「作業ヤード造成」が「八ッ場ダム本体左岸上部掘削工事」に
国交省関東地方整備局はさる5月17日、八ッ場ダム本体工事に必要な「本体関連工事」の入札手続きを開始しました。
しかし、この「本体関連工事」の入札公告では、記者発表資料にある3件の工事のうち、「作業ヤード造成」であった工事名が「八ッ場ダム本体左岸上部掘削工事」と変えられていました。工事の内容は、掘削工約66,000立方メートルと、文字通り吾妻川左岸で大規模な掘削を行うもので、到底「作業ヤード造成」と呼べるものではありません。
国土交通省関東地方整備局 記者発表資料⇒
「八ッ場ダムの本体関連工事の契約手続きを開始します。」( 平成25年5月16日)
入札公告⇒ 本体左岸入札公告一回目(平成25年5月17日)
【追記】
「八ッ場ダム本体左岸上部掘削工事」は、7月1日に開札が行われましたが、入札不調に終わり、改めて「八ッ場ダム本体左岸上部掘削・造成工事」という工事名で、7月30日に入札公告が出されました。最初の入札公告では、工期は2014年9月30日でしたが、二度目の入札公告では工期が2014年10月31日に延長されました。開札は2013年9月30日に行われました。
大河原雅子参院議員(民主党)はこの問題について5月28日に質問主意書を提出しました。これに対する6月7日付の政府答弁は、質問に真摯に応えるものではありませんでしたが、「作業ヤード造成」と記者発表した工事が「八ッ場ダム本体左岸上部掘削工事」であることを認める内容でした。また、吾妻川左岸の掘削工事は、その下に今もある国道やJR線への落石等を防止するため、防護柵を設置して実施されることや、ダム湛水を前提としたダム湖予定地周辺の地質、地盤調査も「本体関連工事」として実施されることなどが明らかになりました
★参考記事⇒「八ッ場ダム本体関連工事に関する質問主意書と政府答弁」
「八ッ場ダム本体左岸上部掘削工事」は実質的な本体工事の一部であり、参院選後、「本体関連工事」と称する本体工事がなし崩しで着手される可能性があります。
「国庫債務負担行為」とは
ではなぜ、関東地方整備局は「本体工事」を「本体関連工事」と発表したのでしょうか? この問題について、さらに塩川鉄也衆院議員(日本共産党)が6月20日に質問主意書を提出し、28日に政府答弁が出されました。塩川議員は質問主意書で、八ッ場ダム事業の工期が2015年度とあと2年しか残されていない現在、2年をはるかにオーバーする本体工事に着手することは無理があると疑問を呈しました。
本体工事は受注企業と数年以上に及ぶ契約を結ぶため、翌年度以降も国は支払いを保証することが必要です。これを「国庫債務負担行為」といいます。
この国庫債務負担行為は国会の議決を得た上で,実施計画について財務大臣の承認が必要ですので、本体工事の契約期間は基本計画の工期の範囲でなければなりません。関東地方整備局は本当は工期延長について関係都県の了承を得て八ッ場ダム基本計画の変更手続きを行わないと、本体工事には着手できないことになります。
入札結果
関東地方整備局が「本体関連工事」としている三カ所の工事の開札は7月1日に行われました。入札結果は、以下の入札情報サービスで確認できます。
入札情報サービス→http://www.i-ppi.jp/Search/Web/Index.htm
八ッ場ダム本体関連の三工事のうち、二件については石橋建設工業が落札したことが入札情報サービスから確認できます。ところが三工事のうち、「八ッ場ダム本体左岸上部掘削工事」については入札結果が公表されていません。
国交省関東地方整備局はなぜ、問題とされている工事の入札結果を伏せたのでしょうか?
