、国の責任を問うています。自治体の「政策判断」と「支出」は誤りであると知事達を訴えた私たちから見れば、不思議な光景です。
政権が交代した今こそ、一都五県は、旧政権下において隠された事実に基づいて改めて八ツ場ダム事業を検証し、過去の政策判断を見直すべきです。必要性の喪失が明らかなダムにさらなる税金を費やすか、より必要とされる政策実現に振り向けるかの、自治体としての責任は、今大きく問われています。私たちは、この集会を一つの契機に、一都五県における八ツ場ダム事業の再検証と政策転換を求めます。
2009年10月18日 参加者一同
◆2009年10月19日 朝日新聞群馬版より転載
ー八ツ場ダム 治水・利水効果を検証ーhttp://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000600910190001
政権交代によって建設中止の方針が打ち出された八ツ場ダム(長野原町)をめぐり、「八ツ場ダムのウソorホント?」と題して事業を検証する集会が18日、東京都内で開かれた。建設反対派の市民団体「八ツ場ダムをストップさせる市民連絡会」の主催。集まった150人を前に、会のメンバーらは改めて持論を展開した。(大井穣)
集会では、コストや利水、治水、生活再建などをめぐって会の嶋津暉之代表らが解説した。
「利根川の洪水対策のために必要か」という問いに対し、嶋津さんは「ダムを造っても、あまり意味がない」と説明。洪水対策には、ダムよりも河川の堤防を整備する方が効率的だ、とした。
八ツ場ダムが計画されたのは、1947年のカスリーン台風がきっかけ。関東1都5県で死者1100人の被害を記録した。これを受け、利根川水系の治水計画の一環として52年に調査に着手した。
嶋津さんは、08年6月の政府答弁書で、カスリーン台風と同じように雨が降った場合、八ツ場ダム予定地の上流域では比較的雨量が少なく、治水効果は「ゼロ」との試算結果が示されたことを紹介。
過去50年間で最大の洪水だった98年9月のケースに当てはめた場合にも、治水計画の指標となる伊勢崎市八斗島(やっ・た・じま)の水位は最大13センチ低減する程度で、堤防の満水位まで約4メートルの余裕があるとの試算を示した。
渇水対策についても会は疑問を投げかけた。八ツ場ダムは、高度成長期に水不足に陥った首都圏の水源確保の目的が加わった経緯がある。
だが現在、利根川水系には11基のダムがあり、夏季でも合計で4億4329万リットルの水量を確保しており、八ツ場ダムの夏季水量は約5%に当たる2500万リットルにすぎず、既存のダムで間に合うという。
同会のメンバーで、水源開発問題全国連絡会の遠藤保男共同代表は「八ツ場ダムがないと首都圏の水が足りなくなるというのは、現実味のない話だというのは一目瞭然(りょう・ぜん)」と指摘。渇水対策としての意味を真っ向から否定した。
このほか同会は「工事が7割も進んでいるというのは本当か?」などの疑問も提示した。解説した大野博美千葉県議は「7割というのはコストベースでの話。工事の進み具合でみれば2割程度しか進んでいない」と指摘した。
国土交通省八ツ場ダム工事事務所のホームページ「八ツ場ダムの役割」では、こうした見方と相反する説明をいまも続けている。
まず、治水面での意義を強調。八ツ場ダムは7~10月の洪水期に6500万トンの洪水調節容量を確保し、利根川上流の既設5ダム(矢木沢、藤原、相俣、薗原、奈良俣)を合わせた洪水調節容量約8千万トンに匹敵する役割を果たし、首都圏の洪水被害を軽減する――などと説明する。
水需要については、人口の増加や生活様式の向上で1970年に比べて3倍に増え、供給が追いつかずに渇水が頻発し、水資源開発が急務、としている。
一方、同会と訴訟で争ってきた6都県のうち、ダム予定地を抱える群馬県は、朝日新聞の取材に「現在は国交省から詳しい説明を求めている段階。県としての見解を答えられる状況ではない」(特定ダム対策課)という。
14日に県議会であった産経土木常任委員会では、国交省関東地方整備局の幹部ら2人が参考人として出席。県議から八ツ場ダムの必要性や前原国交相の「建設中止」表明についての見解を求められたが、明確な回答ができずじまいだった。