八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

打越代替地の安全性について公開質問

2011年1月21日
 本日、八ッ場あしたの会では下記の公開質問書を提出しましたのでお知らせします。
 温泉の恵みを糧に生活を営んできた川原湯温泉の住民は、生活を破壊するダム計画に頑強に抵抗しました。国が住民の抵抗を和らげるために計画したのが「現地再建ずり上がり方式」による代替地計画です。これは、ダムに沈む住民の居住地を「ずり上げ」、水没線より上の山を切り崩し、谷を埋め立てて平地を造るという計画です。
 地元が代替地を条件にダム計画を受け入れてから、すでに25年の歳月が経過しています。当初は1990年代に移転が可能になるはずだった代替地は、ダム計画の遅れとともに遅れに遅れ、肝心の川原湯温泉街の代替地はいまだに完成していません。
 この代替地計画は当初から地形を無視した無謀な計画という批判がありましたが、その後、阪神淡路大震災、中越地震などで、盛り土造成地の被害が多発したことから、宅地造成等規制法の調査対象とされることになりました。

 公開質問書全文
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                              2011年1月21日
国土交通省八ッ場ダム工事事務所
所長 佐々木淑充 様

八ッ場あしたの会 代表世話人 野田知佑ほか 

 八ッ場ダムの川原湯地区打越代替地の安全性に関する公開質問書

 昨年12月3日、八ッ場ダム工事務所は川原湯温泉街の移転予定地、打越代替地の補強工事を行うことを発表しました。これは、8月末に群馬県に提出した代替地安全性の検証結果の報告書に計算ミスがあり、計算のやり直しを行ったところ、打越代替地の第二期分譲地は地震時の安全率が1を下回ることになり、急遽、補強工事を行うことになったものです。しかし、打越代替地の安全性には看過できない、更なる重要な問題があり、今回の第二期分譲地の補強工事だけで安全性が確保されるのか、きわめて疑わしいところがあります。
 打越代替地の安全性に関する公開質問書を提出しますので、真摯にお答えくださるよう、お願いします。
ご回答は2月4日(金)までにお願いします。

                          記

1 打越代替地第三期分譲地(温泉街ゾーン)の安全性について

1-1 第二期分譲地より盛土高さが大きい第三期分譲地は安全なのか。
宮崎岳志衆議院議員が国交省から入手した第二期、第三期分譲地の横断図(別紙1ー下の図)をみると、第二期よりも第三期の方が、盛土高さがはるかに大きいことがわかります(最大盛土高さは第二期約18m、第三期が約30m)。一般的にはこの盛土高さが大きいほど、地震時の安定性が低下します。第二期でさえ、国交省の計算による安全率が1程度にとどまっているのですから、第三期の安全率は1を大きく下回ることが十分に予想されます。
第二期分譲地より盛土高さがはるかに大きい第三期分譲地がなぜ、安全といえるのか、その理由を明らかにしてください。

打越代替地第二期分譲地

打越代替地第三期分譲地

1-2 第三期分譲地の勾配の選定理由
 8月提出の報告書を見ると、第三期分譲地は盛土をする前の地盤面の勾配が20度を下回っていて、且つ、盛土内に地下水が存在していないという二つの理由により、宅地造成等規制法施行令の第十九条の外形基準に該当せず、安定計算は不要との判断がされています。しかし、第三期分譲地の横断図をみると、盛土をする前の地盤面は二つの山があって、谷側の山をとると、勾配(一点鎖線)が20度を超え、外形基準に該当することになります。
 一方、国交省は山側の山をとった勾配(破線)を使って、15.4度とし、外形基準に該当しないとしています。谷側の山をとった勾配をなぜ使わなかったのか、その理由を明らかにしてください。

1-3 第三期分譲地の勾配の取り方
 代替地の安全性を十二分に確保することが国交省の責務であることを踏まえれば、第三期分譲地については危険側を想定して、上述の谷側の山をとった勾配で判断し、安定計算を行うべきであると考えられますが、このことについて国交省の見解を示してください。

2 打越代替地第二期分譲地の安全性について(盛土内の地下水の問題)

