長崎県が強行しようとしている石木ダム事業では、ダム建設に反対して今も暮らし続ける住民の土地のすべてが9月19日に国の所有となりました。この時点で、建物の移転などを伴わない土地は明け渡しの期限となり、建造物がある土地の明け渡し猶予期限は11月18日となっています。これ以降は、住民がダム予定地で生活を営むことは法律上は不法占拠となり、長崎県は強制的な家屋の撤去などを伴う「行政代執行」に乗り出せることになります。
19日には住民と長崎県知事との面談も行われることになり、地方版では石木ダムをめぐる報道が多くなってきています。
強制収用では、住民が受け取らない補償金は法務局に供託されますが、補償金には税金がかかります。ダム予定地の住民の生活再建の資金となる補償金の場合、八ッ場ダム事業でも5000万円控除が認められていますが、強制収用の場合は控除もありません。
強制収用を認める土地収用法は、事業の公共性を条件としていますが、ダム事業の公共性を審査するのはダム行政を推進する国土交通省であるため、公共性がない(=事業の妥当性がない)と判定されることはありません。
ダム予定地の住民を八方ふさがりにするこうした制度が全国各地でダム事業の推進を可能にしてきたのですが、13世帯の石木ダム予定地住民は支援者と共に、座り込みやデモ行進などの活動を続け、世論に強制収用の理不尽を訴えています。
◆2019年9月17日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/543703/
ー反対運動40年、迫る期限 石木ダム「県、やった者勝ち」 長崎・川棚 土地明け渡しー
長崎県と佐世保市が同県川棚町で進める石木ダム事業の予定地で、住民らが2016年7月に現在の場所で始めた抗議の座り込みが計700日を超えた。国の事業採択から44年間動かなかったダム計画は、反対地権者の土地の一部の明け渡し期限が19日に迫り、一つの節目を迎える。所有権が国に移されたとしても、「ふるさとで住み続けたい」という住民の思いは土地に根付いている。「犠牲」を強いられようとする現場では、すでに日常と化した反対運動が続く。 (竹中謙輔、平山成美)
里山の田畑を朝日が照らす。赤や青のゼッケンを着けた住民たちが、いつもの場所に向かう。胸には「石木ダム反対」「強制収用反対」の文字。ダム予定地、川棚町川原(こうばる)の岩下すみ子さん(70)は午前7時45分に家を出る。ダムに沈む県道の付け替え工事の現場で続く抗議の座り込み。住民が腰掛けるパイプ椅子の横を工事車両が砂ぼこりを上げて通る。今もこの地で、ダムに反対する13世帯が暮らす。
岩下さんは13日、広げたノートに「700」と書き込んだ。昼すぎまで、住民や支援者約20人は日傘やサングラスで強い日差しに耐えた。「土日曜以外はほとんど毎日座る。こういう生活している人、おらんもんね」。終日座り込んだ日々もあった。股関節が痛むようになり、つえを突き、現場に続く未舗装の道を往復する。
石木ダム事業は、水不足に悩む佐世保市の水道水源の確保と川棚川の治水を目的に県が計画。住民たちの座り込みは、県が道路工事に着手した10年に始まった。中断もあったが、工事は少しずつ進展。住民は場所を移しながら抗議を続けてきた。
県収用委員会は今年5月、反対住民や地権者が所有する約12万平方メートルの明け渡しを命じる裁決を出した。期限は一部が19日、家屋を含む残りの土地が11月18日と定められている。
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座り込みの現場から約300メートル離れた県道沿いに小さな掘っ立て小屋がある。座り込みに参加できない松本マツさん(92)らはここで午前中を過ごし「反対」の意思を示す。
1982年、県が機動隊を投入してダム予定地の測量に踏み切った「騒動」が頭から離れない。当時も座り込んだ住民は腕を抱えられ、次々に引っ張り出された。踏み付けられる人もいた。「機動隊員が次から次へと押し掛けてね。小高い山から木の棒で指示してた。恐ろしかった。あれは受けてみんと分からんよ」
この強制測量を機に、住民と県の溝は決定的になった。知事が代わっても協議は平行線をたどった。2014年を最後に住民と顔を合わせなかった中村法道知事は、土地明け渡し期限の19日、面会に応じる。高齢を押して出席する予定の松本さんは「昔のことを知る年寄りが頑張って知事に訴えなね」と自身を鼓舞した。