この件について国交省八ッ場ダム工事事務所に問い合わせたところ、
「入札業者は一社であったが、辞退したため、入札は取りやめになった。どうするかはこれから検討する。」との説明がありました。
以下に、塩川議員の質問主意書と政府答弁、およびこの質問主意書で問題としている「国庫債務負担行為」に関する財政法の該当部分を転載します。
八ッ場ダム本体工事と工期に関する質問に対する答弁書(衆議院)
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_shitsumon.htm (質問主意書112)
提出者:塩川鉄也衆院議員
質問主意書 平成二十五年六月二十日
政府答弁書 平成二十五年六月二十八日
八ッ場ダムの建設に関する基本計画(第三回変更)では八ッ場ダム建設事業の工期は平成二十七年度までとなっている。国土交通省関東地方整備局は本年五月十七日、八ッ場ダム建設事業について本体工事の準備に必要な関連工事(本体関連工事)の契約手続きを開始した。新聞報道によれば、来年度には本体工事に取りかかるとされている。この本体工事と基本計画の工期との関係等に関して、以下質問する。
一 平成二十一年一月の八ッ場ダム本体工事の入札公告について
【質問】
平成二十一年一月十日の上毛新聞の記事に次のように書かれている。「国土交通省は九日、八ッ場ダム(長野原町)の本体工事のうち一期工事(工期・二〇一三年度末)の入札を官報に公告した。一期工事費を含む〇九年度政府予算案は開会中の通常国会で審議入りもしていないが、同省は『二〇一五年度に完成させるために逆算すると、今、入札公告しなければ間に合わない』と説明、早期完成を求める地元の要望を踏まえ建設を急ぐ構えだ」「官報などによると入札は一般競争入札で、公告した一期工事にはダム本体の基礎掘削など準備工事のほか、一二年度を予定している本体のコンクリート打設も含まれる」「その後の二期工事で残りの堤体部分などを完成させる」
その後、同年十月になって、入札中止になるが、同年一月時点における本体工事一期工事の入札公告の内容とその後の二期工事の見通しについてはこの記事の記述で相違ないか。
【答弁】
御指摘の意味するところが必ずしも明らかではないが、平成二十一年一月九日に国土交通省関東地方整備局長が入札の公告を行った「八ッ場ダム本体建設工事」の工事内容は、仮締切工、ダム土工、原石山土工、堤体工、基礎処理工、法面工等であり、その工期は、平成二十六年三月二十五日までとしていたところである。
また、当該公告の入札説明書においては、堤体上流面図等において当該工事による堤体工の施工対象部分を示しており、施工対象部分から除かれた堤体の部分等については、当該工事とは別の工事として契約を行う予定であった。
二 平成二十五年五月の八ッ場ダム本体関連工事の入札公告について
【質問】
(一)関東地方整備局の記者発表資料による本体関連工事の入札公告の内容
関東地方整備局は本年五月十六日に八ッ場ダム本体関連工事の入札公告を翌日、十七日に行うことを発表した。関東地方整備局のホームページには入札を行う本体関連工事として「骨材プラントヤード造成」、「工事用道路」、「作業ヤード造成」の三点が記されているが、この内容で相違ないか。
【答弁】
平成二十五年五月十六日に国土交通省関東地方整備局が行った八ッ場ダムの本体工の準備に必要な関連工事の契約手続の開始に係る記者発表(以下。「記者発表」という。)において、同月十七日から契約手続を開始する工事として示したものは、「作業ヤード造成」、「骨材プラントヤード造成」及び「工事用道路」に関する工事である。
【質問】
(二) 入札情報サービスによる八ッ場ダム関連工事の入札公告の内容
入札情報サービスで、関東地方整備局が五月十七日に入札公告を行った工事の内容を見ると、「骨材プラントヤード造成工事」、「盛土造成地線改良工事(大柏木地区の工事用道路工事等)」、「八ッ場ダム本体左岸上部掘削工事(八ッ場ダム本体建設工事に伴う掘削工事のうち、川原畑地区において掘削工事を行うもの)」の三件となっている。この内容で相違ないか。
【答弁】
平成二十五年五月十七日に国土交通省関東地方整備局八ッ場ダムエ事事務所長が入札の公告を行った工事の工事名及び工事内容は、それぞれ次のとおりである。
骨材プランドヤード造成工事(電子入札対象案件) 八ッ場ダム本体建設工事に伴う骨材製造設備のうち、大柏木地区における基盤造成工事
八ッ場ダム本体左岸上部掘削工事(電子入札対象案件) 八ッ場ダム本体建設工事に伴う掘削工事のうち、川原畑地区における掘削工事
