2010年2月12日
八ッ場あしたの会では湖面1号橋の費用対効果(B/C)について、群馬県が試算を行った資料を分析し、その内容に問題があるとの見解を今月5日に公表しました。↓
https://yamba-net.org/wp/modules/news/index.php?page=article&storyid=825
これに対して、この試算を行った群馬県道路整備課が反論しているとの記事が昨日(11日)の朝日新聞群馬版に掲載されました。(末尾に掲載)
八ッ場あしたの会では、群馬県の試算について二つの問題点を指摘しました。
一つは 群馬県道路整備課が行っている道路の拡幅分(事業費5.1億円)を対象とした便益計算の内容です。
この便益計算では、湖面1号橋の利用者数を1900台/日とし、走行距離を設計速度(時速40km)の倍の時速80㎞とするなど、現実離れした数字に基づいた計算を行って、費用対効果が高い(1.7)との結論を導き出しています。八ッ場あしたの会では、この計算内容について問題を指摘しましたが、これに対しての反論は届いていません。
また群馬県は、事業主体でありながら、拡幅分の費用対効果のみを算出し、橋全体の事業費(52億円)における費用対効果を明らかにしていない問題を指摘しました。併せて、群馬県が行った拡幅分の試算に基づいて、橋全体の事業費における費用対効果の試算を行った結果を公表しました。
これに対して群馬県道路整備課は、「橋全体の費用対効果を出すにはもっと複雑な要因を考慮する必要がある」と反論しているということですが、これは拡幅分にも当てはまることです。「複雑な要因」を橋全体の便益計算をしない理由とするならば、群馬県が拡幅分の便益計算を行ったこと自体、意味がないことになります。
湖面1号橋については、利用者数が限られており、正確な数字に基づいて費用対効果を出せば、便益が1以下になることは明らかです。
八ッ場あしたの会では、群馬県の費用便益計算は合理性を欠くことを指摘しましたが、湖面1号橋の建設にはもっと基本的な問題があることをこれまでも伝えてきました。八ッ場ダムの生活再建関連事業として予算付けされている限られた事業費の中で、ダム本体工事を前提とした湖面1号橋などのインフラ整備に突出した予算を組むことが、結果的に水没予定地住民の真の生活再建に繋がらないという懸念があるからです。
報道によれば、群馬県は国の凍結要請にもかかわらず、湖面1号橋の橋脚1本(P4)についてすでに業者との契約を済ませ、2月中に着工とのことです。P4は川原湯温泉街の入り口、JR川原湯温泉駅の斜め前に建設が計画されています。この橋脚工事は、川原湯温泉、吾妻渓谷の観光業にとって大きなダメージとなります。
群馬県は八ッ場ダム計画の中で、水没予定地住民の生活再建に対して責任を負ってきた立場です。政権が交代し、ダム中止方針を国土交通大臣が示す中、群馬県はダム本体工事を前提とした従来の関連事業を推し進めるだけでは責任を果たすことになりません。
*湖面1号橋についての基本情報はこちらに掲載しています。↓
https://yamba-net.org/wp/modules/bridge/index.php?content_id=1
◆ 2010年2月11日 朝日新聞群馬版より転載
―1号橋着工へ 事業費不透明なままー
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581002120001
八ツ場ダム(長野原町)のダム湖に架かる計画の湖面1号橋で、県発注の橋脚工事2本の受注業者が決まり、1本は2月中に着工する見通しになった。1号橋の総事業費52億円の96%を握る国の動向が不透明なまま、県は新年度当初予算案にも事業費を組み込んでおり、「見切り発車」となった。
1号橋の橋脚は4本あり、P2はすでに着工済み。P4は9日、県が工事の契約を済ませ、2月中に着工する予定。P3も県議会の議決を経て3月には契約、着工を予定している。橋を通る県道は2013年度に開通予定だ。
国が新年度政府予算案で示した八ツ場ダム関連の155億円を、3月末の個所付けで予定通り1号橋にも振り分けることが建設を続ける前提になる。住民は1号橋は生活に欠かせない道路だと主張している。
ただ、前原誠司国土交通相が「ダムを前提としたインフラ整備を続けることが必ずしも生活再建ではない」と述べるなど、今後の行方ははっきりしない。
受注したゼネコンの関係者は取材に対し、全国的にダム事業の凍結が相次ぐなど、業界の厳しい経営環境を説明。「実力を発揮でき、利益の出る工事だと考えた。中止や延期はないと踏んだから、他社も入札に参加したはず」と話した。
「湖面1号橋」について、建設中止を訴えている市民団体「八ツ場あしたの会」は、建設費用を1とした場合の効果は0・76に過ぎないとする独自の試算結果を公表した。これに対し、県は「誤った解釈に基づく計算」と反論している。
1号橋は、吾妻川の栄橋(長さ約50メートル、幅約5メートル)がダム湖に水没する補償として、長さ494メートル、幅13・5メートルで計画されている。県は橋の拡幅で、より早く目的地に到着することやそれに伴い車の燃費も減ることで、拡幅しない場合よりも1・7倍の効果があると算出している。
あしたの会は、この積算根拠をもとに橋全体での費用対効果を計算した結果、逆の結果になったという。
県道路整備課では「橋全体の費用対効果を出すにはもっと複雑な要因を考慮する必要があり、単純に試算はできない」と反論している。