石木ダムは川棚川支流の石木川に半世紀前に計画されました。ダム建設の目的は「川棚川の洪水調節」と「佐世保市への水道用水の供給」ですが、いずれも中身を見ると問題が多く、石木ダムは不要との意見が広がっています。ダム予定地には今も13世帯の住民が暮らし続けていますが、事業を進める長崎県は、土地や家屋の強制収用手続きをすませ、行政代執行も辞さない姿勢です。
石木ダムの問題に取り組んできた水問題研究家の嶋津暉之さん(元東京都環境科学研究所、当会運営委員)がこのほど、昨年2019年に使用された石木ダムの費用対効果分析の計算資料を入手しました。計算資料についての嶋津さんの解説を紹介します。
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ダム等の公共事業は、事業の是非について定期的に再評価を行うことが義務づけられており、その再評価の重要な項目の一つが費用対効果(費用便益比)の数字です。費用便益比が1を超えれば事業継続となり、1を下回れば見直しの対象となります。ほとんどの事業では事業者は便益を過大に計算して、費用便益比が1を超えるように操作します。
石木ダムについても洪水調節と不特定利水(渇水時の補給)の目的については長崎県、水道用水開発の目的については佐世保市が再評価を行い、費用便益比を計算しています。
長崎県は洪水調節と不特定利水の目的について昨年9月に再評価を行いました。前回は2015年でした。今回、昨年9月30日の長崎県公共事業再評価監視委員会で示された石木ダムの費用対効果分析の計算資料を入手しました。
http://suigenren.jp/wp-content/uploads/2020/06/64eade6ed87a4cacf6a83df74c1c605e.pdf
石木ダム費用対効果分析資料201909
昨年7月17日に石木ダム工事差し止め訴訟の証人尋問が長崎地方裁判所佐世保支部で行われ、石木ダム事業を科学的に検証すれば、治水面で不要であることを私が証言しました。その中で、石木ダムは費用便益比計算の恣意的な設定を改めれば、費用便益比が1を大きく下回ることを示しました。
http://suigenren.jp/wp-content/uploads/2019/07/435871c5c7f259bef4ac7f2e9ce6f279.pdf
証言で示した2015年の再評価の数字は次の通りでした。
〈2015年の再評価〉
石木ダム全体の費用便益比(B/C) 1.25
洪水調節ダム便益 0.42
川棚川(河口~石木川合流点) 0.12
石木川 0.30
不特定便益 0.79
残存価値 0.05
2019年の再評価もほぼ同じでした。石木ダム費用対効果分析資料201909の最終ページの合計欄の数字と6ページの表から次の値が求められます。
〈2019年の再評価〉
石木ダム全体の費用便益比(B/C) 1.21
洪水調節ダム便益 0.40
川棚川(河口~石木川合流点) 0.10
石木川 0.30
不特定便益 0.77
残存価値 0.04
ダム建設の主たる目的は川棚川の洪水調節であるはずなのに、その便益に関しては費用便益比(B/C)がわずか0.10しかありません。
石木ダム全体のB/Cが1を超えているのは、前回と同様、不特定利水の便益がダム完成前に発生するという実際にはありえない設定をしたことによって、現在価値化後の便益が大きくなっているからです。
現在価値化とは費用便益比計算独特のもので、社会的割引率(貨幣価値の変動率を示す指標)を 4%として、将来発生する金額を低く、過去に発生した金額を高く評価するものです。不特定利水の便益がダム完成後に発生するというまともな設定をすれば、石木ダム全体のB/Cが1を大きく下回り、石木ダムは見直しの対象になります。
以上の通り、長崎県が行った費用便益比計算でも、石木ダムは主目的の川棚川洪水調節の費用便益比がわずか0.10しかありません。長崎県が地元住民の土地・家屋が奪おうとしている石木ダムはその程度の事業なのです。
こんな無意味な事業は何としても中止させなければなりません。