2011年7月8日
八ッ場ダム事業の検証作業を行っている国土交通省関東地方整備局が、6月29日に「八ッ場ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場」第6回幹事会を開催しました。
当日の配布資料は、こちらに掲載されています。↓
http://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000176.html
国交省によるダム計画は、机上の計算を根拠としているため、その内容は大変わかりにくいものです。
国交省による公共事業は、道路事業では長期的目標を「基本方針」で示し、より短期的な具体的目標を「整備計画」としており、これはダム行政でも同じです。国交省関東地方整備局による八ッ場ダムの「検討の場」では、「基本高水」、「計画高水流量」など、ふだんの生活では使われない用語が頻繁に出てきますので、よほどダム行政に詳しい人でなければ内容を理解できないと言われています。そのことがダム行政を国民から遠ざけてきた一因でもあります。
八ッ場ダム「検討の場」に参加している関係都県の担当者は、ダム推進の各都県行政の声を代弁し、ただただ「ダムの早期完成」を叫ぶばかりで、いくら税金を投入してもいつになっても完成せず、役に立たない八ッ場ダムの問題を議論する気配がありません。
これでは国民は、国交省と関係都県の茶番劇を見せられているようなものです。先頃、玄海原発再開に絡んで「やらせメール」が発覚し、大きな問題となっていますが、「やらせ」は原発だけではありません。
八ッ場ダムの検証がいかなるものであるかを理解するためには、面倒でも少なくとも議論の大筋を把握する必要があります。最低限必要な用語解説をジャーナリストのまさのあつこさんがブログでして下さっていますので、ご紹介します。
治水計画に出てくる言葉(1)
http://dam-diary2.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-fdf6.html
治水計画に出てくる言葉(2)
http://dam-diary2.cocolog-nifty.com/blog/2011/06/post-6279.html
また、この日の議論の中身について、嶋津暉之さん(元東京都環境科学研究所職員・八ッ場あしたの会運営委員)がコメントを公表していますので、以下に転載します。まさのさんのブログと合わせてお読みいただければと思います。↓
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今日の会議では、基本高水流量に関する日本学術会議の回答案の説明が行われ、八ッ場ダムの治水面の検証の前提となる河川整備計画レベルの目標流量が示されました。
河川整備計画レベルの目標流量は17000?/秒(八斗島)という数字が示されました。目標流量の話はわかりづらいのですが、この数字の意味を少し述べておきます。
日本学術会議が妥当と判断した基本高水流量の数字(実際は全く妥当ではありませんが)は、昭和22年カスリーン台風洪水の再来流量が21100?/秒、200年に1回の流量が22200?/秒ですから、それより4000~5000?/秒小さい数字です。
17000?/秒の根拠として示されたのは戦後最大流量の実績値(カスリーン台風洪水の氾濫を含まない数字)でした。これはおよそ70~80年に1回に相当する流量という話でした。
しかし、利根川河川整備計画案を検討する有識者会議(検討作業は2006年12月からはじまり、その後中断された)で示された関東地方整備局の案よりかなり大きな数字です。
当時の国交省関東地方整備局案では、整備計画の目標流量は50年に1回の洪水流量が設定され、ダム等による洪水調節後の洪水ピーク流量は13000m3/秒でした(河道対応流量)。
下記資料の10ページ↓
http://www.ktr.mlit.go.jp/tonejo/seibi/yushikisyakaigi/vol1_shiryou/shiryou1.pdfの
ダム等による洪水調節量が何m3/秒になっていたかは不明ですが、当時の関東地方整備局案では、利根川上流の既設ダム群、八ッ場ダム、下久保ダムの治水容量増強、烏川の河道内調節地による洪水調節が考えられていました。
利根川上流の既設ダム群と八ッ場ダムは、基本高水流量22000?/秒に対する削減効果がそれぞれ1000?/秒、600?/秒とされていますので、下久保ダムの治水容量増強、烏川の河道内調節地を合わせても削減効果は2000m3/秒程度で、当時の関東地方整備局案による河川整備計画の目標流量は15000?/秒程度であったと推定されます。
下記資料の4ページ↓
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000009442.pdf
したがって、今回の数字はこれを2000?/秒程度引き上げたものになります。
17000?/秒と河道対応流量13000?/秒の差、4000?/秒をどのように埋める河川整備計画にするのかわかりませんが、この引き上げは八ッ場ダムが治水面で必要だということは言いやすくするためのものであると考えられます。
八ッ場ダムの検証は「予断なき検証」と言いながら、関東地方整備局は実際には利水面でも治水面でも八ッ場ダムが最適案になる、形だけの検証作業を進めつつあります。
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関連記事を転載します。
◆2011年6月30日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581106300001
-「八ツ場」完成で流量1万7千トン-
八ツ場ダム(長野原町)の必要性を検証する「検討の場」の幹事会が29日、さいたま市内であり、関係する群馬など6都県の担当幹部が集まった。利根川水系の治水面から検討した。
検証主体の国土交通省関東地方整備局は、今後20~30年間、八ツ場ダムや堤防強化など実施中の事業を予定通り進めた場合として、流量の目標を毎秒1万7千トンとすると初めて示した。
だが、整備局が個別事業の内訳や八ツ場ダムの治水効果については次回幹事会で示すとしたことから、6都県は一斉に反発。群馬県は「秋までに検証結果を出すというスケジュールなのに、こうした状況でいいのか」と指摘した。
利根川水系をめぐっては、洪水時の最大流量を指す「基本高水」について、国交省が毎秒2万1100トンと再計算し、検証を依頼された日本学術会議分科会も今月、「妥当」とした。だが、整備局は「本来は、この規模を目標とすべきだが、現在の整備状況では達成は不可能」として、毎秒1万7千トンとの目標流量を示したとしている。
◆2011年6月30日 毎日新聞群馬版
http://mainichi.jp/area/gunma/news/20110630ddlk10010285000c.html
-八ッ場ダム・流転の行方:整備目標流量を改善 検討の場で整備局が説明 /群馬-
◇今後20~30年
八ッ場ダム問題を巡り、国土交通省関東地方整備局と関係1都5県の担当部長らを交えた「検討の場」の第6回幹事会が29日、さいたま市内で開かれた。同整備局は、利根川の治水対策の整備に当たり、今後20~30年で目標とする流量(伊勢崎市の八斗島地点)について、現在対応可能な毎秒1万4000立方メートルから同1万7000立方メートルに改善すると説明した。
利根川の基本高水(最大流量)を巡っては、同整備局が同2万1100立方メートルとする再試算をまとめたが、現状と大きくかけ離れているため、1947年のカスリーン台風時の洪水で流れたと推定される同1万7000立方メートルを当面の暫定的な目標にするという。【奥山はるな】