先月の西日本豪雨による水害に関する報道が続いています。以下に転載するのは、毎日新聞が水害と気候変動の問題について取り上げた記事です。
国交省による非公開、お手盛りのダム検証を批判して、2011年に「ダム検証のあり方を問う科学者の会」を立ち上げ、河川行政の抜本的な見直しを求めてきた今本博健先生の談話が次のように紹介されています。
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京都大の今本博健名誉教授(河川工学)は「避難というソフト対策は当然すべきだが、本来は自治体の仕事。国交省はダムの時代は終わってきたという自覚はあるが、対策を探しあぐねているのだろう」と話し、国に批判的な有識者も交えて施設整備のあり方を根本から議論することを求める。
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◆2018年8月1日
https://news.infoseek.co.jp/article/mainichi_20180802k0000m040118000c/
ー西日本豪雨:気候変動、常識外のリスクー
倒木を巻き込んで流れていく土砂をトンネル内の監視カメラが捉えていた。7月6日午後8時ごろ、山陽自動車道志和トンネル(東広島市、約2キロ)脇の斜面が崩れ、土石流が流れ込んだ。既に通行止めにしていたため人的被害はなかったが、西日本高速道路の担当者は「こんなことが起こるのか」と絶句した。24時間態勢で運び出した流入土砂は2800立方メートルに及び、8日後の14日にようやく復旧した。
広島大の土田孝教授(地盤工学)は、同じように土石流が道路に流れ込んだ現場を東広島市や広島市安芸区などで確認した。広島県坂町では砂防ダムが土石流で決壊した。「気候の変化で激しい降雨の頻度が増し、従来の砂防で対応し切れていないのでは。土砂を発生させる私有地の山林を公的に管理する制度が必要だ」と警鐘を鳴らす。
気象庁が7月に公表した最新の報告書では、1時間に80ミリ以上の猛烈な雨を記録した回数は、1976年からの10年間と比べ、2017年までの10年間は約1.6倍。気象庁の異常気象分析検討会長を務める中村尚・東京大教授は「昔なら今回のような気圧配置でも、ここまで雨は増えなかっただろう。背景にあるのは温暖化だ。これまでにないような豪雨の可能性は確実に高まっている」と言う。
ハード防災限界 ソフト対策重要に
近年頻発する豪雨災害を受けて、国は施設面(ハード)の対策として2000億円かけて全国約1800キロの堤防を強化しており、中小河川対策で土砂の除去や水位計の設置に3700億円を投入する緊急治水事業を実施中だ。
2013年の台風18号では京都市内で桂川が氾濫し、観光名所の嵐山で旅館など93棟が浸水した。今回は上流の日吉ダム(京都府南丹市)が満水に近付き、7月6日午後4時前から過去最多となる毎秒900トンの放水を2時間以上続けたが氾濫しなかった。国土交通省は14年度から5年かけて河床を下げる総額170億円の事業を実施し、嵐山地区の水位は50センチ下がったとみる。右岸の中州で喫茶店を営む吉田憲司さん(64)は「今までなら川があふれた可能性が高い」と効果を実感する。
一方で国交省は「施設だけでは防ぎきれない大洪水は必ず発生する」という考え方を打ち出し、17年の水防法改正で自治体や気象台、河川管理者で災害対応を話し合う「大規模氾濫減災協議会」の設置を義務付けた。高齢者施設や保育園などには避難計画に基づく訓練の実施を求める。
こうした動きに京都大の今本博健名誉教授(河川工学)は「避難というソフト対策は当然すべきだが、本来は自治体の仕事。国交省はダムの時代は終わってきたという自覚はあるが、対策を探しあぐねているのだろう」と話し、国に批判的な有識者も交えて施設整備のあり方を根本から議論することを求める。
経験したことのない広域災害となった西日本豪雨を受け、これまでの常識にとらわれない対策が必要となる。九州大の小松利光名誉教授(河川工学)は「施設整備で災害を防ぐ考えから離れ、避難で命を守るソフト対策に力を入れた上で、公共工事の予算を削ってでも被災者支援を手厚くしてほしい。車の自賠責保険のように強制性のある公的な災害保険を検討するべきだ」と提案し、災害が起きることを前提にして、生活再建のための予算を国があらかじめ組んでおく必要性を主張する。