新型コロナの感染「第2波」に備えるために、下水道のウイルス調査が注目されているということです。外国の調査例では、感染者数のピークより1週間程度早く、下水中のウイルス数がピークになっているということで、下水のウイルス調査で感染者数の動向を予測できるかもしれません。
関連記事を転載します。
◆2020年5月29日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/DA3S14493358.html?iref=pc_ss_date
ー(新型コロナ)感染「第2波」どう備える 下水道のウイルス調査、素早く覚知ー
新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、緊急事態宣言が解除された。オーバーシュート(爆発的な患者の増加)も医療崩壊も起こらず、私たちは何とか第1波を乗り切った。だが油断をすれば、「第2波」はすぐ来るかもしれない。感染力が強いこのウイルスと、どう向き合うべきなのか。
日本や中国、韓国、欧州の多くの国では、散発的な感染者集団(クラスター)は出ているものの、ピーク時に比べると感染者は減りつつある。しかし世界保健機関(WHO)は25日、こうした国々で性急に感染拡大防止策を解除すれば、直ちに第2のピークが訪れると警鐘を鳴らした。
約100年前に流行し、世界で約6億人が感染、数千万人が亡くなったスペインかぜのときはどうだったのか。日本での第1波は1918年11月に訪れ、約4万4千人が死亡した。その後、収束に向かったものの、約1年後の冬に第2波が到来した。米国やフランスなどでは第2波の方が脅威となり、国立感染症研究所によると、致死率は第1波のときの10倍だったという。
第2波の兆候を捉える方法の一つとして、海外で注目されているのが、感染者の排泄物(はいせつぶつ)に由来するウイルスの量を調べる下水道のモニタリングだ。
ウイルスの広がりを確認する方法には、PCR検査や抗体検査などもある。しかしPCRの検査数を大幅に増やすことは難しく、抗体検査はリアルタイムの感染状況はつかみづらい。
下水を採取し、1リットルあたりにどれだけウイルスの遺伝子があるかを調べて数値の変化を追えば、「急に値が大きくなった場合に素早く気付ける」と、北海道大の北島正章助教は言う。米国やフランス、オランダなどでは下水の中から感染者の排泄物に由来するとみられる新型コロナウイルスが検出されている。
国内でも5月から、日本水環境学会のメンバーと自治体が連携し、東京都や横浜市などでモニタリングが始まった。北島さんは「仏ではロックダウン後に下水中のウイルス濃度が下がったという報告も出ており、こうした施策の有効性を見るのにも使える」と話す。
■院内感染防ぐ専用病棟準備
第2波が来た場合にも対応できるよう、医療機関も、感染者が増えても医療崩壊が起きない体制づくりを進めている。
東京医科歯科大付属病院の救命救急センターは第1波で、感染の疑いがない患者の受け入れを一時停止する「コロナシフト」をとった。重症と中等症の患者用に最大65床を整備し、最も多いときで36人のコロナ患者を受け入れた。
第2波がきた場合も、コロナ患者を受け入れる方針だ。ただ、大学病院として先進医療を担っていく使命もある。救命救急センター長の大友康裕教授(救急医学)は「コロナ患者の受け入れのため、抑制していた通常診療を再開させていくなかで、大事なポイントは、通常診療といかに共存させるかだ」と話す。
院内感染を防ぐため、一つのフロアにコロナなど感染症の患者を集める専用病棟を作る準備を進めている。第1波で院内の情報伝達の難しさを経験。情報の一元化のため、4月に医師や看護師、事務職員ら約10人からなる「新型コロナウイルス対策室」をつくった。また手術がなく余裕ができた医師らを集め、集中治療室(ICU)の清掃など必要な業務にあたる仕組みを構築した。
病院長補佐を務める集中治療部の若林健二医局長は「第1波は、走りながら考えていた。第2波が来たときは、よりスムーズに対応できるようにしたい」と話す。
■「来るものとして対策を」
