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今本博健氏による白川調査(熊本県・立野ダムとの関係)

2012年7月29日

 ダム建設に偏重した河川行政に警鐘を鳴らしている今本博健氏(京都大学名誉教授)がこのほど、熊本県の白川を調査した結果をお送りくださいました。現場の写真や図表、わかりやすい解説を組み合わせた報告で、頻発する水害とダム問題との関係を考える上で大変参考になりますので、データを掲載します。
 以下の画像をクリックするとダウンロードできます。

     
「白川水害調査 -無堤部の放置は立野ダム建設のためなのかー」 今本博健

 今本先生による白川調査は、熊本県の立野ダム計画に反対する市民団体の招聘によるものです。

 http://stopdam.aso3.org/?p=55
 立野ダムによらない自然と生活を守る会

 7月の集中豪雨により、九州各地で水害が発生し、自民党などから「ダム建設必要論」が声高に叫ばれています。立野ダムの建設が予定されている熊本県の白川流域でも水害が発生しました。

 市民団体からは、水害発生直後に現地調査の結果を伝える緊急レポートが公表されましたが、今回の調査報告は、河川工学の視点から水害防止=ダム建設に直結しえないことを科学的に裏づけるものです。

 以下に上記データの本文の一部を転載します。

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 水害3日後の7月15日、「立野ダムによらない自然と生活を守る会」の中島康さんと緒方紀郎さんの案内で、主な越水地点を見ながら立野ダム建設予定地を見てきた。昨年12月に続く2度目の白川調査である。

 驚かされたのは、「予想したことが予想通りになったのに大きな怒りの声が上がらない」ことである。堤防の一部が低ければそこから溢れるのは誰もが知っている。そしてその通り溢れた。幸い溢れた量が少なかったので大惨事にはならなかった。もし洪水がもう少し大きければ熊本市の中心部は広範囲に浸水したであろう。それなのに手当していなかったことを非難する人はほとんどいない。

 なぜなのだろう。
 代継橋での年最大流量は、図1のように、昭和28年洪水のあとは2000m3/sを超える大洪水は発生していなかった。今回の洪水を契機に変更されるであろうが、河川整備計画の目標洪水も2000m3/sとされており、それを超えることは滅多にないと安心していたのだろうか。

 白川堤防はほとんどが未完成であるが、多くは堤高が少し低い程度である。そのところどころに「無堤部」ともいえる上下流に比べて極端に堤高の低い区間がある。しかも氾濫すれば市街地が水没する右岸側にである。市街地がまるで遊水池扱いされている。
 今回の洪水でも当然そこから氾濫した。無堤部の危険性は市民グループが早くから指摘しており、河川管理者である国交省も認識していたはずだ。それなのに放置していた。もしそれが立野ダムの建設に市民の賛成を得るためだとしたら、それは市民を人質にする「禁じ手」であり、決して許されるものではない。

 無堤部を放置してきた国交省、それを見逃してきた熊本県・市の責任は重大である。人質にされている市民は、そのことを知って、もっと怒らねばならない。
 堤防の整備に経費と時間がかかるのは確かである。だが、出水の度に土のうを積んでいるのだから、それを撤去せずにそのまま残しておけば少なくとも氾濫の多くは防げる。これだと経費と時間がかかるとの逃げ口上は使えない。ただし、それはあくまで取りあえずの応急的な対策であり、本格的な対策を遅らせる口実にしてはならない。

 危険地が宅地化されているのにも驚かされた。刑務所の塀のように屹立したコンクリート堤防に囲まれた地区が越水氾濫で1階の天井近くまで浸水している。わん曲部の内岸側に位置していることに安心していたとしたら、それは間違いだ。流量が多ければ当然氾濫する。それに極端なわん曲部が4つ連続しているため水面が左右に揺れ、わん曲入口では内岸側の水位が高くなるので、内岸側だからといって安心できない。幸いコンクリートの堤防は壊れなかったが、壊れるときは一気に壊れるので、あまりに高い堤防は好ましくない。
 それにしても、もともと洪水が氾濫しそうなところで、コンクリ―堤防で囲んだとはいえ、なぜこのように大規模な開発をしたのだろう。為政者には許可した責任があり、「まちづくりは川づくりと一体となって進める必要がある」ことを学ばねばならない。

 恐らく河川管理者は今回の洪水を利用して立野ダムの必要性を声高に主張するに違いない。だが市民は、鵜呑みにせず、冷静に対応してほしい。立野ダムはあまり役に立たないことを示そう。 (以下略)