住民たちには、県が計画実行を前提に「明け渡し後」の生活再建の話を持ち出すのでは-という警戒もある。「土地収用法は地権者をいじめて土地を奪い取る法律。県はやった者勝ちの論理で進める」
共に面会に臨む地権者岩本宏之さん(74)は1950年代後半から13年間、熊本、大分県境の下筌(しもうけ)・松原ダム建設反対運動を率いた故室原知幸さんの言葉を胸に刻む。「公共事業は、法に叶(かな)い、理に叶い、情に叶うものであれ」
石木ダム建設は、利水というメリットを享受する佐世保市でも賛否が割れる。反対する市民団体は「住民を犠牲にした水を飲みたくはない」と訴え、朝長則男市長宛てに抗議文を出している。
◆2019年9月18日 毎日新聞長崎版
https://mainichi.jp/articles/20190918/k00/00m/040/328000c
ー長崎・石木ダム用地 19日明け渡し期限 地権者「誠意見えない」座り込み続くー
長崎県と同県佐世保市が同県川棚町に建設を計画する石木ダム事業を巡り、反対地権者の土地を含む予定地約12万平方メートルの一部が19日、明け渡しの期限を迎える。立ち退きを拒む住人らによる抗議の座り込みも現地で続いており、1975年の事業採択から40年余を経た田園地帯に緊張感が満ちている。
18日、残暑の厳しい日差しが注ぐ中、ダム建設で水没する県道の付け替え工事現場に「石木ダム反対」のゼッケンを付けた地権者ら約25人が座り込んだ。座り込みが始まったのは2010年3月で、地権者の一人、岩下すみ子さん(70)は「自分の住むところぐらい自分で守らないと」と力を込めた。
県収用委員会が、反対する13世帯約50人が暮らす地区を含む約12万平方メートルの明け渡しを命じる裁決を出したのは今年5月。一部の明け渡し期限は19日で、家屋などを含む土地は11月18日と決まった。明け渡し期限が過ぎれば、行政代執行も可能になる。
事業を巡っては82年、県が機動隊を投入して強制測量を実施し、座り込む住民と衝突するなど、長年対立が続く。「強制収用は許さない」と主張する住民と、行政との溝は埋まらないままだ。19日を前に、地元では市民団体の反対集会が相次ぎ、強制収用に反対する県内外の国会議員ら計73人による議員連盟も発足した。
長崎県や佐世保市は利水や治水の面から、ダムの必要性を強調。住民との話し合いを続ける方針を示す一方で、中村法道知事は記者会見などで行政代執行に関し「あらゆる可能性を排除しない」と述べている。ただ、地権者が工事中止を求めた訴訟も係争中で、県幹部は「期限後すぐに『出て行け』とはならない」と話す。
19日には中村知事と地権者らの面会も予定されているが、地権者で同町議の炭谷猛さん(68)は「一方的な県の姿勢は変わらず、誠意が見えない。こんなことが日本であっていいのか」と憤る。【綿貫洋】
ことば「石木ダム」
長崎県佐世保市の水道用水供給や、洪水対策を目的に計画され、1975年度に国が事業採択した。総貯水容量548万トン、総事業費は285億円。2013年に国が土地収用法に基づき事業認定。県などによる予定地の収用が可能となり、19年現在で全用地のうち約80%が取得済み。
石木ダム事業を巡る主な動き
1975年 国が石木ダム建設事業を採択
82年5月 長崎県が強制測量を実施し、機動隊が座り込む地権者を排除
2009年11月 県と佐世保市が土地収用法に基づき事業認定を国土交通省九州地方整備局に申請
10年3月 県が県道・町道の付け替え工事に着手
13年9月 国が事業認定。土地の強制収用が可能に
15年7月 県が県収用委員会にダム本体部用地の収用・明け渡しを求める裁決の申し立てを始める。16年には中・上流部用地も
11月 反対派地権者らが国の事業認定取り消しを求め長崎地裁に提訴(18年7月請求棄却。福岡高裁へ控訴)
16年2月 地権者らが県と佐世保市を相手取り、工事差し止めを求める仮処分を申し立て。地裁佐世保支部は同年12月に却下
17年1月 県が付け替え道路工事現場に重機を搬入
3月 地権者が県・佐世保市を相手にダム本体建設、付け替え道路工事の差し止めを求めて提訴
19年5月 県収用委員会が土地の明け渡しを命じる裁決
