2010年12月23日
昨日、八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会は、馬淵大臣に八ッ場ダムの検証に関する要請書を提出しました。
前原大臣の私的諮問機関として立ち上げられた有識者会議がまとめた全国のダムの検証基準では、客観的な検証作業が行われる可能性がきわめて低いとみられています。八ッ場ダム事業においては、建設の主目的の一つである「利水」が関係都県の過大な水需要予測によって必要とされており、水需要予測の検証なしには「利水」目的の検証は不可能ですが、ダム推進に都合のよい検証基準はこの点に触れていません。
今回の要請行動は、各都県で過大な水需要予測を追及してきた野党系議員らによって行われたものです。東京都では、5年ごとの水需要予測の見直しもせず、平成16年の水需要予測がそのまま罷り通っている状況です。ダム行政においては、石原都政の時代遅れぶりが顕著で、このことも八ッ場ダム問題の解決を阻んでいる一因となっています。
2010年12月22日
国土交通大臣 馬淵 澄夫 様
副大臣 三井 辨雄 様
大臣政務官 津川 祥吾 様
八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会
代表世話人 関口茂樹
〒370-2132 高崎市吉井町吉井547-3 サトカンビル3F
連絡先 事務局:角倉邦良 電話 027-387-1432
八ッ場ダム事業の科学的・客観的な検証を求める要請書
時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
八ッ場ダム事業の検証作業が始まりました。来年秋までには検証の結果が出ることになっていますが、しかし、この検証の手順と基準を定めた「ダム事業の検証に係る検討に関する再評価実施要領細目」を見ると、八ッ場ダム事業について本当に科学的・客観的な検証が行われるのか、強い危惧を持たざるを得ません。
去る11月11日に開かれた「八ッ場ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場」第2回幹事会では、各利水予定者の参画予定水量を従前どおりとし、それを前提として検証する方向が示されており、利水面では早くも、正当な見直しがされない様相を呈してきています。
八ッ場ダム事業について「予断なき検証」を実施することになっているのですから、ゼロベースからデータを積み上げて科学的な解析を行わなければなりません。八ッ場ダムありきの従前からの数字を前提とした検証を行うことはあってはならないことです。
今回の検証検討主体は八ッ場ダム事業を今まで推進してきた関東地方整備局であり、ダム事業者自らによる検証作業ですから、「予断なき検証」と言いながら、実際にはダム事業継続が妥当という結果が出るように、形だけの検証が進められてしまうことが憂慮されます。
八ッ場ダムについて真の「予断なき検証」を行うためには下記の課題に取り組むことが是非とも必要です。下記のことを十分に踏まえて八ッ場ダム事業について客観的・科学的で公正な検証を実施することを強く要請いたします。
記
1 利水面の検証
(1) 水需要の実績と乖離した過大予測を是正し、乖離の幅を極力小さくすることを最重要課題とすること
利水面での八ッ場ダムの検証で最も重要なテーマの一つは、各利水参画者の水需要予測を科学的に評価することです。水需要の実績が減少傾向になってきているにもかかわらず、いずれの利水参画者も水需要が増加し続けるという実績とかけ離れた過大な予測を行っており、その是正が必要です。ところが、今回の検証では利水参画者から出された開発必要量について関東地方整備局が人口、給水区域、基本的な考え方について、都県の長期計画、水道事業計画認可、第5次水資源開発基本計画の上位計画なども含めて確認するだけとなっています。これらの上位計画は各利水参画者の過大予測を前提としてつくられており、この確認作業で過大予測が是正される可能性はほとんどありません。
