昨日12月4日、参議院厚生労働委員会において、水道民営化への道を開く水道法改正案が野党の反対を押し切って可決され、本日、本会議でも可決されました。週内にも法案は成立する見通しと報じられています。
この法案は、人口減少時代において水道事業を持続可能にすることを目的としているとされますが、海外の民営化の失敗事例を踏まえ、政府は十周遅れのトップランナーを目指しているなどと揶揄される事態となっています。
水道法改正案が抱える問題に危機感を抱いてきた人々は、ヨーロッパの状況を多くの人々に知ってもらおうと、ギリシャ発のドキュメンタリー映画「最後の一滴まで―ヨーロッパの隠された水戦争」の日本語版を製作し、このほどDVDが完成しました。
★NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)サイトより
「ドキュメンタリー映画
最後の一滴まで―ヨーロッパの隠された水戦争」
今週日曜日には、翻訳資金の支援者を対象とした試写会が東京・水道橋の全水道会館で開催され、翻訳企画に携わった人々をパネリストとしたシンポジウムも行われました。
この映画では、フランス・パリ市、ドイツ・ベルリン市のほか、ポルトガル、ギリシャ、アイルランドなどヨーロッパ各地でどのような問題が起きてきたかを伝えています。アヴゲロプロス監督は、民営化反対・推進、双方の立場の様々な人々へインタビューすることで、トロイカ(欧州委員会、欧州中央銀行、国際通貨基金)が財政再建計画として各国に民営化を要求している構造的な問題を浮かび上がらせています。
PARCでは上映会の開催を広く呼びかけています。
http://www.parc-jp.org/video/uptothelastdrop_screening.html
PARC共同代表の内田聖子さんが水道法改正案の問題点を詳しく解説した記事が以下のページに公開されました。ぜひお読みください。
◆2018年12月5日 ハーバービジネスオンライン
https://hbol.jp/180396
-水道事業に民間参入を促そうしているのは誰なのか。内閣府PFI推進室を巡る利権の構造ー
上記記事の見出しは以下の通りです。
岐路に立つ日本の水道事業
誤解の多い水道民営化とコンセッション、民間委託の違い
水道法改正審議の中で出てきたヴェオリア社と内閣府PFI推進室の関係
ヴェオリア社とPFI/PPP推進室のさらなる関係?
変わる日本のロビイング
PFI推進委員が所属するコンサル企業が、税金を使った「PFI導入調査」を受注
PFI法が推進する「コンセッション契約」
英国では「PFIは失敗」と断定
◆2018年12月4日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASLD451MBLD4ULBJ00S.html
ー水道法改正案、参院委で可決 民営化への懸念やまずー
水道事業を「民営化」しやすくする水道法改正案が4日、参院厚生労働委員会で与党などの賛成多数で可決され、週内にも成立する見通しとなった。この日の質疑でも民営化への懸念に質問が集中し、海外で近年相次ぐ失敗例についての厚生労働省の調査は、5年前に実施した3件しかないことが判明。利益相反の疑いも浮上した。
冒頭の質疑で立憲民主党の石橋通宏氏は「驚くべき事態が発生した」と、水道事業を公営に戻した海外の事例を厚労省が3件しか調べていない点を指摘。「再調査して厚労省として責任ある形でやり直すべきだ」と求めた。
争点の民営化の手法は、「コンセッション方式」と呼ばれ、自治体が施設や設備の所有権を持ったまま運営権を長期間、民間に売却できる制度。改正案では、導入を促すため、自治体が水道事業の認可を手放さずに導入できるようにする。
海外では水道の民営化が広がる一方、水道料金の高騰や水質が悪化する問題が相次ぎ、近年は公営に戻す動きが加速している。英国の調査団体がまとめた世界の水道民営化に関する報告書によると、2000~15年3月で、パリなど37カ国の235水道事業が民営化後に再公営化された。05~09年は55事業だが、10~15年は104事業に増えている。
1999年に民営化したベルリンは、住民投票の末、13年に再公営化した。事業会社から運営権を買い戻すため約12・5億ユーロ(1600億円)かかった。ボリビアでは水道料金が高騰し、暴動が発生したケースもあるという。その一方で厚労省が調べた海外の再公営化事例は3件。厚労省が策定した「新水道ビジョン」に関するもので、法改正のためではなかったという。
石橋氏は「なぜ失敗したのか、なぜ再公営化があったのか。個別具体的に全体の傾向も含めて調査をして当たり前だ」と指摘。根本匠厚労相は「失敗した事例をしっかり分析し、水道法を改正して公の関与を強化する今回の仕組みにしている」と強調。「大事なのはその事案に共通する問題点、課題。本質の問題は何か。それを踏まえて制度を作っている」と数の多さの問題ではないとの認識を示した。
これまでの審議では、水道などの公共部門の民営化を推進する内閣府民間資金等活用事業推進室で水道サービス大手、仏ヴェオリア社日本法人の出向社員が働いていることも発覚した。
社民党の福島瑞穂氏は「すさまじい利益相反。企業のために役所は働いているのか」と批判。内閣府によると、昨年4月に政策調査員として公募で採用し、海外の民間資金の活用例調査をしているという。この日の審議では、6月の参院内閣委員会で、コンセッションの推進策を盛り込んだPFI法改正案の審議にこの職員が同席していたことも明らかになった。(姫野直行、黒田壮吉、阿部彰芳)