8月提出の報告書では、打越代替地第二期、三期分譲地は盛土内には地下水は存在しないという前提がおかれています。しかし、第二期、三期分譲地の盛土部分は大きな沢を埋め立てたところですから、雨が降れば、地下水が盛土内に浸入してくることは十分に予想されます。地下水が存在し、その水位が高いほど、浮力が働いて地盤を不安定にする方向に働きますから、地下水の存在の有無は重要な問題です。このことについて以下、質問します。

2-1 山田邦博河川部長の答弁(水抜き管の目視調査)の根拠
国交省による地下水不存在の判断は、代替地法面の水抜き管の目視調査を行ったところ、地下水の浸出がなかったことが理由となっています。このことについて、2009年10月14日の群馬県議会八ッ場ダム対策特別委員会の参考人質疑で、関東地方整備局の山田邦博河川部長が、「大規模盛土造成地の変動予測調査ガイドラインの解説により、・・・・・目視によって水の現況を判断しろということになっておるので、それに基づき確認している」と、答弁しました。 しかし、国土交通省による「大規模盛土造成地の変動予測調査ガイドラインの解説」にはそのような文言は見当たりません。(別紙2参照)
この答弁の根拠を明らかにしてください。

2-2 本格的な地下水調査を行わない理由
上記のガイドラインに書いてあることは地下水の調査をするということであって、ボーリングを行う場合も記述されてあり、目視で済ますというのは論外であると考えられます。代替地について目視ではなく、ボーリングのような本格的な地下水調査をなぜ行わなかったのか、その理由を明らかにください。

2-3 代替地法面の水抜き管の調査日の選定理由
 国交省と群馬県が行った代替地法面の水抜き管の調査は7月7日と9月7日の2回だけです。しかも、この両日は別表(*)に示すとおり、前日まで雨らしい雨が降らなかったので、地下水の浸出がないことも予想される日で、調査日として明らかに不適当でした。なぜ、地下水がしみ出さないような調査日をわざわざ選んだのか、その理由を明らかにしてください。

*別表
https://yamba-net.org/images/genchi/20101104/besshi03.pdf

2-4 地下水有りとした場合の安全率
 打越代替地第二期分譲地において、盛土層内に地下水が有るとした場合と無いとした場合で安全率の計算結果がどの程度変わってくるのか、国交省の今までの経験でおよその数字を示してください。

2-5 第二期分譲地の安全性を地下水無しの安定計算で判断してよいのか
 湯浅欽史・元都立大学教授(土質力学)が打越代替地について設計条件として見込むべき高さの地下水位を設定して安定計算を行ったところ、地下水無しの場合と比べると、安全率が約25%低下するという結果が得られています。12月3日の国交省八ッ場ダム工事事務所の発表によれば、打越代替地第二期分譲地の安全率は補強工事後で1.035です。これは地下水無しとした場合ですから、地下水有りとすれば、安全率は基準の1を大きく下回ります。少なくとも大雨が降った直後に大地震が来ることもありえるのですから、「地下水無し」は現実と遊離した設定ではないでしょうか。地下水無しという安定計算で第二期分譲地の安全性を判断してよいのか、このことについて国交省の見解を明らかにしてください。

3 代替地の安全性確保について

3-1 打越代替地第二期、三期分譲地の安定計算
 造成地の安全性の検証は十分な安全を確保することを前提として行わなければならないことは言うまでもありません。ところが、八ッ場ダムの代替地では、地下水の浸出の有無を目視で判断するというガイドラインの解説にも書いていないことを国交省は行っています。しかも、雨がしばらく降っていない日に目視調査を行っています。そして、第三期分譲地では外形基準に該当しない勾配をわざわざ選んで安定計算を省略しています。このように安全性を二の次にするやり方ではなく、十分な安全性を確保するため、打越代替地第二期、三期分譲地について地下水有りの前提をおいてあらためて安定計算を行う考えはないのでしょうか、このことについて国交省の見解を明らかにしてください。

3-2 代替地全体の安全性の検証
 本質問書では打越代替地第二期、第三期分譲地の安全性について質問しましたが、他の地区の代替地についても安全性への疑問が出されています。国交省は代替地全体の安全性の検証を一から実施し直して、その結果と根拠データを公表する考えはないのでしょうか、このことについて国交省の見解を明らかにしてください。

                             
☆1月25日に追加の公開質問を国交省八ッ場ダム工事事務所に送りました。
追加質問の内容は、こちらに掲載しています。

代替地の安全性について追加の公開質問