検証ではこのようにして確認した量を確保することを基本として利水対策案を立案することになっています。しかし、過大予測によって架空の必要性がつくり出されているのですから、その水量を確保する代替案を立案することは無意味なことです。過大な水需要予測をあらためるだけで、大半の利水予定者については八ッ場ダムへの参画が不要と判定されるものと考えられます。
さらに、過大予測を是認したままではその大きな水量を確保する有効な代替案が今更あるはずがなく、結局はダム案が有利という結果になることは目に見えています。
利水の検証においては、例えば、最新の実績値と予測値との乖離を実績値の5%以内にとどめることや、5年以上前に実施した水需要予測は排除するなど、一定のルールを設けて水需要の実績と乖離した過大予測を是正し、乖離の幅を極力小さくした上で八ッ場ダムの是非を検証することが必要です。
水需要の過大予測を是正しない検証は意味がありません。
(2) 暫定水利権を安定水利権に変えるため、現行の不合理な水利権許可制度の改善策を示すこと
埼玉県水道や群馬県水道などは八ッ場ダムを前提とした暫定水利権を使っています。ただし、暫定水利権といっても長年、八ッ場ダムがなくても、何ら支障なく取水し続けています。古いものは38年間の取水実績があり、実態としては安定水利権と変わらないものです。したがって、八ッ場ダム事業が中止になっても、それらの暫定水利権はそのまま使用し続けることが可能です。実際に今まで中止されたダムの暫定水利権はダム中止後も利用継続が認められています(例.細川内ダム、清津川ダム)。
将来的には暫定水利権を安定水利権に変える必要がありますが、実態として安定水利権と変わらないのですから、その実態に合わせて水利権許可制度を改善すればよいだけのことです。
「再評価実施要領細目」では暫定水利権に関しての記述がありませんが、八ッ場ダムの利水の検証において、暫定水利権は重要なテーマなのですから、その解消方法、すなわち、不合理な現行水利権許可制度の改善方法を示すことが必要です。
2 治水面の検証
(1) 基本高水流量の見直しは八ッ場ダム検証の結果に直結することを認識して、
その見直しを科学的に行うこと
利根川の基本高水流量22,000m3/秒(八斗島)は森林の生長による山の保水力の向上を無視するなど、科学的な根拠が乏しく、さらに、その算出資料も存在しないことから、馬淵大臣自ら、基本高水流量をゼロベースで計算し直すことを指示し、八ッ場ダムの検証と並行してその見直し作業が進められることになりました。
この基本高水流量の見直しと八ッ場ダムの検証は別ものだという誤った情報が流されています。基本高水流量は河川整備基本方針という長期的な治水方針における目標流量であり、一方、八ッ場ダムの検証は今後30年間に実施する河川整備計画の目標流量を達成する上で必要か否かという観点で行われることから、別ものだという考え方なのですが、それは誤りです。
利根川の場合は基本高水流量と河川整備計画の目標流量は密接な関係があります。利根川の河川整備計画は未策定ですが、2006年12月に策定作業が始められたときに利根川の有識者会議に配布された関東地方整備局の資料には、1/50(50年に1回)の洪水流量を目標流量とすると記されています。 基本高水流量は1/200の洪水流量であって、両者は同じ洪水流出計算モデルで算出されているはずです。したがって、両者は連動して動く数字です。
今回の検証で、山の保水力の向上を踏まえた洪水流出計算モデルが新たにつくられて、基本高水流量(1/200)が見直され、22,000m3/秒より小さな流量になれば、河川整備計画の目標流量(1/50)も関東地方整備局が当時考えていた流量(2006年12月の上記の資料から推定すると、15,000m3/秒程度(八斗島))より小さくなることが予想されます。
河川整備計画における八ッ場ダムの削減効果が八斗島で仮に500?/秒であるとすれば、その目標流量が500?/秒下がれば、八ッ場ダムは不要ということになります
以上のように、基本高水流量の科学的な見直しがされれば、治水面で八ッ場ダムが不要という結論が導かれる可能性が高く、これらの点を踏まえて基本高水流量の見直し作業を進めることが必要です。
(2) 八ッ場ダムの治水効果を科学的に計算し、過大評価を行わないこと
