2011年9月26日
先ごろの台風による記録的な豪雨は、紀伊半島をはじめ全国に甚大な被害をもたらしました。テレビや新聞では被害の状況が伝えられましたが、洪水被害を防ぐ目的で造られてきたダムは役に立ったのか、河川行政はこのままでいいのか、という問題にはまだ殆ど触れられていません。
我が国には3000基近くのダムが既にあり、そのうち治水を目的としたダムは900基を超えています。八ッ場ダムは治水と利水を目的としたダムです。民主党は政権交代当初、八ッ場ダムをはじめとする「全国のダム事業の見直し」を政策方針として掲げましたが、これまでのダム建設が本当に治水の役に立っているのか、近年の集中豪雨にダムは役に立つのか、という問題にはいまだに踏み込めずにいます。
3月11日の東日本大震災以降、小出裕章さん(京大原子炉京大原子炉実験所助教)のレギュラー出演で有名になったMBS放送のラジオ番組、「たね蒔きジャーナル」がこの問題を正面から取り上げました。
出演は国交省のキャリア官僚(元国土交通省防災課長)だった宮本博司さんです。宮本さんは改革派官僚として河川行政の民主化を目指し、淀川流域委員会委員長を務めた方です。
番組の録音がユーチューブでアップされていますので、宮本博司さんのお話を直接聴くことができます。
(二部に分かれています。)
20110919 [1/2]たね蒔きジャーナル「記録的豪雨にダムは機能したか?」
20110919 [2/2]たね蒔きジャーナル「記録的豪雨にダムは機能したか?」
大まかなお話の内容を以下にまとめてみました。
・ダムは「人命、財産」を守るために造られたが、今回の洪水ではほとんど機能しなかった。想定外の洪水に対して、ダムは無力。ダム放流によってかえって被害が起きてしまった。
・ダムの効果は、これまで大変大きいように伝えられてきたが、実ははるかに小さいストライクゾーンしかない。
・治水目的の第一は、住民の命を守ること。今回の被害は、避難対策、土砂災害対策、「利水」ダムの放流についてのルール作りができていなかったことなどによるのではないか。ダムや堤防建設で下流域の住民は安心だと思ってきたが、本当にこれまでの治水対策でよかったのかを徹底的に議論するべき時。実際の水害被害をつぶさに検証し、具体的な対策を考える必要があるのではないか。
・政権交代後、民主党政権が「八ッ場ダム事業の中止」を掲げたことは、全国のダム事業、公共事業の見直しにつながる大変大きなことで、いわば宣戦布告のような意味を持っていた。
・その後、この方針がいつの間にかうやむやになり、二年を経過して、八ッ場ダムが最も効果的だとの検証結果が公表されたが、民主党政権は覚悟を持って、ある程度摩擦があろうと、今までやってきた河川行政でよかったのかを見直すべきだった。それができていないことは本当に残念だ。
・八ッ場ダムの検証は、八ッ場ダム事業を進めてきた国交省関東地方整備局によって行われてきた。今までの公共事業は、造る方の人(国交省や都道府県)の論理で造られてきた。造る方の人がいくら検証しても、結果は造る方の論理になってしまう。
・ダム事業の検証をするのであれば、住民の命、生活の視点から見直すべき。公共事業は国民の税金によって進められているので、国民に説明できないような事業はやはり一旦止める勇気をもたなければ、ずっと同じ繰り返しになる。
・組織が一度、ダムを造ると決めると、ダム建設の目的は本来何だったのか、という意識が薄れてきて、組織として動いていくようになってしまう。