9月 事業用地など約12万平方メートルについて県が権利を取得。建造物がある土地の明け渡し猶予期限は11月18日
◆2019年9月18日 長崎新聞
https://this.kiji.is/546872526130152545?c=174761113988793844
https://www.nagasaki-np.co.jp/kijis/?kijiid=546872526130152545
ー石木ダム全用地収用へ 19日 一部明け渡し期限 地権者、反発強めるー
長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設を巡り、建設予定地に住む反対地権者13世帯の宅地を含む全ての未買収地約12万平方メートルが19日、土地収用法に基づく「権利取得の時期」を迎える。一部の土地の明け渡し期限ともなる同日、地権者と中村法道知事が約5年ぶりに県庁で面会する予定だが、地権者側は「強制収用は許さない」と反発を強めており、溝が埋まる気配はない。
17日午前、ダム建設に伴い水没する県道の付け替え道路の工事現場に、地権者ら約30人が日傘を差して座り込んでいた。取り囲むように県職員が立つ。2017年8月からほぼ毎日続く抗議行動は既に700日を超えた。地権者の一人、岩本宏之さん(74)は「私たちの生活への影響はもちろんだが、毎日派遣される県職員の人件費もばかにならないはずだ。こんな公共工事はどう考えてもおかしい」と憤る。
県収用委員会の裁決で、権利が県と佐世保市に移る未買収地のうち、12.1%は19日に明け渡し期限を迎える。家屋などの物件を含む残りの土地は11月18日が明け渡し期限。地権者が期限までに応じなければ、県と同市は知事に行政代執行を請求できる。県河川課によると13世帯の地権者は補償金を受け取らなかったとして、国に供託した。
こうした中、強制収用に反対する動きが活発化。家屋撤去や住民の排除といった行政代執行に反対する県内外の議員73人が14日、「石木ダム強制収用を許さない議員連盟」を設立した。長崎市や佐世保市などでは反対集会が相次いで開催。17日には、前日に川棚町内であった集会の参加者が県庁を訪れ、「(県が行政代執行に踏み切れば)全国に呼び掛け、圧倒的な人の壁を築き阻止する」などと記した宣言文を河川課に提出した。
地権者で同町議の炭谷猛さん(68)は「『強制収用はさすがにおかしい』と立ち上がり、声を上げる人が増えてきた。知事との面会では『県はこうした世論を無視してまでダムを造るのか』と迫りたい」と言葉に力を込める。
◆2019年9月18日 長崎新聞
https://this.kiji.is/546870476599936097?c=174761113988793844
ー石木ダム事業 どうなっているの? 用地収用巡り一大局面ー
長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画している石木ダム建設事業で、反対住民13世帯の宅地を含む全ての未買収地約12万平方メートルの一部の明け渡し期限が19日に迫っています。同事業が大きな局面を迎える中、中村法道知事が同日、地権者ら反対住民と約5年ぶりに県庁で面会することになりました。
◎石木ダムって?
佐世保市の利水と周辺河川の治水を目的とした総貯水容量548万立方メートルのダムです。1972年に県が予備調査に着手し、75年に国が事業採択。2013年に国が土地収用法に基づく事業認定を告示しました。住民や反対派が根強い抵抗を続け、事業着手から40年以上たった今もダム本体は建設されていません。現在は22年度を完成目標にしています。同事業を巡っては、地権者らが国に事業認定取り消しを求めた訴訟(一審は原告敗訴)などが係争中です。
◎今、事業は大きな局面にあるの?
土地収用法に基づく手続きは着々と進み、地権者らの意思に関係なく行政が土地の権利を取得する強制収用が可能な段階に来ています。県収用委員会は5月、未買収地約12万平方メートルの明け渡しを求める裁決を出し、ダム建設に必要な全ての用地を強制的に収用することが可能になりました。これまでに取得した土地に続き、裁決は19日を残り約12万平方メートルの権利取得の時期としており、20日午前0時に県と佐世保市が土地の権利を取得する見通しです。
◎土地収用法とは?