盛土造成地線改良工事(電子入札対象案件) 八ッ場ダム本体建設工事に伴う骨材製造設備のうち、大柏木地区における工事用道路工事等
質問
(三) 本体工事への着手を表に出さない理由
上記(一)の記者発表資料と(二)の入札情報サービスを比較すると、前者の「骨材プラントヤード造成」、「工事用道路」は後者の「骨材プラントヤード造成工事」、「盛土造成地線改良工事」と対応しているが、前者の「作業ヤード造成」は後者の「八ッ場ダム本体左岸上部掘削工事」とは対応せず、別物である。後者のそれは八ッ場ダム本体左岸上部掘削工事であるから、本体工事そのものである。
関東地方整備局は実際には本体工事を今年度から始めようとしているにもかかわらず、なぜ、記者発表資料では「作業ヤード造成」であるとして本体工事への着手を表に出さないようにしたのか、その理由を明らかにされたい。
なお、工事目的である「作業ヤード造成」を入札公告に書かないことはありえないことであるので、後者は「作業ヤード造成」を書かなかっただけとする弁明は通用しないことを申し添えておく。
【答弁】
御指摘の意味するところが必ずしも明らかではないが、二の(二)についてで述べた「八ッ場ダム本体左岸上部掘削工事(電子入札対象案件)」は、八ッ場ダムの本体工事の準備に必要な作業ヤードを造成するために、同ダムの本体工事予定箇所の左岸側の上部において、掘削工事を行うものである。
なお、記者発表においては、「作業ヤード造成」、「骨材プラントヤード造成」及び「工事用道路」に関する工事の契約手続を開始する旨を公表したものであり、入札公告における工事名そのものを公表したものではない。
三 今年五月の八ッ場ダムの入札公告で本体関連工事のみを対象とした理由について
【質問】
上述のように、平成二十一年一月の入札公告では本体関連工事と本体工事を一体のものとして扱い、入札公告を行ったが、今年五月の入札公告の記者発表資料では本体関連工事を本体工事から切り離して、本体関連工事のみを対象としている。平成二十五年は、平成二十一年一月のように本体関連工事と本体工事を一体のものとしてなぜ入札公告を行わなかったのか、その理由を明らかにされたい。
【答弁】
御指摘の意味するところが必ずしも明らかではないが、平成二十五年度予算には、八ッ場ダムの本体工事の準備に必要な関連工事を進めるための予算が計上されており、現場の状況等を踏まえ、当該関連工事等の契約手続を開始したところである。
四 八ッ場ダム本体工事の契約をした場合の債務負担行為と八ッ場ダム基本計画の工期との関係について
【質問】
八ッ場ダム本体工事の契約をした場合の債務負担行為および八ッ場ダム基本計画の工期との関係について次の三点を質問する。
(一) 一で述べたように、平成二十一年一月の入札公告では本体工事のうち一期工事(工期・平成二十五年度末)の入札を官報に公告した。この公告に基づいて入札を行い、受注企業と契約を結んでいれば、国の債務負担行為は平成二十五年度末まで及ぶと考えられるが、そのとおりでよいのか。
(二) 本体工事は一期工事と二期工事に分けて行うとしても、一期工事と二期工事は一連一体のものであり、一期工事の契約は二期工事にも引き継がれることになるはずである。その結果として、上記(一)の場合、国の債務負担行為は二期工事完了予定の平成二十七年度末で及ぶことはないのか。
【答弁】
御指摘の意味するところが必ずしも明らかではないが、平成二十一年度予算において、利根川八ッ場ダム建設工事に係る国庫債務負担行為の期間については、同年度以降五か年度以内としていたところである。
【質問】
(三) 上記(一)で述べた国の債務負担行為の期間は八ッ場ダム基本計画の工期の範囲でなければならないと考えられるが、そのとおりでよいのか。
【答弁】
御指摘の意味するところが必ずしも明らかではないが、特定多目的ダム法(昭和三十二年法律第号)第四条の規定に基づき作成された「八ッ場ダムの建設に関する基本計画」 (昭和六十一年建設省告示第千二百八十四号。以下「基本計画」という。)に記載された工期は、実施計画調査の着手から完成が予定される時期までの期間を示すものである。一方、国庫債務負担行為の期間は、財政法(昭和二十二年法律第三十四号)第十五条の規定に基づき予算において決定される、国が債務を負担する行為により支出すべき年限を示すものである。
五 八ッ場ダム建設基本計画の工期延長がされない限り、本体工事の契約はありえないことについて
【質問】
