ウナギは成長のために川を遡上すると、一度定着した狭い範囲に長くとどまる傾向が強いことが、超音波発信器を埋め込んだウナギを放流して追跡する研究で明らかになりました。
関連記事と、調査手法についての東京大学大気海洋研究所の説明文を転載します。
◆2018年2月7日 共同通信
https://this.kiji.is/333880282581746785
ーウナギの寝床は「狭かった」 1カ所に定着する傾向、行動解明ー
絶滅が心配されるニホンウナギはグアム島近くの太平洋の産卵場所から2千キロ以上を回遊してきた後、成長のために川を遡上すると、一度定着した狭い範囲に長くとどまる傾向が強いことを神戸大や東京大の研究グループが突き止めた。親ウナギに超音波発信器を着ける新手法で調べ、淡水魚の生態に関する専門雑誌に7日までに発表した。
保全に向けた対策を考える上での貴重なデータ。ニホンウナギは川で成長し、10年前後で産卵のため再び海へ下るが、一生の大半を過ごす川での行動パターンなどはほとんど分かっていなかった。
グループは2012~13年に、茨城・千葉県境の利根川で調べた。
◆2018年2月7日 産経新聞
http://www.sankei.com/west/news/180207/wst1802070066-n1.html
ーウナギの寝床「狭かった」 川を遡上、1カ所に定着傾向 神戸大などのグループー
絶滅が心配されるニホンウナギはグアム島近くの太平洋の産卵場所から2千キロ以上を回遊してきた後、成長のために川を遡上すると、一度定着した狭い範囲に長くとどまる傾向が強いことを神戸大や東京大の研究グループが突き止めた。親ウナギに超音波発信器を着ける新手法で調べ、淡水魚の生態に関する専門雑誌に7日までに発表した。
保全に向けた対策を考える上での貴重なデータ。ニホンウナギは川で成長し、10年前後で産卵のため再び海へ下るが、一生の大半を過ごす川での行動パターンなどはほとんど分かっていなかった。
グループは2012~13年に茨城・千葉県境の利根川で、腹部に超音波発信器を埋め込んだウナギを放流、河川に受信機を置いて追跡する手法で行動パターンや範囲などを調べた。捕まえたウナギを離れた場所に運んで放流する実験も行った。
詳しい解析が可能だった18匹は、平均で長さ744メートル、最も小さいものは同112メートルの範囲を行動圏にしており、狭い場所に定着していることが分かった。
捕獲場所から約600~900メートル離れた位置で放流した9匹のウナギのうち8匹は、3時間から13日で元の場所に戻り、再び、その周辺で過ごしていた。
グループの神戸大の板倉光研究員は「ウナギを守るためには、ウナギや餌になる生物の隠れ家となる岸辺や川底をコンクリートで固めることなどを避け、定着しやすい環境を長期間維持することが重要だ」と話している。
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◆東京大学大気海洋研究所
「ニホンウナギの産卵回遊および河川生活期における生態」
http://mbe.aori.u-tokyo.ac.jp/research/3004.html
成長期の資源と生態
ニホンウナギの資源量は近年激減しており(図1),資源の保全が急務となっています.本種資源が減少した要因として,乱獲や生息域の環境変化, 海洋環境変動などが指摘されています.では,私たちはどのようにしてこの資源を守っていけばよいのでしょうか?
海洋生活期を終えたニホンウナギは,成長期にあたる黄ウナギとして(写真1),約5年から10数年を私たちが生活する沿岸域の成育場で過ごします.これは,ニホンウナギが人間活動の影響を強く受ける沿岸域で長い間生活していることを意味します.つまり,海と河川を行き来する彼らの生活史の中で,人間が直接管理することができるのは沿岸域だけなので,沿岸域における黄ウナギの資源や生態,それらに対する人間活動の影響を明らかにすることは資源管理を行う上でとても重要となってきます.しかしながら,これまでの研究は外洋の初期生活史に注目したものが多く,黄ウナギに関する知見が不足しているのが現状です.
そこで,私たちの研究室では,河川・湖沼におけるニホンウナギ漁獲量の統計解析や野外調査など他種多様なアプローチによって黄ウナギの資源や生態を明らかにすることを目的に研究を進めています.得られた結果から,本種の適切な資源保全策について提言することを目指しています.また,ニホンウナギは,沿岸生態系における食物連鎖で高次捕食者に位置しているため,本種資源を保全することは,ニホンウナギ資源の回復に繋がるだけでなく,沿岸生態系全体を豊かにすることに繋がるものと考えています.
日本全国の様々な機関から収集した河川・湖沼におけるニホンウナギの黄ウナギ(未成魚)と銀ウナギ(成魚)の漁獲量データに基づき,護岸による河川湖沼の改修工事に着目して解析した結果,護岸工事が進行している河川・湖沼ほど漁獲量の減少が著しいことが明らかになり,護岸による環境改変が沿岸域のニホンウナギ資源に悪影響を与えている可能性が示唆されました.治水という意味で大きな役割を果たしている護岸工事が,ニホンウナギにとってはその生息を脅かす存在であったという訳です.
では,護岸による改修工事はどのようにしてニホンウナギに悪影響を与えているのでしょうか?この問いに答えるためには,実際のフィールドにおける黄ウナギの生息状況を明らかにする必要があります.そこで私たちの研究室では,2011年より関東を流れる利根川水系をモデル水系とし,水系内の護岸工事が施されている水域と自然状態の河岸を維持している水域(非護岸)において黄ウナギを採集し,得られた個体の生物学的な特徴を調べることで,環境改変が黄ウナギの生息に与える影響について調べています(写真2).具体的には,護岸と非護岸水域における分布,移動生態,成長,食性および餌環境について,主に野外での分布調査,耳石の輪紋解析および微量元素分析,胃内容物調査,炭素窒素安定同位体比分析,超音波バイオテレメトリー手法(写真3),標識再捕法を用いて調べています.さらに私たちの研究室では,河川内の水深,水温,流速などの物理環境を測定し,それらと黄ウナギの分布との関係についても探っています(写真4).