公共事業に必要な土地の権利を得る手続きについて定めた法律で、多くの人の利益のために個人の土地を利用できるようにすることが目的です。「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」とした憲法第29条第3項が根拠になっています。
◎これからどうなるの?
家屋などの建物を含まない土地は19日、建物を含む土地は11月18日が明け渡し期限です。期限までに土地を明け渡さない場合、県と佐世保市は知事に行政代執行を請求することが可能になります。
◎行政代執行って?
行政が持ち主に代わって家を壊したり、住民を立ち退かせたりすることです。代執行に踏み切る場合、県は改めて設定した期限までに土地を明け渡すよう求める「戒告書」を送ります。それでも応じなければ代執行の時期や費用などを盛り込んだ「代執行令書」を送り、代執行をすることになります。
◎中村知事は何と言っているの?
代執行をするかどうか判断するのは知事です。中村知事は「あらゆる選択肢について改めて検討する。代執行の手法は除外しない」と発言しています。
◎反対派はどんな主張をしているの?
利水・治水の効果や必要性を検証した結果、住民を立ち退かせてまでダムを造る必要はないと主張しています。さらに、強制収用や行政代執行は憲法で保障されるべき基本的人権に反する行為だと強く反発しています。事態が緊迫した同事業の今後の動きが注目されます。
◆2019年9月17日
https://this.kiji.is/546517304625513569?c=174761113988793844
ー石木「強制収用させない」 19日に一部明け渡し期限 反対地権者らデモ行進ー
長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業を巡り、同町内で16日、強制収用に反対する集会「どぎゃんかしゅうかい」(石木ダム建設に反対する川棚町民の会など主催)があり、地権者と支援者約250人が参加した。
石木ダムを巡っては、県収用委員会が宅地を含む未買収地約12万平方メートルの明け渡しを求める裁決を出した。県と佐世保市が土地の権利を取得する時期を今月19日とし、同日を家屋など物件を含まない土地の、11月18日を物件を含む土地の明け渡し期限とした。期限までに応じなければ、県と同市は知事に行政代執行を請求でき、知事が対応を判断することになる。
集会で、石木ダム対策弁護団の馬奈木昭雄団長が同事業と諫早湾干拓事業を比較し「どちらも一人一人の権利を時の権力が奪おうとしている」と批判。ダム建設について、北村誠吾地方創生担当相が14日に「誰かが犠牲、協力して役に立つことで世の中は成り立っている」などと発言したことに苦言を呈した。
「石木ダム強制収用を許さない議員連盟」に名を連ねる立憲民主党の大河原雅子衆院議員は「収用を強行すれば汚点になる」と懸念を示した。
参加者は「強制収用や行政代執行を行わせない」などとする宣言文を採択。集会後、「人のすみかを勝手に奪うな」などと訴えながら同町内をデモ行進した。
◆2019年9月17日 毎日新聞長崎版
https://mainichi.jp/articles/20190917/ddl/k42/040/143000c
ー石木ダム事業中止を どぎゃんか集会、250人参加しデモ行進も 川棚町 /長崎ー
県と佐世保市が川棚町に建設計画を進める石木ダムを巡り、地権者の土地明け渡し期限が迫る16日、建設に反対する市民団体が同町で「どぎゃんか集会」を開き、町内外から約250人が参加した。強制収用や行政代執行が現実味を帯びるなか、事業を推し進める県に批判が相次いだ。
集会で基調講演した石木ダム訴訟原告弁護団代表の馬奈木昭雄氏は、「(建設予定地の)川原(こうばる)地区の歴史、風土を一挙に奪っていいのか。力を合わせて頑張り抜こう」と訴えた。「石木ダム強制収用を許さない議員連盟」代表の城後光・波佐見町議は「地元でも石木ダムはおかしいと思っている人がたくさんいる。新たな動きを作っていくので支援してもらいたい」と呼び掛けた。
最後は「ダム建設を中止させ、ダムのない石木川・川棚川を守り抜く」とする集会宣言を採択。最後は横断幕やプラカードを掲げ、町中心部約1キロをデモ行進した。
建設予定地の地権者13世帯は、移転を伴わない土地は今月19日まで、移転を伴う土地は11月18日までの明け渡しを迫られている。【綿貫洋】