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「川辺川ダム容認 熊本県、豪雨受け転換」(毎日新聞)

 毎日新聞が一面トップに、熊本県が川辺川ダムについての方針を180度転換したことを報道しました。
 毎日新聞のスクープを追って、他紙も同様の記事を掲載しています。
 2009年に発足した民主党政権下で共に政見公約に中止が謳われた八ッ場ダムが建設され、川辺川ダムが一旦は建設にストップがかかったのは、両ダムの関係都県知事の姿勢が異なっていたからです。八ッ場ダムは関係する利根川流域の一都五県知事がすべてダム推進であったのに対し、川辺川ダムは熊本県一県のみが関係する事業で、その熊本県知事が県民の民意を受けてダム計画の白紙撤回を求めていました。
 7月の球磨川水害後の蒲島熊本県知事の言動は、方針転換という結論ありきでした。10年余前に川辺川ダムを拒否した熊本県に対して、国が管理する球磨川でダム以外の治水策を殆ど実施してこなかった国土交通省は、念願であった川辺川ダム復活に向けて動き出しそうです。

◆2020年11月11日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20201110/k00/00m/040/276000c
ー熊本県、川辺川ダム容認方針固める 九州豪雨球磨川氾濫で 清流保護巡り反発もー

 7月の九州豪雨で氾濫した球磨川の治水対策として、熊本県は2009年に旧民主党政権が計画を中止した川辺川ダムの建設を容認する方針を固めた。複数の関係者への取材で判明した。中止決定後、県は国や流域市町村と共にダムによらない治水を模索したが、実現しないまま今回の豪雨で甚大な被害を受け、方針転換が不可避と判断した。蒲島郁夫知事が11、12両日にある有識者や県議からの意見聴取などを踏まえて最終判断し、月内にも方針を表明する。

 蒲島知事は、大雨時以外は水をためず、川の水がそのまま流れる「流水型」での建設を念頭に置いている。流水型ダムは水をためる一般的なダムに比べ、水質への影響が小さいとされる。また、関係者によると、県はダムを建設した場合に影響を受ける流域自治体への財政措置などについての検討も始めた。

 川辺川ダム計画を巡っては、蒲島知事が08年、ダム建設予定地の相良(さがら)村や最大受益地の人吉市の当時の首長が反対していることなどを理由に「白紙撤回」を表明。翌年に旧民主党政権が中止を決めた後、国と県、流域市町村は遊水地や、川辺川の水を八代海に流す放水路などダムによらない治水対策を検討したが、数千億円単位の事業費や数十年にわたる工期などがネックになり抜本対策が決まらなかった。

 こうした経緯を踏まえ、7月の豪雨後、流域市町村の首長や、自民党が多数を占める県議会からダム建設を求める声が上がり、蒲島知事は「ダムも選択肢の一つ」と発言した。10月には国が「川辺川ダムがあれば人吉地区の浸水面積を約6割減らせた」とする推計を示し、ダム建設を求める動きが加速。ただ、国は「ダムがあっても氾濫自体は防げなかった」としており、県はダムに遊水地など複数の対策を組み合わせて流域全体で被害を防ぐ「流域治水」を目指す。

 一方、10月中旬~11月初旬にあった知事による住民への意見聴取では「ダムを造ると清流が守れない」といった意見も多く、今後、反対の声が高まる可能性がある。また、治水にかんがい用の利水や発電を組み合わせた多目的ダム計画自体は今も廃止されておらず、流水型への変更も含めダム建設の実現には曲折も予想される。【城島勇人、平川昌範】

 ◇川辺川ダム計画

  1963~65年に熊本県の球磨川で大規模洪水が相次いだことを受け、66年に最大の支流の川辺川に計画された国営の多目的ダム。村中心部の大部分が水没する同県五木村の住民らが長年反対運動を繰り広げてきたが、82年に受け入れに転じ予定地の買収と住民移転はほぼ完了。2009年に旧民主党政権が八ッ場(やんば)ダム(群馬県)とともに中止を決め、政権交代の象徴とされた。八ッ場ダムは11年に建設再開が決まり、今年3月完成している。

◇川辺川ダム(熊本県)建設計画を巡る主な動き
1963~65年   球磨川流域で水害が相次ぐ
1966年7月   旧建設省がダム計画を発表
2008年9月   蒲島郁夫知事が計画の白紙撤回を表明
2009年9月   旧民主党政権が計画中止を表明
2020年7月4日 九州豪雨で球磨川や支流が氾濫
2020年8月26日 知事が「ダムも選択肢の一つ」と発言
2020年10月6日 国が「川辺川ダムがあれば、人吉地区での浸水面積を約6割減らせた」とする推計を公表
2020年10月15日 知事が治水対策について流域の団体や住民から意見を聴取する会が始まる。11月3日までに21回開き、422人から聴取