ウイルスの特性も、第2波にとっては脅威だ。東京農工大の水谷哲也教授は、コロナウイルスの仲間の重症急性呼吸器症候群(SARS)では大きな第2波は来なかったが、新型コロナは症状が出ないまま感染する人が多く、感染が広がりやすいという。「新型コロナの抗体を持っている人はまだ限られる。このまま日本で感染者数が増えなければ、また海外から持ち込まれて第2波が起こるのではないか」と指摘する。
それでも日常生活が戻るにつれ、どうしても危機感が薄れてしまう。科学コミュニケーションが専門の内田麻理香・東京大特任講師は、現在の状況は「なぜかうまくいっているだけ」とし、「第2波は必ず来るものとして備えなければならない。その上でできるだけ波の山を小さくすることが大切」と話す。
第1波では、感染した人が差別されるケースもあった。内田さんは「それでは感染したことを隠すようになり、対策できないことでかえって感染が広がりかねない」と指摘する。また、「『8割削減』や『新しい生活様式』というメッセージはわかりにくい。国は、私たちが何をすればいいか具体的に示していく必要がある」と話す。(戸田政考、今直也、服部尚)
◆2020年5月28日 ニューズウィーク
https://news.yahoo.co.jp/articles/864ee25ecb3c195bcdffa467733b4d8bd54fc565
ー下水が新型コロナ早期警戒システムになる?ー
──下水のモニタリングで、新型コロナウイルス感染症の流行を事前に検知できる
下水のモニタリングによって、新型コロナウイルス感染症の発生の初期兆候を検知できる可能性があることが明らかとなった。
■ 下水汚泥の新型コロナのRNA濃度は、時間差で感染流行と高い相関
米イェール大学の研究チームは、2020年3月19日から5月1日まで、人口約20万人の下水を処理する米コネチカット州ニューヘイブンの下水処理場で下水汚泥試料を毎日採取し、新型コロナウイルスのRNAを抽出。下水汚泥に含まれる新型コロナウイルスのRNAの濃度と、この地域で確認された新型コロナウイルスの感染者数や入院患者数とを比較した。
「メドアーカイブ」で5月22日に公開された未査読の研究論文によると、下水汚泥に含まれる新型コロナウイルスのRNAの濃度は、時間差があったものの、新型コロナウイルス感染症の流行曲線や地域の医療機関の入院患者数と高い相関が認められた。
新型コロナウイルスのRNAの濃度は、新型コロナウイルス感染症の新規陽性者数に変動が起こる7日前、入院患者数が変動する3日前に増減がみられたという。新型コロナウイルスの感染者は、症状が現れるまで感染の有無を検査しないため、このような時間差が生じるものと考えられている。
■ 感染流行を予測し、予防策の強化や緩和をタイムリーに判断できる
COVID-19の新規陽性者数(黒線)と、汚泥のウイルスRNAの量(赤線)
下水汚泥では個人が特定できないため、新型コロナウイルスの感染者の特定や接触者の追跡調査には、従来と同様、臨床検体による検査が不可欠だ。しかしながら、下水汚泥に含まれる新型コロナウイルスのRNA濃度のモニタリングによって、新型コロナウイルス感染症の流行を事前に予測し、地域の検査体制や医療体制の整備につなげたり、感染予防策の強化や緩和をタイムリーに実施しやすくなる可能性はある。
研究論文では「とりわけ検査体制が脆弱な発展途上国では、下水や汚泥に基づくサーベイランス(監視)が役に立つだろう」と指摘している。
■ 下水を用いた新型コロナ感染状況の調査は各地で行われている
下水を用いた新型コロナウイルス感染症のサーベイランスにまつわる研究は、イェール大学以外でもすすめられている。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームでは、3月18日から25日までマサチューセッツ州の下水処理場で採取した下水試料を分析し、実際の感染者数は、マサチューセッツ州で確認された陽性者数よりも多いとみられることを示した。
同様の調査は、豪クイーンズランド州や仏パリでも実施されている。