八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダムの関係都県

2012年10月25日

 本日、国交省が八ッ場ダムの関係都県(利根川流域一都五県)を集めて合同会議を開きます。利根川の河川整備計画を策定するに当たり、関係都県の意見を聴くという名目です。
 利根川の河川整備計画は、八ッ場ダム計画を位置づける目的で国交省が策定作業を急いでいるもので、今日の会議も関係都県が国交省の提案を後押しすることを前提として開催されます。

 関係都県では、平成20年、八ッ場ダム事業の基本計画の三度目の変更に当たり、「都県合同による八ッ場ダム現地調査報告書」(平成20年1月10日)をまとめています。

 報告書の最後には、以下の調査結果が記されています。

「八ッ場ダム建設事業の工期が、平成27年度になること及び工期が5ヵ年間伸びても総事業費4,600億円は、変わらないことについて確認した」

 けれども、昨年、国交省は八ッ場ダム事業の検証結果の中で、工期4年延長、事業費182.8億円増額という試算結果を明らかにしました。
 https://yamba-net.org/wp/modules/page/index.php?content_id=17

 関係都県はこの試算結果に反発し、現在の基本計画通りの工期、事業費で八ッ場ダムを完成させるよう要求しています。
 しかし、関係都県の要求が通る可能性はありません。関係都県もそのことを承知している筈です。

 平成20年の関係都県による「現地調査報告」を見ると、関連事業の遅延箇所について、関係都県が独自の調査を行わず、単に国交省の説明を聞き、それを反復しているだけであることがわかります。
 たとえば事業全体の進捗状況に大きく影響するクリティカルパスとして報告書で取り上げられている川原湯「上湯原地区」については、次のように報告されています。

【調査内容】
 ・上湯原(新川原湯温泉駅ができる地区)では代替地が縮小され、代替地造成計画の見直し及びJRと代替地との境界擁壁及び流路工について設計変更せざるを得ず、擁壁工の調査設計施工に2か年かかり、新駅及び路盤部の工事が平成20年度着工、22年度完成となる予定である。

 ・JR新駅の建設により地域が分断されることとなる。地元から新駅の両側の土地の高低差を極力抑えるように要望されたことや代替地の縮小計画もあり、駅前広場の高さを変更して擁壁の設計変更をしなければならなくなった。

【調査結果】
 移転住民の意向を受けて行われた代替地の区画割り、生活道路などの調整に時間を要していること、擁壁の設計変更などに時間を要したことについて確認した。

~~~転載終わり~~~

 現地調査は八ッ場ダムの関連事業の遅れの原因を突き止め、今後の事業の展望を確認するために行われた筈ですが、上記は原因究明とは程遠いものです。
 実際、平成22年度完成予定の川原湯温泉の新駅は、平成24年現在も姿を見せていません。昨日の上毛新聞の報道によれば、新駅は今月着工、平成26年2月頃の完成を予定しているということですが、駅舎が完成しても、駅前整備事業は用地取得の難航により後回しとなっており、駅の開業予定年度は公表されていません。ダムサイト予定地の吾妻渓谷を走っているJR吾妻線の付け替えの遅れは、ダム本体工事に大きく影響します。

 報告書の記述は、「地元から要望された」、「移転住民の意向を受けて」など、事業遅延の原因を地元住民のせいにしているものが多いのですが、地質のもろい山の斜面につくる駅は、地元からの要望がなくとも高低差を抑えて平坦な面をつくるための工事が必要ですし、新駅予定地周辺への「移転住民」はいません。
 こうした事実誤認は報告書の随所に見られます。「現地調査」というにはあまりにもお粗末な内容と言わざるをえず、都県住民の税金を投入し続けている関係都県の責任が問われます。

 八ッ場ダムの予定地は、人口の多い交通の要衝です。国のダム計画に反対する人々が生活再建のために、水没予定地の生活の場を再現するよう要求するのは当然のことでした。しかし、ダム予定地はV字谷の渓谷にあり、水没予定地より標高の高い位置に鉄道、道路を付け替え、住民の移転代替地を用意するという「現地再建ずり上がり方式」はもともと無理がありました。無理な計画を実現させるための関連事業が遅れるのは、当然のことです。
 民主党政権は八ッ場ダム事業の予算の9割以上を費やす関連事業の闇に切り込むことができませんでした。国交省は地元住民をだまし、利根川流域住民をだまし、国民をだまし続けています。愚かな国策に従い続ける関係都県は、いつになったら現実を見る気になるのでしょう。

 川原湯温泉の新駅と周辺整備事業については、こちらで解説しています。
 https://yamba-net.org/wp/modules/news/index.php?page=article&storyid=1756