八ッ場ダムの特異性として最近テレビでも取り上げられるようになってきた吾妻川の中和事業。
硫黄の山、草津白根山から流れ出す酸性河川が流れ込む吾妻川は、かつて”死の川”と呼ばれた歴史があります。吾妻川の中和は40年以上も前に始まりました。中和事業の成功により、コンクリートを溶かす酸性河川にダム建設は不可能とされた吾妻川に八ッ場ダム計画が復活しました。ところが、中和を促進するために草津町の中和施設の下流に造られた品木ダム(六合村)が、この歳月の間に土砂や中和生成物で満杯に近い状態になっており、厄介な問題となっています。
品木ダムには、ヒ素濃度の高い万代鉱源泉由来の温泉水も流入しており、八ッ場ダム予定地点の水質の問題としても注目されています。八ッ場ダムが造られるか否かに関係なく、今もこの水は首都圏の都市用水の供給先となっている利根川下流に流れています。
◆2009年11月10日 毎日新聞より転載
「品木ダム:堆積物満杯の恐れ 八ッ場とも関連、対応に苦慮」
http://mainichi.jp/select/today/news/20091110k0000e040021000c.html?link_id=RTH05
草津温泉の硫黄分などで強酸性の河川を中和する過程で生じた石こうを堆積(たいせき)させる目的で、群馬県六合(くに)村の湯川に建設された品木ダムが、満杯になる恐れが出てきた。堆積量がしゅんせつ量を上回っているためで、湖底が水面下5メートルまで迫っている。同ダムは鳩山政権が建設中止を表明している八ッ場(やんば)ダム計画を進めるため建設されたが、地元関係者は八ッ場ダムの中止表明に続く難題への対応に苦慮している。
八ッ場ダムは治水に加え利水目的もあって計画されたが、同ダムがせき止める吾妻川は強酸性で「死の川」と呼ばれ飲料水に適さないため、計画は1953年に一時中断した。群馬県は吾妻川の上流に石灰を投じて酸性水を中和するための工場と品木ダムの建設を進め、八ッ場ダム計画が復活した。
品木ダムは65年に完成。中和で生じる石こうと土砂は現在、年間約5.5万立方メートルがダムへ流れ込む。一方、しゅんせつ量は約3万立方メートル。総貯水量166.8万立方メートルに対し、08年度の堆積量は142.1万立方メートルで、85%に達した。
品木ダム水質管理所の瀬戸俊彦所長は「しゅんせつ量を調整すれば、ダムは使い続けることができる。取り除いた堆積物の処分場も向こう10年は対応できる」と話すが、ダムが飽和状態に達する前に新たな対応を求める声も上がっている。【鳥井真平】
◆2009年11月13日 朝日新聞社会面より転載
ー八ツ場上流、ヒ素検出を公表せず 国交省 基準超すヒ素検出ー
http://www.asahi.com/politics/update/1112/TKY200911120444.html
八ツ場ダム(群馬県)の建設予定地の利根川水系の吾妻川とその支流で、国土交通省が少なくとも93年以降、環境基準を超えるヒ素を毎年検出しながら、調査結果を公表していなかったことが朝日新聞社の調べでわかった。下流で取水する飲用水の水質に影響する結果ではないが、ダム建設の是非に影響しかねないとみた国交省が、データの公表を避けて計画を進めていた。
国交省は昨年12月から政権交代直前まで、非公表の第三者機関「八ツ場ダム環境検討委員会」を設け、ダム建設が水質や自然環境に与える影響を検討。朝日新聞社は「八ツ場ダム 環境保全への取り組み」と題した報告書を入手した。非公表とされてきた水質データが記されている。
ヒ素は自然界に広く分布し、火山の岩盤や温泉水には高濃度で含まれる。環境基本法に基づく河川の水のヒ素の環境基準は1リットル当たり0.05ミリグラムだったが、世界保健機関がヒ素の発がん性を懸念して厳格化。日本でも93年から同0.01ミリグラムに強化された。
報告書によると、草津温泉を流れる湯川や、酸性の水質を改善するために設置された品木ダムの放水口、八ツ場ダム建設予定地から約10キロ上流の貝瀬地点では86年度以降、ヒ素濃度が高く、基準が強化された93年度以降は基準を上回っていた。08年度の平均値は湯川で基準の約100倍、品木ダムの放水口で約10倍、貝瀬地点で5倍を記録した。
吾妻川の水質は、草津白根山系の硫黄鉱山からしみ出す水や草津温泉からの水が流入して酸性が強い。1952年に計画が浮上した八ツ場ダムも、コンクリートが溶けることを理由に一度は断念された。だが、63~65年に、強酸性を改善するための中和工場や品木ダムが造られ、湯川など上流の三つの川に石灰液を投入して中和化が進められ、八ツ場ダム計画が復活した。
環境省によると、環境基準は政府としての目標値で、基準を超えても国や自治体に法的な改善義務は生じないが、環境基本法は改善に努力するよう義務づけている。しかし、国交省はこうした事態を公表せず、封印していた。
吾妻川とその支流の水は飲み水には使用されておらず、国交省は「下流に流れるにつれて他の河川と合流するなどしてヒ素は薄まる。ダムでは沈殿するため、下流の利根川での取水で健康被害の心配はない」としている。報告書を作成した環境検討委も、八ツ場ダム完成後は「(下流部での)ヒ素濃度は下がる」と予測している。
水質調査の結果を長年、非公表としてきた理由について、国交省は「ヒ素の数値が出ると、観光や農業、漁業など流域の幅広い産業に風評被害が起きる可能性があったため」と説明する。
環境検討委は今年3月までに3回開催され、8月には報告書を公表する予定だったが、総選挙の時期とも重なり、基準を上回るヒ素の公表が、ダム建設の是非にどのような影響を与えるかを巡って検討委や省内の調整作業が難航。4回目の開催は9月に延びたが、結局、政権交代で八ツ場ダム自体が中止の方向となり、4回目の会合は開催されていない。
国交省は報告書の存在を認めた上で、「まだ検討段階のもので、最終結論を得たわけではない。今後、公表するかどうかは未定」としている。(津阪直樹、菅野雄介、歌野清一郎)
◆2009年11月18日 共同通信ニュースより転載
ー国交相、公益法人の必要性を精査 入札見直しも表明ー
http://www.47news.jp/CN/200911/CN2009111801000257.html
前原誠司国土交通相は18日午前の衆院国土交通委員会で「公益法人が民間企業と競争して仕事を取らなければいけないのか。公益法人をゼロベースで見直したい」と表明。同省所管の公益法人について存続の必要性を精査するとともに、民間企業との競争条件が公平になるよう、国が発注する業務の入札方法も再検討する考えを示した。
民主党の村井宗明氏に対する答弁。
村井氏は、国交省が八ツ場ダム(群馬県)の建設予定地のある吾妻川支流で環境基準を超えるヒ素を検出しながら公表しなかった問題をめぐり、水質検査を実施した財団法人「ダム水源地環境整備センター」に国交省OBが多数天下りしていることや、同省が発注した検査業務の落札率が平均99・42%に上ることなどを指摘した。
前原氏は、過去に国交省と同センターの業務契約が随意契約で行われていた経緯を認めた上で、発注者である国交省側の問題として「(発注全般に)競争入札を導入した後も、入札のハードルを高くし、結果的にこうした法人しか仕事を取れない形にしていたケースが多々見受けられる」と述べた。
前原氏は「民間企業と競合する入札は、条件が公益法人に有利にならないよう見直していく」と強調した。