◆2020年11月11日 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201111/k10012706701000.html
ー熊本 蒲島知事「川辺川ダム建設前提で調整」19日にも表明へー

 ことし7月の豪雨で氾濫した球磨川流域の今後の治水対策について、熊本県の蒲島知事が川辺川ダムの建設を進める前提で調整を行ったうえで、今月19日にも具体的な方向性を表明する方針であることが関係者への取材でわかりました。

 熊本県の蒲島知事は豪雨災害後、球磨川流域の治水対策について、かつてみずから白紙撤回した、支流の川辺川でのダム建設も「選択肢の1つだ」として検討を進めています。

 これに対し国は先月、「ダムがあれば人吉市の浸水範囲を6割減少できた」などとする検証結果を示し、流域の市町村長などからはダムの建設を求める意見が相次いでいました。

 こうした中、蒲島知事が川辺川ダムの建設を進める前提で調整を行い、今月19日にも具体的な方向性を県議会の全員協議会で表明する方針であることが関係者への取材でわかりました。

 環境への影響を懸念する声にも配慮するため、大雨の時以外は水をためずにそのまま流す「流水型」のダムも念頭に、そのほかの対策と組み合わせて流域全体で水を受け止める「流域治水」の推進を目指すということです。

 蒲島知事は先月から流域の住民などから意見を聞く会の開催を重ねていて、11日も治水の専門家と意見を交わしました。

 この中で、ダム建設へ慎重な姿勢を求める専門家に対し蒲島知事は「政治家として理想と現実の間で苦しんでいる。7月の豪雨災害で65人の命が失われた事実は重い」と答えていました。

 このあと取材に応じた蒲島知事は、治水の方向性について問われると、「流域の安心安全と環境保護の両立を目指して検討していく」と述べ、明言を避けました。

◆2020年11月11日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASNCC756GNCCTLVB00B.html
ー川辺川に「流水型」ダム容認へ 豪雨被害受け方針転換ー

 7月の記録的豪雨で氾濫(はんらん)した熊本県南部の球磨(くま)川の治水対策をめぐり、蒲島郁夫知事が、支流の川辺川への治水専用ダム建設を認める方向で調整していることが11日、関係者への取材で分かった。これまでの川辺川ダム計画と異なるもので、洪水時だけ水をためる「流水型」ダムなどの施設を念頭に置いている。19日にある県議会全員協議会で考えを表明する見通し。

 川辺川ダムは、1963年から3年連続で球磨川水系で大規模な水害が発生したことを受け、旧建設省が66年に計画を発表した。蒲島知事は2008年、ダムに反対する当時の住民世論を受け、九州最大級のダムとなる川辺川ダム計画について「白紙撤回し、ダムによらない治水対策を極限まで追求すべきだ」との考えを表明。翌年、民主党政権が中止した。蒲島知事のダム容認は治水方針の転換を意味する。

 ダム計画の中止後、国と県、流域市町村はダム以外の治水策を協議し、流せる水量を増やす河道掘削や堤防のかさ上げなどを検討したが、実現しないまま豪雨災害が起きた。その後、県などはダムも選択肢から排除しない形で治水策を検討している。

 関係者によると、中止前の川辺川ダム計画は治水、利水、発電などに使う多目的ダムだったが、農林水産省の利水事業での不正を問う川辺川利水訴訟で03年に国が敗訴し、利水事業は休止に追い込まれた。発電事業者も撤退した。治水専用ダムは設置の根拠となる法律が異なるため現行計画の廃止が必要とみられる。その上で県は、河川環境を守るなどとして流水型の施設を検討している。

 蒲島知事は、ダムを含むハード面と、避難態勢づくりなどソフト面の対策を組み合わせて被害を減らす「流域治水」の考え方をとる方針。(伊藤秀樹、安田桂子、渡辺七海)

◆2020年11月12日 熊本日日新聞
https://this.kiji.is/699257607730676833?c=92619697908483575
ー川辺川ダム、熊本県が容認 球磨川治水対策 「穴あき」想定、19日にも表明ー