四で述べたことを踏まえれば、平成二十五年度において平成二十一年一月と同様に本体関連工事も含めてダム本体の第一期工事の契約手続きを行うと、その契約期間は平成二十九年度までとなり、国の債務負担行為は控えめに見ても二十九年度まで必要となる。一方、八ッ場ダム建設基本計画の工期は平成二十七年度までであるから、債務負担行為の期間は工期を二年も超過することになる。八ッ場ダム建設基本計画を逸脱した契約は認められないと考えれられるので、基本計画の工期延長がされない限り、本体工事の契約はありえないことになる。
このことに関して政府の見解を示されたい。
また、二の(三)で述べたように、関東地方整備局は本年五月十七日の入札公告の記者発表資料で「八ッ場ダム本体左岸上部掘削工事」を「作業ヤード造成」であるとして本体工事への着手を表に出さないようにした。これは八ッ場ダム基本計画の工期による制約があったからではないのか。このことについても政府の見解を示されたい。
六 八ッ場ダム建設基本計画の変更予定時期について
昨年二月二日の衆議院予算委員会において当時の前田武志国土交通大臣は、八ッ場ダムの完成時期に関する質問に対して「本体に着工してから、七年で完成すると想定されている」と答弁している。この答弁からすれば、八ッ場ダムの工期は平成三十二年度頃まで延長せざるを得ないと考えられる。また、平成二十三年度の八ッ場ダム事業の検証で、工期延長等による事業費の増額、コスト縮減による減額、追加的な地すべり対策と代替地安全対策の点検による増額で、差し引き約一八三億円の増額が必要との試算結果が示されているので、現基本計画の事業費四六〇〇億円の増額も必至である。
国土交通省は八ッ場ダムの工期延長と事業費増額のため、基本計画の変更をいつ行う考えであるのか、八ッ場ダム建設基本計画の変更予定時期を明らかにされたい。
七 八ッ場ダム建設基本計画の変更に対する関係都県の拒絶反応について
平成二十三年度に開かれた「八ッ場ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場(幹事会)」において関係都県は八ッ場ダムの事業費増額と工期延長に対して拒絶反応を示した。八ッ場ダム建設事業の事業費四六〇〇億円、平成二十七年度末完成という約束のもとに関係都県は今まで三回に及ぶ基本計画変更に同意してきた。その関係都県の立場からすれば、当然の反応である。今後予定されている八ッ場ダム基本計画変更について国は関係都県の同意を得ることが可能なのか、その見通しを明らかにされたい。
【答弁】
五から七までについて
御指摘の意味するところが必ずしも明らかではないが、八ッ場ダム建設事業の今後の工程等については、現在、精査しているところであり、基本計画の変更については、必要に応じて検討することとしている。
【参考資料】財政法 国庫債務負担行為
第十五条 法律に基くもの又は歳出予算の金額(第四十三条の三に規定する承認があつた金額を含む。)若しくは継続費の総額の範囲内におけるものの外、国が債務を負担する行為をなすには、予め予算を以て、国会の議決を経なければならない。
2 前項に規定するものの外、災害復旧その他緊急の必要がある場合においては、国は毎会計年度、国会の議決を経た金額の範囲内において、債務を負担する行為をなすことができる。
3 前二項の規定により国が債務を負担する行為に因り支出すべき年限は、当該会計年度以降五箇年度以内とする。但し、国会の議決により更にその年限を延長するもの並びに外国人に支給する給料及び恩給、地方公共団体の債務の保証又は債務の元利若しくは利子の補給、土地、建物の借料及び国際条約に基く分担金に関するもの、その他法律で定めるものは、この限りでない。
4 第二項の規定により国が債務を負担した行為については、次の常会において国会に報告しなければならない。
5 第一項又は第二項の規定により国が債務を負担する行為は、これを国庫債務負担行為という。
第三十四条の二 各省各庁の長は、第三十一条第一項の規定により配賦された歳出予算、継続費及び国庫債務負担行為のうち、公共事業費その他財務大臣の指定する経費に係るものについては、政令の定めるところにより、当該歳出予算、継続費又は国庫債務負担行為に基いてなす支出負担行為(国の支出の原因となる契約その他の行為をいう。以下同じ。)の実施計画に関する書類を作製して、これを財務大臣に送付し、その承認を経なければならない。
2 財務大臣は、前項の支出負担行為の実施計画を承認したときは、これを各省各庁の長及び会計検査院に通知しなければならない。