八ッ場ダム事業では、水没地域の犠牲の代償として、ダム湖周辺に地域振興施設を整備してきました。
整備費用は八ッ場ダム三事業の一つである利根川・荒川水源地域対策基金によって賄われます。利根川・荒川基金は、八ッ場ダムによって都市用水の供給を受ける利根川流域一都四県(東京・埼玉・千葉・茨城・群馬)が拠出しています。
地域振興施設の中身は、水没五地区がそれぞれの地区で決めました。利根川荒川基金事業は、本来はダム完成と共に完了しなければなりませんでしたが、川原湯温泉街のあった川原湯地区は、201世帯623人全住民が水没対象(「生活再建案」、1979年、群馬県)と、犠牲があまりに大きく、その代償となる地域振興施設のメニューを地区内でなかなか決めることができませんでした。千人収容の観光会館、30代女性をターゲットとしたダイエットバレー構想によるエクササイズセンターなど、外部のコンサルタントがイメージを描く華やかなメニューが浮かんでは消えました。
写真=カフェや笹湯などが入っている川原湯温泉あそびの基地NOAの建物。
地区住民が慎重であった背景には、施設の維持管理の問題があります。利根川荒川基金の窓口である群馬県は、当初、維持管理は「水源地域振興公社」(仮称)が担うため、維持管理費も一都四県が負担すると説明していました。この公社構想によって水没住民200人の雇用が生まれるとの説明は、ダムによる生活破壊に不安を抱く住民にセーフティーネットと受け止められ、ダム闘争に疲弊した水没地域がダム計画を受け入れる大きな要因になったと言われます。しかし2007年、群馬県の新たな説明により、維持管理費は地元負担になることが明らかになり、その後、利根川荒川基金事業の総額は249億円から178億円に減額されました。
8月1日にオープンとなった川原湯地区の地域振興施設は、地元の旅館主らの出資会社によって維持管理が行われることになります。
写真=川原湯温泉あそびの基地NOAのエントランス。
★「川原湯温泉あそびの基地NOA」公式サイト
https://yamba-kawarayu-noa.com/
旧約聖書の「ノアの方舟」をイメージして名付けられたという新たな地域振興施設は、コロナ禍の最中での異例の船出となりました。
群馬県内各紙の記事を紹介します。
◆2020年8月2日 上毛新聞 (紙面記事より転載)
https://this.kiji.is/662322114212152417
ー八ツ場の観光拠点が開業 川原湯温泉あそびの基地NOA ー
キャンプ、カフェ、日帰り温泉・・・
八ツ場ダム(群馬県長野原町)関連事業で整備された地域振興施設「川原湯温泉あそびの基地NOA(ノア)」が1日、全面開業した。キャンプなどのアウトドア活動が楽しめるほか、カフェや日帰り温泉を設けた。JR川原湯温泉駅近くに位置し、町の観光案内の拠点にもなる。町は同所で式典を開き、門出を祝った。
施設は鉄骨2階建て延べ床面積1565平方㍍。事業費は22億9千万円で、利根川・荒川水源地域対策基金を充てた。町が設置し、地区の住民で組織する「NOA」(同町川原湯、樋田省三社長)が運営する。
カフェの総席数は65席。日帰り温泉は内風呂と露天風呂がある。無料の休憩スペースも設けた。観光案内を担う一般社団法人「つなぐカンパニーながのはら」の事務局も入居する。
バーベキューは最大で280人。キャンプサイトは全22サイトあり、100人程度が利用できる。道具は全て貸し出し可能で、手ぶらでキャンプが楽しめる。
新型コロナウイルス対策で、人数制限のほか、キャンプ・バーベキューの一般客利用は予約制として4日から受け入れる。日帰り入浴と、東京の別の会社が運営する湖面を使ったカヌーやカヤック、サップの利用は現在、キャンプ利用客に限定している。
式典には関係者約30人が出席。くす玉を割り、シャンパンで乾杯して祝った。萩原睦男町長は「3蜜になりにくいウィズコロナの時代に合致した環境だ」と述べ、多様な野外活動が展開されることに期待した。樋田社長は「町内の観光発信拠点にしたい」と話した。