 熊本県の蒲島郁夫知事が、7月豪雨で氾濫した球磨川の治水対策の方向性について、支流の川辺川ダム建設容認を含めた「流域治水」を最有力候補として調整していることが11日、関係者への取材で分かった。ダムの構造は、環境への負荷が低減できるとして穴あきダムを含む流水型を想定している。詰めの協議を経て19日にも県議会で表明する見通しで、近く議会側に全員協議会の開催を要請する。

 川辺川ダムを巡っては、豪雨災害後に建設の是非を巡る議論が再燃。蒲島知事がダム建設を容認すれば、2008年に知事が表明した「白紙撤回」を抜本的に転換することになる。

 蒲島知事は11日に実施した河川工学の専門家への意見聴取後、報道陣に「まだ決まったことはない。住民の生命財産と、球磨川の環境、清流の両方を守るため、全ての選択肢を排除せずに考える」と述べた。

 7月豪雨では、球磨川で戦後最大とされる1965年の洪水を上回る大規模な氾濫が発生し、流域の50人を含む65人が死亡、2人が行方不明になった。県は国土交通省、流域12市町村と共に検証委員会を設置。国交省は10月、川辺川ダムが現行計画の貯水型で存在していれば「人吉市で浸水面積を6割減少できた」とする一方、ダムだけで今回の災害は防げなかったとする推計を公表していた。

 検証委の結果を受け、流域12市町村長でつくる協議会はダム建設を含む治水策を県に要望。県議会もダム建設を求める国への意見書を可決した。

 こうした動きを受け、県はダム建設を選択肢とし、流域首長からも要望が上がっていた流水型での構造を視野に検討。市房ダムの機能強化などのハード対策とソフト対策も組み合わせた「流域治水」とする方針。

 ただ、県が流域の住民や関係団体を対象とした意見聴取会では、「ダム反対」の意見も根強く、知事の判断に注目が集まっている。

 川辺川ダムは1966年、建設省(現国交省)が球磨川の洪水防止を目的に建設計画を発表。住民の賛否が割れる中、蒲島知事による「白紙撤回」表明の翌年に民主党政権が中止方針を決めた。(野方信助)

◆2020年11月12日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/663365/
ー川辺川ダム、容認へ 熊本県知事、近く表明 「流水型」軸に調整ー

 7月の熊本豪雨で氾濫した球磨川流域の治水策を巡り、熊本県が最大支流の川辺川へのダム建設を容認する方向で調整していることが11日、県関係者への取材で分かった。環境への負荷が比較的小さいとされる流水型ダム(穴あきダム)を有力な選択肢と考えており、ダムや堤防、遊水地などハード面の整備や改良と、避難などソフト面の対策を組み合わせた「流域治水」を進める方針。 

 関係者によると、近く開催を求める県議会全員協議会で、蒲島郁夫知事が正式に表明する見通し。脱ダムを基本としてきた球磨川の治水は大きく方針を転換することになる。

 川辺川ダム計画は国が1966年に発表。流域ではかねて反対が根強く、2008年に知事に就任した蒲島氏は最大受益地である人吉市長(当時)らの反対表明もあり、同年9月に「白紙撤回」を打ち出した。これを受け、国も09年に計画を中止した。

 流域では「ダムによらない治水」を検討したものの具体策がまとまらず、熊本豪雨では流域の50人が河川の氾濫で犠牲となるなど甚大な被害が出た。

 10月に開かれた豪雨検証委員会で、「川辺川ダムがあった場合、人吉市地点の浸水面積は6割減らせた」との推計を国が公表したことで、ダムの是非論が再燃した。県の治水方針が定まれば、国や県、流域12市町村などでつくる「流域治水協議会」が具体的な治水策の検討に入る。各市町村長からダムへの反対表明はない。

 蒲島氏は治水方針に民意を反映させるとして、10月半ばに始めた流域各地での意見聴取会で住民や団体約450人から意見を聞き取り、今月11日には河川工学の識者3人に流水型ダムのメリットやデメリットを尋ねた。聴取後の報道陣の取材に対し、「(流水型ダムへの)理解は深まった。関心を持って聞いた」と話したが、ダムを容認するかどうかについては「方向性は検討段階」と述べるにとどめた。(古川努)

【流水型ダム】普段は水をためず、豪雨などによる増水時に貯水することで、河川に流れる水量を調節する治水専用ダム。堤体に穴をあけて流水路を確保する形状が多く、「穴あきダム」とも呼ばれる。魚の遡上(そじょう)や土砂の流出を妨げないことで環境負荷が少ないとされる一方、流木で詰まるなどの懸念もある。島根県の益田川ダム、長野県の浅川ダムの例があり、熊本県の白川でも立野ダムを建設中。