◆2018年12月5日 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASLD4750JLD4ULBJ01H.html
ー水道法改正案、参院を通過 自公は本会議で賛成討論せずー
水道事業を「民営化」しやすくする水道法改正案が5日午前、参院本会議で与党などの賛成多数で可決された。水道の民営化は海外で失敗例が多く、野党側は民営化部分の削除を求めてきたが、週内にも衆院での採決を経て成立する見通し。
改正案は、経営悪化が懸念される水道事業の基盤強化が主な目的。水道を運営する自治体などに適切な資産管理を求め、事業を効率化するために広域連携を進める。さらに、コンセッション方式と呼ばれる民営化の手法を自治体が導入しやすくする。
コンセッション方式は、自治体が公共施設や設備の所有権を持ったまま運営権を長期間、民間に売却できる制度。水道では導入事例はまだない。自治体が給水の最終責任を負う事業認可を持ったまま導入できるようにし、導入を促す狙いがある。
ただ、先行する海外では水道料金の高騰や水質悪化などのトラブルが相次いでいるため、改正案では、国などが事業計画を審査する許可制とし、自治体の監視体制や料金設定も国などがチェックする仕組みにする。
この日の参院本会議では立憲民主、国民民主、共産の各党が反対の立場で討論した。立憲民主党の川田龍平氏は「海千山千の外国企業を相手に、難解な言葉で書かれた契約書の中身を果たして地方議会がチェックできるのか」と指摘。「政府は、厚生労働省が事前に審査すれば大丈夫の一点張りで、水質維持と安定供給という本来の公共性をどう担保させるかという対策はまったくない」
日本維新の会の東徹氏は賛成討論で「導入後も安全で安心な水の供給が地方公共団体の責任で行われ、住民の不安を解消するもの」と改正案を評価。一方、与党の自民、公明党は賛成討論をしなかったことから「本来であるならば自民党、公明党こそ賛成討論をしっかりとやってほしいところ。維新以外の野党に言われっぱなしでは残念でならない」と不満も述べた。(阿部彰芳)
◆2018年12月5日 東京新聞夕刊 政治面
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201812/CK2018120502000265.html
ー水道事業 民間任せ、世界に逆行 「コスト削減」災害対応に懸念ー
自治体が水道事業の運営権を民間に委託する「コンセッション方式」の導入を促進する水道法改正案が成立する見通しとなった。「民営化」への道が広がり、自治体は認可を受けたまま重荷の事業を企業に託すことができるようになるが、住民側に立つと、料金高騰や災害時の対応への不安がつきまとう。海外では再び公営に戻すケースも相次いでいる。
▽運営権
「柔軟な発想や意思決定のスピード感が民間ならではの強み」。こう話すのは、四月に全国で初めてコンセッション方式で下水道処理施設の運営権を委託された「浜松ウォーターシンフォニー(WS)」の最高執行責任者(COO)佐藤丈弘さん(46)だ。
施設は人口約八十万人の浜松市で排出される下水の約半分を処理できる。WS社は、汚泥の臭いを感知し消臭剤の投入量を調節できる機器を投入したほか、電力会社などと複数年契約を結ぶことで、公営ではできなかったコスト削減を進める。
二十年間の運営権を得た見返りに総額二十五億円を浜松市に支払うことになるが、初年度は十八億円の売り上げと六千六百万円の営業利益を見込む。
▽疑問
厚生労働省によると、浜松市を含む六自治体が上水道へのコンセッション方式の導入を検討中だ。
二十五市町村に水を供給している宮城県もその一つ。水道事業に限らず空港運営をコンセッション方式で委託された複数企業への聞き取り調査から、二十年間で三百三十五億~五百四十六億円の経費削減を見込む。
ただ、災害復旧の最終的な責任は自治体が負う。全国の水道職員らでつくる全日本水道労働組合の辻谷貴文書記次長は「企業が災害に備えた投資をする動機がなくなり、災害時の被害がより大きくなってしまう恐れがある」と疑問を投げ掛けた。
▽弊害
水道事業は給水施設を独占する形を取るため、価格の高騰につながりやすいとの指摘もある。拓殖大の関良基教授(環境政策学)によると、パリ市は一九八四年に「水メジャー」と呼ばれるヴェオリア社やスエズ社とコンセッション契約を結んだが、約二十五年間で料金は三・五倍になった。
オランダの政策研究NGO「トランスナショナル研究所」によると、二〇〇〇~一六年で、少なくとも世界三十三カ国の二百六十七都市で、水道事業が再び公営化されている。
今回の法改正では、コンセッション方式の導入判断や民間企業との契約交渉は自治体任せとなっている。水道事業に詳しいコンサルタントの吉村和就氏は「経験豊富な水メジャーなどを相手に、危機的な状況に立たされている自治体が対等にやりとりができるとは思えない」と指摘する。
<コンセッション方式> 行政が公共施設などの資産を保有したまま、民間企業に運営権を売却・委託する民営化手法の一つ。2011年の民間資金活用公共施設整備促進(PFI)法改正で導入された。民間ノウハウを生かし、経営を効率化できるメリットがあるとされる。関西空港や大阪空港、仙台空港などで実施され、愛知県では有料道路事業で導入された。浜松市が下水道事業で導入しているが、上水道での導入例はない。