開館時間は一部を除き、午前9時~午後5時。不定休。
◆2020年8月2日 朝日新聞群馬版
https://digital.asahi.com/articles/ASN817JQLN81UHNB00N.html
ー八ツ場「再出発の拠点に」 観光向け施設オープンー
八ツ場ダム(群馬県長野原町)の建設を地元が容認する見返りとして、ダムを活用する下流都県などが整備費を負担した地域振興施設「川原湯温泉あそびの基地NOA」が1日、ダム湖に臨むJR川原湯温泉駅前に開業した。建物にはカフェや温浴施設、会議室などが入り、敷地内には手ぶらで楽しめるキャンプサイトやバーベキューサイトも設けた。当初構想から40年を経て実現した施設で、周辺観光の拠点として期待される。
地元がダム建設に反対していた1980年、県が示した生活再建案で、1千人収容のホールを備えた観光会館などを提案。これらで地域が発展すると信じて地元はダム容認に転じた。用地買収が進んだ2008年には当初案に代えて健康増進施設「エクササイズセンター」を県が示したが、採算面の不安から見直されるなど、曲折が続いた。
開業した施設は町が所有。地元の旅館主らが立ち上げた会社「NOA」に運営を委託する。整備費は約22億9千万円で、国と、利水の受益者となる1都4県が拠出する「利根川・荒川水源地域対策基金」が充てられた。運営費はNOAが負担し、大規模修繕などが必要となった場合は町と協議して負担者を決める。
1日、開業を記念した式典が行われ、萩原睦男町長ら長野原町の関係者や、NOAの代表を務める川原湯温泉協会の樋田省三会長(55)ら30人が参加。NOAの名前は、地域の再出発の願いを込めて「ノアの方舟(はこぶね)」から採用した。「自然(Nature)」「温泉」(Onsen)「活動」(Activity)の意味も重ねる。
樋田さんは「時間はかかってしまったが、地域の未来につなげるため、町の活性化の拠点にしたい」と意気込みを語った。
コロナ禍の影響で、温浴施設の利用は当面、キャンプ・バーベキューの利用者のみに限定する。(中村瞬)
◆2020年8月2日 毎日新聞群馬版
https://mainichi.jp/articles/20200802/ddl/k10/040/050000c
ー川原湯温泉にレジャー施設 キャンプ、カヌーもー
長野原町川原湯で地域振興施設「川原湯温泉あそびの基地NOA」が1日、オープンした。八ッ場ダム水没地域から移転した川原湯地区の振興拠点として、カフェや温泉を備えた施設にキャンプサイトを併設する。
施設名の「NOA」は洪水から生き延びた旧約聖書の「ノアの方舟」から採り、再出発への願いを込めたという。事業費は利根川・荒川水源地域対策基金から22・9億円を投じた。
施設は川原湯温泉駅前に立地。カフェや温泉施設、観光案内所が入った2階建ての建物のほか、キャンプサイトとバーベキューサイトを設置し、湖面でカヤック、カヌーなども楽しめる。
施設は町が所有し、地区住民らでつくる「NOA」が運営。NOAの樋田省三社長(55)は「川原湯温泉の旅館との連携も進めていきたい」と話した。【妹尾直道】
—転載終わり—
写真下=ダム湖畔に整備されたNOAのグランピング(キャンプ場)。カフェなどが入っている施設との間にJR吾妻線の線路が通っている。
写真下= NOAキャンプ場への案内表示の背後にJR川原湯温泉駅のプラットフォーム。水没地から移転した川原湯温泉駅は、かつては東京・上野駅始発の特急草津の停車駅だったが、2017年3月のダイヤ改正より特急停車駅から除外された。(⇒「川原湯温泉駅の2019年度一日平均乗車人数」)
写真下=キャンプ場への入口へは、線路をまたぐ高架橋を超えていく。一般客の利用は8月4日からとのことで、撮影した8月2日は「貸切」の看板。