八ッ場ダムが建設されれば、利根川の治水問題が一挙に解決されるという誤解があり、6都県知事たちは利根川の治水対策上、八ッ場ダムが必要不可欠なものであるかのような主張をしていますが、八ッ場ダムの実際の治水効果は小さなものです。国交省の計算でも、八斗島の基本高水流量22,000m3/秒に対する八ッ場ダムの削減効果は600?/秒でしかありません。これを水位に直すと、わずか十数cmの低下にすぎません。しかも、国交省の計算では八斗島より下流に行くと、八ッ場ダムの効果が急速に減衰していくことが明らかにされており、上記(1)の問題をさておいても、治水面で八ッ場ダムの代替案をつくることは決してむずかしいことではありません。検証作業においては6都県知事たちの意見に拘泥されることなく、八ッ場ダムの治水効果を科学的に正しく評価することが必要です。
(3) 見かけの残事業費を基本とするコスト重視による代替案との比較評価ではなく、 総合的な観点から比較評価を行うこと
「再評価実施要領細目」ではダム案と代替案との総合評価において、残事業費を基本とするコストを最も重視するとされていますが、これでは、八ッ場ダム事業は建設が進むほど見かけ上の残事業費が小さくなって、ダム案が有利となり、ダム案が自動的に選択される可能性が高くなります。
しかし、八ッ場ダムは今後、事業を続ければ、付替道路等の関連工事の遅れに伴う追加予算や地すべり対策工事費などで事業費が最終的に大幅に増額することが予想され、現事業費の枠内で工事が完了する確証はありません。更に、八ッ場ダムは、3で述べるように地すべり等の災害を誘発する危険性が高く、また、かけがえのない自然を喪失させるなど、様々な弊害をもたらす事業ですから、それらも含めて、代替案との総合評価を行うことが必要です。
3 災害誘発の危険性の科学的な検証
八ッ場ダムができた場合に憂慮される地すべり等の災害誘発の危険性も検証の重要なテーマとして、科学的な検証を行うこと
八ッ場ダムができた場合に最も憂慮されることの一つは、貯水池予定地周辺の各所で地すべりが起きる可能性が高いことです。貯水池予定地周辺は地質が脆弱なところが多いため、ダム湖ができ、貯水位が大きく上下すると、地すべりが誘発されることが心配されます。国交省の調査でも貯水池予定地周辺で地すべりの可能性があるところが22箇所にも及んでいます。その中で、国交省が対策工事を行うのは2箇所だけで、その他のところは調査を実施して問題があればということになっています。その2箇所も簡易な押え盛り土工が行われるだけです。
実際に最近の例を見ても奈良県の大滝ダムや埼玉県の滝沢ダムは、試験湛水後に貯水池周辺で地すべりが次々と発生したため、未だにその対策工事に追われています。八ッ場ダムでも、貯水池周辺の各所で地すべりが誘発される可能性が十分にあります。
また、貯水池予定地の周辺に造成されつつある代替地は無理な造成を行ってきているため、大地震時の崩壊が心配されています。去る11月2日には打越代替地第二期分譲地の安定計算に計算ミスがあって、大地震時に崩壊の危険性があり、補強工事が必要なことを八ッ場ダム工事事務所が発表しましたが、問題はそれだけではありません。盛土内に地下水が存在しないという安全性を無視した現実遊離の計算が行われていることや、ダム湖ができた場合の計算がされていないことなど、代替地の安全性については検証すべき問題が残されています。ダム湖ができた場合に代替地の安全性を確保できるかどうかは、ダム建設の是非を左右する、検証の欠くべからざる項目です。
そして、ダムサイトの岩盤は無数の節理が走り、熱水変質帯が横たわっているため、貯水後に水漏れや岩盤崩壊の危険性があるという指摘もされています。
ところが、「再評価実施要領細目」ではこのような災害誘発の危険性は評価項目に入っていません。八ッ場ダムについては災害誘発の危険性は看過できない重要テーマですので、その危険性について科学的検証を入念に行ってダム建設の是非を判断することが必要です。
以上、八ッ場ダムの検証を進めるに当たり、特に重視しなければならないことを列挙しました。これらのことを踏まえて、八ッ場ダム事業について科学的・客観的で公正な検証を実施することが強く要請いたします。
以上